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    フスキ

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    フスキ

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    春鍋さん(@yymnabe)と絵チャで合作させていただいた絵を元にした小説です。
    特命調査のあと、転送装置への攻撃ですいくんと離れ離れの本丸へ飛ばされたまろくんのお話。別個体(水麿)出ます。

    #水麿
    mizumaro

    どれだけ離れたって巡り会えるのさ(水麿)「本丸で、また会えたらさ」
     水心子はそう言ってはにかんだ。この世に数多の同位体を持つ自分たちだけれど、この彼のことだけは間違うはずがない。
    「今度こそいっぱい抱き締めるから、時間をかけて、好きだってこと伝えるから、……そうしたら、それからはずっと一緒にいてね」
     泣き出しそうな語尾は転送装置に飲み込まれて消えた。先に本丸へと迎えられていった水心子を見送る。
     政府職員が面食らった顔をしていた。これまで二人きりの時以外ではあんな柔らかい話し方をしたことがなかったのに、この施設での最後だったからなのだろうか。
    「…大丈夫、すぐに行くよ」
     そう呟く。本丸へ向かった水心子に反して、清麿はこれからまた江戸の地に赴くけれど、不安なんて微塵もなかった。
     水心子が迎えられていった本丸のものたちは強い。共に行動してそう感じた。これなら心配することなんてひとつもないだろう。
     事実、再度の戦力派遣はつつがなく行われ、あの地での任務は達成された。政府施設での後始末も済ませ、あとは水心子の待つ本丸へ行くばかり。転送装置に乗り込んで、職員が目的の本丸の番号を入力した時に、突如エラー音が響き渡った。
    「なんだ!」
    「クラッキングです! 座標が狂う、全本丸に通達を、――」
     そこで外の声はぷつんと切れた。

     それが自分の意識が落ちたためだったのだと分かったのは、目を開けた時だった。
    「起きた」
     目の前には水心子正秀。安堵したようなそうでないような、複雑な顔をしている。
     その顔は確かに焦がれた相手の顔だったのだけれど、清麿のほうは明確にがっかりとして眉をひそめた。
     ――その『水心子正秀』が、自分の彼でないことはすぐに分かったから。
    「君じゃない。……君じゃ、ないね」
     布団に寝かされた状態で、はっきりと問いかけた清麿に、その水心子正秀は驚いたようだった。
    「……状況判断が速い。さすがは源清麿だ」
     ね、と彼が視線を送ったのは清麿を挟んで反対側。そちらを向くと、自分とは別の源清麿が微笑んでいた。
    「そうだよ。この水心子は、僕の水心子。……君は、本来来るべきではない座標に落とされた」
    「まあ、早い話が、迷子だ」
     まいご、と呟きつつ身体を起こす。部屋を見回すと、そこは大きな和室だった。本丸として使用される屋敷は和風建築が多いと聞いた。ここも、確かに本丸なのだ。
     自分が行くはずだった場所ではない、どこかの。
    「……あの」
    「分かっているよ。本当に行くべき場所に行きたいよね」
     源清麿は同情的な視線を寄越した。手元の通信端末をいくつか操作して、ひとつの画面を見せてくれる。
    「君がここに転送されてきたのが昨日なのだけれど、その昨日、政府施設へのハッキングと攻撃があったんだ。全本丸のデータ上の位置情報を掻き回されたようで……君はそれに巻き込まれたんだね」
    「転送システムが正常に作動しなかった。座標がすべて狂わされたのだから当然だが……それで君は本来行くべきだった場所ではなく、書き換えられた座標に位置していたこの本丸へ転送されてしまったんだ」
    「ど、どうしたら戻れるの?」
     全本丸に関わることだったのなら、きっと水心子のところにも通達が行っている。彼はきっと心配しているだろう。早く顔が見たかった。
     けれど水心子正秀はうぅんと唸る。
    「我が主が今、政府と連携して調べているが…なにせ特命調査の期間中だ、僕らの同位体なんていくらでも転送装置を使用していた。つまり巻き込まれたのは君だけじゃない、数が多すぎるんだ。向かうはずだった座標を書き換えらえているから、簡単に特定できない……」
    「……」
    『本丸で、また会えたら』
     今頃とっくに会えているはずだった水心子の声が蘇る。君はどこにいるの。僕はどこへ行けばいいの。叫び出したかった。
     俯いて歯ぎしりしそうになった頭が、ふいに温かいものに包まれる。驚いて目を見張ると、それは自分の同位体の腕の中だった。
    「大丈夫だよ……会えない訳じゃない。絶対に、君は戻ることができる」
     深呼吸して、と背中をさすられて、やっと息をした。無意識に呼吸を浅くしていたようだった。
    「アナログ的な対応になってしまっているから、不慣れな職員たちは喘いでいるようだけれど、それはただ時間がかかっているだけだから。着実に復旧は進んでいるから、その時まで君はここで待つといい」
    「君の配属先だって、きっともう届け出ている。互いに探し合っていれば、倍の速度で見つかるさ……大丈夫だ、源清麿」
     涙が落ちそうになった。もし父や母がいるのならばこんなふうなのかと思う。同位体の腕は優しく、どこか柔らかい。自分もこうなのだろうか、自身では分かりようもないことだけれど。
     それにしても、と水心子正秀が笑う。不思議に思って向くと、彼は少しだけ頬を染めていた。
    「……眼福な光景だな」
     二人の源清麿が抱き合う姿を、彼はそう表現した。もう、と照れたような呆れたような声を同位体が上げる。
    「三人でどうこうしたい、とか言わないでよ。言ったら口きかないからね」
    「言わないよ、それ清麿が思ってることだろ」
    「ん、な、なんてこと言うの…! ほんと、もう、口きかないから!」
    「えっ、ごめ、きよまろぉ!」
     水心子正秀の情けない声。清麿は笑いだしてしまった。どうやらここの自分たちも恋仲らしい。本丸に先に暮らしているからだろうが、関係もずっと先をいっているようだ。
     ――ねえ、僕らもこんな話ができるかな。
     笑っていると、微笑んだ同位体が頭を撫でてくれる。水心子正秀が背中に触れた。
    「……ここにいる間、歓迎する。君が帰れるように尽力するから、心配せず、短いだろう時間だが仲良くしてくれ」
     はっとして清麿は同位体の腕を離れ、姿勢を正した。伸ばした背筋を折り曲げて、よろしくお願いしますと頭を下げた。

     二週間が過ぎた。まだ本来の居場所へは帰れていない。そのうちに天保江戸への経路も閉ざされて、清麿はいよいよ戻る場所がなくなってしまったような心地になって膝を抱えた。
     ここの審神者も優しい人で、職務も多いだろうに積極的にこの問題に時間を割いて動いてくれている。
     政府機関の処理の遅さが予想外だった。どうやらクラッキングは相当のものだったようで、デジタルに慣れ切ったこの時代の職員たちにはアナログでの修復作業はあまりに専門外らしい。やっと帰れる同じ境遇のものたちが数人出てきた程度だった。
     周囲が寝静まった時間の縁側、月を見る。月ならば、きっと水心子と同じものを見られるのではないかと思ったから。
    「冷えてしまうんじゃないかな」
     ふわ、と何かを肩にかけられる。振り返れば、そこには同位体がいた。遅い時間だが湯上りなのか、普段よりも血色のいい肌をわずかに覗かせた浴衣の上に半纏を羽織っていた。
     自分にかけられたものも半纏だった。ありがとう、と言うと、彼は首を振って横に腰を下ろした。
    「……同じ月を見ているといいね」
     どうやら分かってしまうらしい。さすがは元を同じくした存在だ。隠し事ができないとなると、なんだか甘えたくなってしまうのがよくないことだとは知っている。
     それなのに弱音は漏れだした。
    「……僕と、水心子の糸は、弱かったのかなあ」
     抱えた膝に額を押し当てる。同位体は黙って窺っていてくれた。
    「繋がりが強かったら、もっと……もっと僕たちが結びついていれば、こんなことは起きなかったのかな」
    「……今回のことはシステムへの攻撃が引き起こしたことだよ。それ以外のことは関係ない。一切ね」
    「そう……なのかな……」
     なんだか泣き出したい気持ちでそう呟くと、同位体の手が頭を撫でてくれた。
    「不安になってしまうのは当たり前だ。気持ちは分かるよ……けれど、君の水心子への想いを、君の水心子の君への想いを、疑ってしまうのはよくないね」
     今頃必死に探してくれている君の水心子が、そんな言葉を聞いてしまったらどう思うかな? そう問われて、あ、と口を覆った。
     水心子。探してくれて――いる、きっと。任務達成から二週間も会えないなんて、お互いに思ってもみなかった。抱き締めて愛を伝えさせてと、あんなに言ってくれたのに、自分は一人不安なつもりで。
    「……ごめんね、水心子……」
     伏せた頭を、また同位体が撫でてくれる。
     自分は恵まれているのだ、とても。クラッキングにより飛ばされる先が穏やかな本丸ばかりだとは限らなかった。けれどここには優しい審神者がいて、同位体と、それを愛する水心子正秀がいて。
     本当に、幸運だった。そう思えたら前を向く気持ちになった。ここでできることはさせてもらっている。道場の隅で鍛錬をして、味噌汁の作り方も教わった。行くはずの本丸に迎えられても、きっと何か役に立ちたい。
     そのために勉強をさせてもらおう。そうしてその時を待とう。そうしたらきっと、あの腕で――。
     外の砂利が、鳴く音がした。
    「……月が、綺麗だな」
     ――声が聴こえた時、泣いてしまうかと思った。それはやはりどうしたって、他の同位体とは間違えようもない声だった。
    「……水心子」
     顔を上げた先、月明りの下、ジャージ姿の水心子が肩を上下させて立っている。それはここの同位体が着ているのと同じ、恐らく内番着。
    「……え? え、あれ? どう、して、」
    「きよまろ」
     状況が飲み込めない清麿に向けて、彼はまっすぐに歩んできて抱き締めてくれた。隣には同じ顔の源清麿がいるのに、彼もまた、何の迷いもなく。
     触れて初めて、彼が息を切らしていることが分かった。急いで、走ってきたのだ。だから内番着だ、正装に着替える暇も作らなかった。
     回された腕が、確かめるように背中をさすってくる。そうして涙交じりの声が耳に届いた。
    「……遅れてごめん。でも、探してた、ずっと……どこにいるんだろうって、なんでこんなことが起こったんだろうって、悔しくて、君に会いたくて……会いたかった、会いたかったよ、きよまろ」
    「あ、……すい、しんし」
    「愛してる、僕の清麿。……一緒に、僕たちの本丸へ、帰ろう」
     ――迎えに来たよ。
     ぼろぼろと涙が落ちた。水心子のジャージに染み込んでいく。怪我を負って痛い時でも、任務が上手くいかなくて自分の存在が危うくなっても漏らしたことのなかった嗚咽が今は止まらなかった。
    「良かったね、……僕」
     肩を撫でられる手が同位体のものだということはすぐに分かって、清麿は必死にそちらを向いた。ありがとうを言いたいのに、少しも上手く話せない。
     それでも同位体は何もかもを許すように、大丈夫、分かっているよ、僕は君と同じだからね、と優しい言葉をかけ続けてくれた。

     そのままその本丸には別れを告げることになった。頭を下げ合う審神者たちの横、同位体と水心子正秀と少しだけ話をした。
    「手に入れたら、放すなよ」
     水心子正秀は、清麿の水心子にそう言った。水心子は真面目な顔で頷いたあと、少し言いづらそうにしながら、『……手は出していないだろうな?』と尋ね、同位体二人に爆笑された。
     演練で会えたらよろしく。そう交わして、転移装置を使った。最後まで穏やかな目を向け続けてくれたあの源清麿のようになりたいと、心の底から思った。

     本丸へ迎えられたのは、その日の深夜になった。着いた時点で外は警備のための微かな灯りが点されているばかりだったので、ここがどんな外観なのかを知るのは明日になる。
     今日はひとまず寝たほうがいいとここの審神者に言われ、水心子に手を引かれて二人で廊下を歩む。遅いからだろう、本丸は静まり返っていた。
    「二人部屋なんだ。清麿が来るの、ずっと待ってた。服とかも全部揃ってるよ、清麿にも内番着がちゃんとあってね」
    「そうなんだ。楽しみだな……水心子、ジャージも似合うね」
     小声でそう囁きながら歩き、案内された部屋に入る。ここも和室だ。二人部屋だからかあの本丸よりもさらに大きいな、なんて笑っていると、急に彼の両腕に抱き寄せられた。
    「水心子?」
    「いいんだよね?」
     顔を下ろせば、涙を纏った彼の瞳。忘れ得ぬ若葉の芽吹く色。
    「……もう、ずっと一緒でいいんだよね? もうどこへも行かない? 怖いよ清麿、……出陣しても、遠征に出ても、もしかしたらまた君がいなくなってるかもしれない……っ」
     今度は彼が泣く番だった。堰を切ったように涙を落とし始める水心子を、清麿は必死に掻き抱いた。
    「水心子、ごめんね、どこにも行かないよ……もう離れたりしないから、だいじょうぶ、ずっと傍にいるよ、一緒だよ……すいしんし……」
     清麿のほうも涙が浮かんだ。同位体の言う通りだった。
     清麿ですら休んでいた夜中に、水心子は内番着のまま走り回っていてくれたのだ。そうして迎えに来てくれた。きっと今日ばかりではなくて、あの日から二週間、ずっとそうしていてくれた。
     強く抱き締めて、肩口に顔を埋める。立ったまま抱き合い、その夜はずっと身を寄せ合っていた。

     この本丸へ、正しく配属されてから、もう二週間。あの本丸で過ごしたのと同じだけの日々が過ぎていた。
     誤った先ではできなかった出陣や遠征もこなせるようになった。離れる任務の時は水心子は今でも不安そうな顔をするけれど、それも清麿が包み込むべき彼の愛らしいところだと思う。
     馬当番を終えた清麿は、部屋の奥の間で着替えて襖を開けた。すると帰ってきた時にはいなかった水心子がいて、座布団に腰を下ろして座っていた。
    「水心子。おかえり、シャワーでもしてきたの?」
    「うん。畑当番だったから、汗かいちゃって」
    「僕も浴びてくればよかったかな……やっぱり今から行こうかな」
     立ったまま思案していると、彼の手がちょいちょいと呼んだ。なんだろうと思い近寄ると、腕をぐいっと引かれ足の間に座らされた。
     後ろから抱き締められ、首筋に寄ってきた鼻が、すん、と鳴る。――匂いを嗅いだのだと分かって、全身がぶわっと熱くなった。
    「すい、しんし! だめ、やめて嗅がないで、僕お風呂行ってくるから! やだ!」
    「待って、分かった嗅がないから、もうちょっとこうしてて!」
     お願い、なんて懇願されたら敵う訳がない。抵抗もできずまた腰を下ろすと、再度きつく抱き締められた。
    「……内番着の清麿、嬉しいんだ。ここの清麿なんだって、証明してるみたいで」
     頭を肩に乗せられて、胸がきゅうっと締めつけられる。腹に回った手を覆うと、彼の片手が持ち上がって清麿の頭を撫でた。
    「髪の毛……ふわふわ、僕の、きよまろだ」
     ふふ、と笑う彼がせつない。背中を少し彼にもたれて、清麿は微笑み囁いた。
    「……大好きだよ、水心子」
     届いて欲しい。窺うように黙る君に。
    「僕は君のもので、君だけを愛している。……君から離れたりしないし、たとえ何かあって離れることがあろうが、また必ず君のところへ帰ってくるよ。……分かったんだ、僕らの絆ってね」
     ――お互いにびっくりするくらい強く引き合っているから、引き伸ばされて細く頼りなく見えるけれど、実際はとても太いし頑丈だし、それだけ伸縮性もあるから、多少離れたくらいなんてことないんだよ。
     肩口、水心子が流し始める涙の気配が愛おしい。彼の手が強く頭を引き寄せてきて、振り向いて見えたその泣き顔とキスをした。

     離れていた時間はつらかったけれど、そうなってもまたこの絆は手繰り寄せられるのだと分かったのだからある意味儲けものだったのかも、なんてことを思うんだ。
     僕は案外図太かったらしい。それもまた分かったこと。こうやってたくさんのことを学んで、覚えて、世界の役に立って。
     ――そうして一番大切な君の笑顔を、好きだという言葉を、抱き締められる温度を受けていられたら、きっと僕は世界一のしあわせものだ。
     もちろん、一人ではそんなものにもなったりしないけれどね。そんなふうに思いながら、背後から抱えられた水心子のほうへ背中をぐいーっと倒したら、彼は苦しそうに名前を呼んで咎めて、それから可笑しそうに笑った。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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