その盲人は杖の先の感覚を頼りに旅を続けていた。
彼の名はプロシュート。
多眼の怪物に目を奪われプロシュートは視力を失った。彼は村の掟で贄に選ばれてしまったのだ。
プロシュートはそんなしきたりを終わらせたくて多眼の怪物を倒せる青龍を探す旅を始めた。
海に棲む青龍は長い長い年月を生き、時折人の姿を借りては地上に現れ、願いをひとつだけ聞いてくれるという伝説があった。
プロシュートは兎に角潮風の香りのする方へ向かって歩き続けた。波の音にもうすぐ目的地が近い事を悟る。
「青龍……居ねぇのか?そこに居るんだろ?」
人の気配に呼び掛けてみると、まだ幼子らしき声が返ってきた。
「誰ーー!?」
あからさまに警戒されプロシュートは開かない瞼を向け敵意がない事を杖を手放して示した。
「オレはただの盲人の旅人だ。青龍を探している」
プロシュートの言葉に少年は小さく鼻を啜った。
「青龍なら、もういねぇよ」
「居ないだと?」
「青龍の血は不老不死の薬になるって、殺された」
小さく嗚咽をする少年にプロシュートはふらつく足で歩み寄った。
「遅かったのか、オレは」
不思議と絶望感はなかった。プロシュートはただあの閉塞的な村を捨てて出て行く理由が欲しかっただけなのだ。自分と同じように盲人となる者がもう二度と出ないようになどと大義名分などもはや彼には存在していなかった。見捨てる事に罪悪感はあったが、いずれにせよあの古い風習の残る村はもう長くは続かないだろう。
「あんたも、オイラを殺すのかい?」
少年は近付こうとするプロシュートに明らかに怯えていた。
伸ばしかけた手を降ろしプロシュートは屈み込む。
「お前は青龍の子なのか」
「あんたが望むなら、その目を治すよ。願いを叶える代わりにオイラを逃がしてくれるのなら」
プロシュートは押し黙った。
この哀れな目の前の少年の姿を一目見て慰めてやる事が出来れば、と考えてから小さく頭を横に振る。
「オレを青龍に変えてくれ」
「えっ」
思わず、といった風に息を飲む気配にプロシュートは続けた。
「まだ小さくてもその力はある筈だ」
双竜岬。そこには不思議な昔話が残っている。
番となった金の鬣を持つ青龍と緑の鬣を持つ小さな青龍が、まるで寄り添い合うように海を泳ぎ、それを見た者には幸運が訪れるという。