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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフコラロ海軍if
    (+しちぶかい鰐野郎)
    ドフ鰐風味
    皆で巨悪に立ち向かうお話(前編)

    サッドマンズ・パレード 前編『あァ?人身売買組織?そんなもの、この世にゃァゴマンとあるんだぜ。それを全部取り締まるつもりかね。ミスター。』

    ワーワーと、泣き叫び、パニックに陥った船内を"王下七武海"、"サー"・クロコダイルは悠々と歩く。

    「ホラやっぱり!"言わんこっちゃねェ"!!"あんな事"するから!!目を付けられたんだ!!」

    甲板で武器を構える人間は、既に半数以下。
    ふぅー、と、つまらなそうに葉巻の煙を吐き出すと、その体がサラサラと砂に変わった。
    グランドラインで幅を利かせる、人身売買組織。
    海軍本部からその組織の討伐を命じられたクロコダイルは、情報通りに現れたその組織が保有する船を、指示通り襲っている最中だ。
    『何故組織の"アジト"では無く、態々奴隷の"輸送船"を狙わなきゃならん。』
    『海のクズが、"上の指示"に、いちいち疑問を抱くな。』
    センゴクから伝えられたその腑に落ちない作戦に、クロコダイルは未だ納得してはいない。
    ただ、それをどうこうしようと思う程、正直興味も無かった。
    パァン!と、乾いた音がして、クロコダイルの顔面が弾ける。
    舞った砂塵に、怯えるのは撃った張本人だ。
    ギラリと、クロコダイルの右目が光を放つ。
    (・・・キナ臭ェな。)
    その右手から、砂嵐が現れた。











    「・・・助けて!!!」
    砂に埋もれた甲板で、討伐の後始末に奔走する海兵を後目に、人気の無い瓦礫の影に佇むクロコダイルは随分と下から上がった声に目だけを向けた。
    ボロボロの服を着た薄汚れた少女が、その黒いコートの裾を掴んでいる。
    「アー、奴隷は皆開放だ。良かったな。あっちで海兵のお兄さん達に同じ台詞を吐き給え。きっと助けてくれるだろうさ。」
    「"海兵"は駄目!!貴方、海賊でしょう?!お願い!助けて!私の他にも沢山捕まってる子がいるの!!」
    「あァ?」
    必死に叫ぶその少女に、クロコダイルは面倒臭そうに眉間に皺を寄せた。
    「世間的には、海賊の方が駄目だろうよ。それに、お前なんか助けて、おれに何の得がある。」
    「・・・教えてあげる。」
    その瞬間、少女とクロコダイルの間に風が吹き抜けて、砂塵が舞う。
    少女の瞳が、嫌に暗く、空洞のように見えた。
    「・・・助けてくれたら、教えてあげる。」
    やけにスローモーションで動いたその口が、子どもとは思えぬ妖艶さを持って開く。
    そのアンバランスさに、クロコダイルの背筋がゾクリと揺れた。
    「・・・"ポセイドン"。その、在り処を。」

    ######

    「セタス・・・、サイモン、ノストラ・・・。オイオイ、もう三人も世界政府のお偉いが"海難事故"で死んだぜ。フッフッフッ。天罰かな。」
    「滅多な事を言うもんじゃないよ、ドフラミンゴ。」
    「そうだったな、おつるさん。"口には気を付ける"。この前約束したばっかりだ。」
    ポイ、と、手にした新聞を投げ捨てて、ご機嫌な手付きでコーヒーカップを持ち上げたのは、海軍本部"中将"ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
    スモーキーピンクのダブルスーツに、"正義"の文字が書かれたコートを引っ掛けたその出で立ちに、つるはため息を吐いて瞳を向けた。
    「"上"が、そう判断したなら、それは"海難事故"なんだ。いいこだから、首を突っ込むんじゃないよ。」
    「フッフッフッ。おつるさんが一緒に蕎麦食いに行ってくれたら、大人しくするぜ。」
    「お昼くらい、いつでも一緒に食べてあげるから、ほら、もう自分の執務室にお戻り。」
    つるの執務室に何かと遊びにくるドフラミンゴを、正直かなり可愛いとは思っているが、今はまだ業務時間である。
    "大参謀"の顔でドフラミンゴに言えば、その男は素直にソファから立ち上がった。
    「なァ、おつるさん。あんた、おれに何か隠してねェか?」
    不意に、ドフラミンゴの瞳がサングラスの奥で細くなる。
    ぶつかった視線に、つるは何の感情も表さなかった。
    「・・・馬鹿な事を言うのはおやめ。隠し事なんて沢山あるに決まっているじゃないか。」
    「オーオー、悲しいねェ。」
    ドフラミンゴはヘラヘラと口元を歪めて、本気とも取れない言葉を並べる。
    つるがそれをあしらうと、そのデスクに置かれた電伝虫が間抜けに鳴き声を上げた。
    「ほら、はやく、お戻り。」
    「へーいへい。じゃあ、昼は蕎麦な。おつるさん。」
    ドフラミンゴが大股で出て行くのを見届けてから、つるはその受話器を取る。
    電伝虫は、がちゃ、と、これまた間抜けな声を上げた。
    『"大参謀"。"七武海"サー・クロコダイルの任務が完了しました。組織の輸送船は壊滅。奴隷として輸送されていた人々は無事保護致しました。』
    「そう、ご苦労だったね。」
    『・・・しかし、』
    「・・・どうかしたのかい。」
    言い淀むその受話器の先に、つるは僅かに眉を顰める。
    『・・・"件の"少女がいません。』
    その言葉に、つるの口元が、僅かに震えた。

    #######

    「よォ。大手柄だったらしいな、わ、に、やろ・・・。」
    「・・・。突然入ってくるんじゃねェよ。」
    討伐任務を終えたクロコダイルが、一度海軍本部に顔を出すと風の噂で聞いたドフラミンゴは、軽い足取りで王下七武海用の貴賓室に向かった。
    ノックもせずに扉を開ければ、死ぬ程不機嫌な顔で頭を抱えた"鰐野郎"と、
    「・・・わ、鰐野郎、おま、おれというものがありながら。どこの女と・・・。」
    「死ね。」
    その鰐野郎の膝にちょこんと座った少女に、ドフラミンゴは大袈裟に崩れ落ちた。
    予想の斜め上を行く反応に、クロコダイルは率直に返す。
    「・・・まずはドアを閉めろ。バレると厄介だ。」
    「あァ?なんだ、"訳有"か?」
    どうやら"隠し子"では無いようだと悟ったドフラミンゴが復活し、我が物顔で向かい合うソファにどかりと座った。
    明らかに警戒する少女の顔を無遠慮に覗く。
    「あー、こいつは、まァ、大丈夫だ。他の海兵と違って馬鹿だからな。」
    「そうなんだ。良かったわ。」
    「オイオイ、ホントに隠し子じゃねェだろうな。憎まれ口の叩き方がお前にそっくりだぜ。」
    ドフラミンゴが人知れず傷付いたところで、ドアの外でバタバタと煩い足音がした。
    クロコダイルの眉が吊り上がった一瞬後に、その扉がノックされる。
    クロコダイルは面倒臭そうに立ち上がると、少女の首根っこをまるで猫のように掴み、ドフラミンゴの膝に乗せた。
    何となく、ドフラミンゴは少女を自分のコートの中に隠す。
    「・・・何かね。」
    「お休みのところ申し訳ありません。・・・件の少女の件で、」
    「何度目だ・・・。おれは知らん。今後は"保護"しなきゃならんガキが居るなら初めに教えてくれ給え。
    ・・・おれが出りゃァ、全て砂になる事ぐらい察しはつくだろうが。きっとそのガキも、今頃海底の泥の一部だろうよ。」
    「・・・は、はい。申し訳ございませんでしたッ!!」
    ギラリと、睨み付けてやればその"下っ端"は、震える手のひらで敬礼をした。
    それを見もせずに、クロコダイルは大きな音を立てて扉を閉める。
    「・・・・・・・アー、おつるさんが探してるガキか。鰐野郎。おつるさんに迷惑掛けてんじゃねェよ。」
    「うるせェぞ、マザコン野郎。その探してるガキが、このお嬢さんとは限らねェだろうが。」
    「オイオイ、相手はあのおつるだぜ。マザコンぐれェなるに決まってんだろォが。」
    「・・・そっちかよ。」
    輸送されていた奴隷の人数が、事前に入手していた販売リストに載っていた数と合わないと、海軍本部は多少バタついていた。
    表向きは、保護すべき一般人が海軍本部の攻撃で死亡したなど大問題だという理由で、海兵達はその居なくなった少女を探している。
    「で、お嬢ちゃんは一体何者なんだよ。一応言っとくが、あの鰐のオジサンはおれのだからやらねェぞ。」
    「教育に悪ィ事は言うんじゃねェよ。」
    ペラリと、コートを捲って、その中で膝を抱える少女を再び覗き見た。
    当の本人は逡巡するように視線を泳がせてから、ドフラミンゴを見上げる。
    「私以外にも、捕まっている子が沢山いるの。その子達も助けて欲しいの。」
    「・・・そういう事だ。」
    「へェ。お前が人助けねェ・・・。更生したんならそのまま海兵になったらどうだ。」
    意味深に見上げてくるドフラミンゴを一瞥してから、クロコダイルはソファに座り直し、葉巻に火を点けた。

    『ポセイドン・・・。何故テメェみたいなガキが、その古代兵器の名を知っている。』
    『・・・教えてくれたの。"海王類"達が。"それ"がポセイドンっていう古代兵器だと言う事は、人間から聞いたけど。』
    『海王類と、話せるのか。』
    『話せるわけじゃないわ。"聞こえる"の。』

    死体だらけの甲板で、少女と交わした会話を思い出す。
    この少女の"オトモダチ"を開放するだけで、古代兵器の在処が知れるなら随分と安い物だ。
    例え嘘だとしても、損失は無い。
    そんな軽い気持ちで、クロコダイルはその小さな少女を自分のコートに隠して連れ帰った。
    (・・・しかし、)
    嫌な予感が足元を這いずり回る。
    神の名を持つ古代兵器。たかが小娘一人の行方に、騒然とする海軍本部。"万物"の"声"を聞く女。
    知る者はそう多くない、古代兵器の存在を、この小娘に教えたのは、一体誰だ。
    「んで?そのアジトはどこにあるんだよ。」
    「・・・"月下香"。」
    突然思考に割り込んだドフラミンゴの声で、クロコダイルは視線を上げる。
    すっかりドフラミンゴを信用したのか、少女はその島の名前を口にした。
    「月下香・・・。そうか。」
    その瞬間、ドフラミンゴの瞳が光を含む。
    それを見逃さなかったクロコダイルは、這い上がってきたその"嫌な予感"が肌を焼く、奇妙な感覚を覚えた。

    ######

    「ロシナンテ准将、トラファルガー大佐。本部より連絡です。」
    「ん?おお、ありがとう。お前らももう休め。」
    数々の風俗店が立ち並び、深夜まで明かりが消えない、グランドライン屈指の歓楽街。
    人類人外蔓延るこの海の、千差万別の性癖全てを網羅する、海の男達の楽園の名前は、"月下香"。
    その島を拠点に人身売買を行っていた組織の輸送船から消えた少女を、探す為にロシナンテ達はこの島を訪れていた。
    「ああ、おつるさん。・・・え?うん、食べたよ。ちゃんと食べた。ロー?ああ、ローもおにぎりたくさん食べてたよ。野菜?うん。食べた食べた。」
    「・・・実家かよ。」
    海軍が港に張ったテントの中で、差し出された電伝虫を取ったロシナンテの言葉に、ローは溜め息を吐く。
    あの大参謀は、自分達をまだ子供だと思っている。
    『・・・それで、見つかったのかい。』
    「いーや。組織の残党も捕えたけど、アジトにはもう誰もいねェ。売られていた人達も、殆ど輸送船に乗ってたみたいだ。」
    『そうかい。』
    「これだけ探していないんだ。多分ほんとにクロコダイルさんが砂にしちゃったんじゃ・・・。」
    『それで・・・上が納得してくれればいいけどねェ。』
    「なァ、おつるさん。"上"って、誰だ。センゴクさんじゃねェよな。」
    ロシナンテの言葉に、受話器の向こうで息を呑む音がした。
    そうだ。ずっとおかしい。
    元奴隷の少女が、どこかで泣いているなら探し出してやりたいし、保護してやりたい。
    (ただ、)
    "そんな事"を思う程、人間らしい生き物が、この海軍本部の"上"に居るとは思えなかった。
    『お前たち兄弟は、本当に危なっかしくて見てられないね。いいこだから、変な詮索はおやめ。ロシナンテ。』
    つるの言い様に、ロシナンテは少しだけ笑う。
    自分の兄が、"おかしい"と思ったなら、恐らくそれは暴かれるだろう。
    「おれはドフィより頭が良くないから、大丈夫さ。おつるさん。ドフィが首を突っ込まないようにちゃんと見張っててくれよ。」
    もう、遅いとは思うけど。
    そんな笑えない事を思ってロシナンテは受話器を置いた。
    「帰還命令か?」
    「いや。まだ探さないとみたいだ。・・・とりあえず、今日はもう休もうぜ。また明日の指示を待つ。」
    「海軍本部総出で、馬鹿馬鹿しい限りだな。」
    「そう言うなよ。・・・行こう。今日は外で泊まろうぜ。」
    テントを捲って外に出たロシナンテは、不機嫌そうなローを宥めながら、煙草を咥えて火を点ける。
    「外って・・・。売春宿しかねーだろ。」
    きらびやかな街の明かりは、まだまだ健在で、ローは眩しそうに瞳を細めた。
    ロシナンテについて行く形で繁華街に足を踏み入れれば、早速半裸の娼婦達が猫撫で声で勧誘してくる。
    「コラさん・・・おれはもう帰りたい。」
    「そう言うなよォ〜。かわいい子一杯いて良いじゃねーか。海軍本部とはえらい違い。」
    「・・・ヒナ屋とメガネ屋に言っとく。」
    「お願いヤメテ。」
    (そもそも、輸送船内で消えたなら、こんなところにいる筈がない。)
    ローは誰にでも分かるその答えを思って、担いだ大刀を握り直した。
    "やってる感"を出さなきゃいけないのは、この組織の常だが、本当に馬鹿馬鹿しい限りである。
    「あ。」
    「・・・チッ。」
    「おお?」
    「・・・。」
    ピタリと、前を歩くロシナンテの足が止まった。
    "見知った"大男が二人、正にばったりという様相で目の前に現れたのである。
    四者はそれぞれが、それぞれらしい反応を示した。
    「・・・ドフィ!クロコダイルさん!!」
    「ロシー!ロー!奇遇だな!」
    相変わらず仲が良すぎる兄弟が、手を振り合う横で、クロコダイルのコートがもぞりと動く。
    「馬鹿野郎!出てくんな・・・!」
    クロコダイルは珍しく焦ったようにその"小さな頭"を掴むが、もう遅い。
    ひょっこりと、その背中から出てきた少女に、ロシナンテもローも、見覚えがあり過ぎた。
    「「・・・ッんな!!!!!」」
    ロシナンテとローが叫んだ瞬間、その懐からひらりと写真が落ちる。
    その写真には、目の前の少女と同じ顔が写っていた。

    ######

    「イヤイヤイヤ、まずいだろドフィ!!海軍本部総出でこの子を探してるんだぞ!!」
    「別に良いだろォが。このお嬢ちゃんのオトモダチを助けてから見つかったって事にすりゃァ。」
    「ふざけんなハゲ!!おれとコラさんは、本当なら明日から一週間有給取って温泉行く予定だったんだぞ!!それをこんなくだらねぇことで潰しやがって・・・!!」
    「誰がハゲだクソガキ!!しかも温泉旅行だとォ・・・?!兄上も誘えよ!!」
    「・・・オイオイ馬鹿共。いい加減にしねェか。全員砂になりてェのか。」
    路地裏に引っ込んだ四人と少女は、ロシナンテの能力で作り出した無音の空間で、ここぞとばかりに取っ組み合いの喧嘩を始めた。
    それを眺めていたクロコダイルと少女は、引いたように同じタイミングで溜め息を吐く。
    「つーか何で?!何でクロコダイルさんこの子の事隠してるんだよ?何か訳有か?」
    「助けてくれと言われてな。・・・人助けさ。クハハハ。」
    「それなら別に、海軍に引き渡しても一緒だろうが。何を企んでやがる。」
    いきなり向いた矛先に、クロコダイルは何でも無いように笑ってみせた。
    それに、眉を顰めたのはローである。
    「お嬢さんが"海軍"は、"駄目"だと言ったのさ。そもそも、お前らもおかしいと思っているんだろう?元奴隷の小娘一人にこの大騒動。テメェらの"親玉"は、一体"何を"探してやがる。」
    図星を突かれたロシナンテとローが黙ると、クロコダイルは反して嬉しそうに葉巻の煙を吐き出した。
    しかし、反面、解せない事が一つだけある。
    クロコダイルはす、と、横に立つドフラミンゴを見上げた。
    「お前、なんで付いてきた?"お前だけ"この島に居るのが不自然だぜ。」
    覗いたその顔は、いつも通りサングラスと、ヘラヘラと歪んだ口元に隠されていて、イマイチ何も汲み取れない。
    上の命令でこの島を訪れたロシナンテ、ロー。少女に頼まれたクロコダイル。
    "月下香"に、自らの"意思"で降り立ったのは、この男"だけ"だ。
    「・・・地図に、円を書いて遊んでたんだが。」
    全員の視線が集まっても、ドフラミンゴは言い淀む事なく口を開く。
    路地裏に積み重なった木箱の上に腰掛けて、行儀悪く足を組んだ。
    「セタス・クロウ、アーノルド・サイモン、ノストラ・フランク。最近、立て続けに"海難事故"で死んだ世界政府の要人が3人。
    目撃証言、本人の手帳、通話記録から死ぬ直前までに奴らが訪れた場所を円で囲むっていう、暇つぶしをしていた。
    ・・・それで、何が"分かった"と思う。」
    「知らねェよ。テメェに友達が居ないということ以外はな。」
    「フッフッフッ・・・。そろそろ泣くぞ。」
    ちらりと見下ろした少女は、相変わらず空洞のような瞳をしている。
    その瞳が、一体何を映しているのか、ドフラミンゴには分からなかった。
    「・・・二つだけ、その3人の円が"重なる"場所があった。一つは、マリージョア。もう一つは、」
    しんと静まり返った空間に、ドフラミンゴの低い声は妙に響く。
    「ここ、"月下香"だ。
    日時はバラバラ、死んだ日もバラバラだが、3人共、死ぬ間際にこの島に来ている。」
    ドフラミンゴの瞳が怪しい光を放ち、クロコダイルの傍らに立つ少女がふらりと"操られる"ように、ドフラミンゴの前まで歩いた。
    「・・・ッ、」
    「おい、ドフィ。」
    震える細い腕が、ドフラミンゴの首を掴む。
    掴まれた本人は、愉快そうに笑って指を折り曲げた。
    「お前、何で海軍本部に追われてる?もしかして、殺したか。世界政府の馬鹿共を。」
    「こんな子どもに、そんな事できる訳ないだろ!やめろドフィ!」
    ロシナンテが少女の体に触れた瞬間、"糸が切れたように"、ふらりと彼女の体がよろめく。
    ロシナンテに支えられ、少女はまた、その空洞のような瞳で、その大きな男を見上げた。
    (子ども・・・。馬鹿言うな。この目なら、きっと、)
    ドフラミンゴは随分と昔の自分の瞳をその目に重ねて、場違いに笑い声を上げる。
    "子ども"が"大人"を、殺せないなんて、どうしてそんな、馬鹿げた事が吐けるのか。
    「この島にゃァ、都市伝説紛いの"噂"がある。」
    ドフラミンゴの口元が奇妙に歪んで、言葉を紡いだ。
    「政府の要人、各国の国王、名の知れた海賊、兎に角金のある人間だけが、金にモノを言わせりゃァ入れる会員制の風俗店。」
    積まれる札束。笑う、笑う"支配層"。増える悲劇、対岸の火事。
    ドフラミンゴは、ロシナンテの腕の中にいる少女の顎を掴んだ。
    「ロリもペドもネクロフィリアも、その店にゃァ"タブー"は無いらしい。」
    「随分アングラな世界観だな。それが今回の件に、何の関係があるんだよ。」
    「世界政府の三馬鹿が、そんなアングラな場所で"殺された"としたら、そりゃァ、まァ、"海難事故"で処理したくもなるわなァ。下手に手を出せば、他の権力者達も芋づる式にお縄だ。
    しかし、店側が大事なお客様を殺す理由が分からねェ。
    殺す理由があるとすりゃァ・・・。"商品"の方だ。」
    「・・・ドフィ、やめろって、」
    ぺらりと、少女が身に纏うワンピースの裾を捲ると、白い太腿にはバーコードと"256"のナンバーが彫られている。
    ロシナンテの瞳が、大きく見開かれた。
    「なァ、お嬢ちゃん。教えてくれよ。"奴ら"はどんな、変態野郎だった?」
    ドフラミンゴの親指が、その白い頬をするりと撫でる。
    少女はそれでも、黙ったままドフラミンゴを見上げるだけだ。
    「一つだけ、分からねェ事がある。鰐野郎が討伐した人身売買組織が、裏でその違法風俗店を運営していたとして、何故政府は突然討伐命令を出したんだ。三度の殺しは見逃したのによォ。
    つまりだ、お嬢ちゃん。お前まだ、"何か"を隠しているよなァ?」
    ・・・パシ。
    突然、ドフラミンゴの腕を、クロコダイルの右手が掴む。
    ギラリと向けられた視線同士がぶつかって、バチリと何かが爆ぜたように感じた。
    「流石は、海軍本部の"ガリ勉君"だ。感動したよ。」
    「そりゃァどうも、砂漠の"フダツキ"とは、育ちが違うもんでな。」
    ギリ、と、握られたその腕にも、ドフラミンゴは仄暗い笑みを返す。
    クロコダイルはそれを一蹴するように瞳を細めた。

    「セタスは・・・私の腕を切りたがったけど、それにはあと3000万ベリー必要だと言ったら諦めたわ。」

    ロシナンテの腕を離れた少女は、一度踊るようにくるりと回ってクロコダイルの前に立つ。
    それを、白けたように見下ろした彼は、葉巻の煙を吐き出すだけだ。
    「サイモンは・・・別に普通。ノストラは、私の髪が欲しいと言って、50万ベリーで買っていった。」
    ああ、ずっと、ずっとこの少女の瞳は空洞だ。
    なにも嵌っていない、ただの、がらんどう。
    「もううんざりだったの。逃げ出したいと思って、方法を考えた。結構、良い案だと思ったんだけど。
    政府の人を殺したら、大騒ぎになって誰かが来てくれると思っていたのに。海軍本部は事故だと言って来てはくれなかったわ。だから、」
    ぱす、と、可愛らしい音がして、クロコダイルの右手が今度は少女の口元を覆った。
    面倒臭そうに頭を掻いて、クロコダイルはしゃがみ込む。
    「お嬢さん。それは、おれと、君だけの秘密にしたまえ。」
    こっそりと、クロコダイルは低い声で耳打ちをしてから、彼女を抱えて立ち上がった。
    「話は大体分かったな。それじゃァとっととハウスだ犬共。政府御用達の違法風俗店じゃァ、"政府の犬"は手が出せねェだろう。こっからは、フダツキに任せたまえ。」
    「お前も"犬"の仲間だろ。テメェも"海難事故"で死にてェのか。」
    「クハハハ。お気遣いをどうもありがとう。ネクラミンゴ君。君とおれでは、"立っている場所"が違うんだ。」

    プルプルプル。

    緊迫した状況を、一気に崩す音がして、ドフラミンゴは思わず舌打ちをすると懐から小さな電伝虫を取り出した。
    掛けてきた相手に、大体の想像はつく。
    『ドフラミンゴ。お前、今どこにいるんだい。』
    「・・・おつるさんか。相変わらず耳聡いなァ。」
    『私は、首を突っ込まないでくれと、頼んだはずだよ。』
    困ったように眉を下げた電伝虫に、ドフラミンゴはやり辛そうに、う、と、口角を下げる。
    「だが、なァ、おつるさん。あんた、本当におれを"止める"つもりがあったのか。」
    『馬鹿な事を言うもんじゃないよ。私は何が大切かぐらい、ちゃんと分かっているし、その為の"取捨選択"の覚悟は毎日しているんだからね。』
    「嬉しいねェ。おつるさん。可哀想なガキは捨てて、おれを取ってくれるのか。」
    「おいおつるさんに酷い事言ってんじゃねェよ、悪魔野郎!!」
    「そうだぞ!!ドフィ!!なんでそういう言い方しかできねェんだよ!!」
    「ちょ、うるさい。マジで。」
    つい癖で、弱い部分を抉る言葉選びをしてしまった事に、ドフラミンゴが少しだけ後悔していると、後ろでローとロシナンテが怒鳴りだした。
    『・・・兎に角、この件は闇が深い。いい子だから、"明日"には本部にお戻り。』
    「フッフッフッ。ほんとに、敵わねェな。おつるさん。・・・安心してくれ。"ちゃんと"、"戻る"さ。」
    ガチャリと、眠りに入った電伝虫を懐に仕舞うと、クロコダイルはおかしそうにくぐもった笑い声を上げる。
    「ママに心配掛けるのはいけねェなァ。フラミンゴ野郎。はやく帰って、親孝行でもしてくれたまえ。」
    「馬鹿言うなよ。お前、一体何を聞いてたんだ。」
    笑うクロコダイルに、ドフラミンゴは口角を上げてその瞳を射抜いた。
    結局、この件を暴きたいと思っている人間は、"もう一人"居たらしい。
    「本気でおれを呼び戻すつもりなら、あの人はもうこの島に到着してるぜ。
    しかも、"明日"戻れとのお達しだ。」
    クロコダイルの表情が、一転、怪訝そうに歪んだ。
    今度は、ドフラミンゴが嬉しそうに喉を震わせる。
    「命令はこうだぜ、鰐野郎。"明日"までに、"上手くやれ"。だ。
    ガキは寝る時間だが・・・まァ、一日ぐらいは良いだろうよ。案内してくれるよなァ?その、オトモダチのところによ。」
    打って変わって、少女の頭を撫でたドフラミンゴに、彼女は目を丸くして、ロシナンテ達は溜め息を吐いた。
    何だかんだで、"引っかかって"いたのだろう。
    この男は想像以上に、あの大参謀の事が"好き"なのだ。
    「でも、どうすんだよ。本当に政府御用達なら、おれ達如きじゃ入れねェよな。」
    「・・・そうだなァ。」
    ローの言葉に、大して困ったようでも無さそうなドフラミンゴは一度、額を撫でる。
    「"大義名分"がありゃァ、ご機嫌なんだが・・・そうもいかねェな。どうするよ、鰐野郎。」
    「分かりきった事をいちいち聞くなよ、フラミンゴ野郎。」
    さっきとは違う形で交わった視線に、クロコダイルは短くなった葉巻を地面に投げ捨てた。
    正義の味方などと言うつもりは毛頭無い。命の重さを説くほど高尚なら、海賊になんてならない。
    ただ、踏み躙られる為だけの尊厳に、値札を貼った奴らの顔が、歪むのを見てみたいだけだ。

    「テメェら薄給の犬共と、おれを一緒にしてくれるなよ。」
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