少し考えてから、杉元は起き上がった。グズグズしている暇はない。早くしないと尾形が寝てしまう。自分の部屋を出て、隣の部屋のドアの前で止まる。隙間から、灯りは漏れていない。ほんの少しだけ逡巡してから、おずおずとドアを開けた。
「尾形……もう寝た?」
部屋には入らず、半分くらい開けたドアから顔を覗かせると、ベッドに腰掛けている尾形の姿が見えた。
「今から寝る」
尾形の疲れた表情は、暗がりでもわかる。杉元は、次に言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
「え、ええと……」
「何だ。用があるなら早く言え。俺はもう寝るぞ」
尾形の声が苛立っている。杉元は一度飲み込んだ言葉を、思いきって口に出した。
「い、一緒に寝てもいい?」
すると、疲れ切って死んだようになっていた尾形の目が、大きく見開かれた。どういう類の反応なのかわからず、杉元が怯んでいると、ぽんぽんとベッドを軽く叩いて手招きされた。
「早く来い」
拒まれなかったことに安堵して、杉元は尾形の部屋に入った。二人で横になってもギリギリじゃないサイズのベッドに上がり、ちゃんとスペースを空けてくれている布団の中に潜り込む。ベッドは一つで充分だったかなと思うこともあるけれど、やっぱり一人で眠りたい夜もある。だけど、今夜はきっと、一人では眠れない。
「杉元」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
尾形は何かを言いかけて、何も言わずに杉元の肩を引き寄せた。ぴったりとくっつくと少し暑いけれど、安心できる。
「おやすみ」
「ああ」
尾形が目を閉じたのを見つめてから、杉元も目を閉じた。風呂上がりの体温を感じながら、眠りにつける……はずだった。