何回言ったら信じてくれますか 思春期の生徒が教師に想いを寄せるのは、身近に惹かれる存在が少ないからだ。
歳上であることで同世代とは違う落ち着きや経験の差があり、自身を向上させる的確な導きをくれる存在となれば、特別視して憧憬を抱くこと自体に疑問はない。それが恋になることも有り得ることだ。ただ、そういった想いが卒業後も持続するかどうか。それについては懐疑的にならざるを得ない。
卒業して進学あるいは就職すれば、今までに出会ったことの無い人間と数多く接点を持つ。今までにない環境とともに、そうした新たな出会いを経てもなお、学生時代に世話になった教師に対しての気持ちを持ち続けられる人間など、そう多くはないだろう。
だから彼女にも、将来、私の他に良い相手が見つかるはずだ。
「君も卒業すればわかる」
「私はずっと篠森先生が好きです」
――事細かに説明してもこれだ。
真っ直ぐに私を見つめる彼女は、随分と諦めが悪い。これでもう四度目の告白。鬼教師と呼ばれる私に告白する無謀な生徒は今までにもいたが、容赦なく切り捨てればそれで諦める者がほとんどだったというのに。彼女のように頑なに、何度もアタックを仕掛けてくる生徒はそういない。
「ハッ……では、君は卒業した後にもまた同じ言葉が言えると?」
込み上げそうになる感情を堪えてそう返せば、彼女は一瞬、目を見開いた。そしてすぐに口角を上げてにっと笑い、挑戦的な瞳に熱が灯る。
「言えます。卒業して、進学しても、ずっと同じことを言いに来ます」
してやったり、という歓喜の感情が表情から透けて見える。卒業してからも想いを告げに来ると宣言し、実際にそうして、自分の気持ちを証明してみせると張り切っているんだろう。未来の出会いの可能性などには一切、目は向けないと。
――言ったな?
そう思えど言葉には出さない。彼女のように笑みも浮かべない。彼女が私に挑む熱意を忘れないように、恋しく想う気持ちを手放さないように。私はまだ難攻不落の存在であるべきだ。
「好きにしなさい」
努めて呆れを含めた声で言えば、瞳を輝かせて、はい、と大きく頷きを返してくる。
一瞥して、もう話はないな、と踵を返す。背後でよしっ、と小さくつぶやく声がして、彼女に見えないとわかったところでふっと笑う。
――言質を取られたのは君自身だよ、朝日奈さん。
その場を後にする足取りは存外、軽かった。