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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフコラロ海軍if(+7武会鰐野郎)
    ロ君が誘拐されるお話。
    ※ドフ鰐前提
    ※ドとかロとか過去やら何やら海軍仕様に色々捏造してます
    ※いつもながらご都合主義

    メーデー!メーデー!「・・・あっ!」
    「・・・あ?」

    ベチャ、と、自分の足元で不可解な音がした。
    その後に上がった幼い悲鳴に、ローは思わず小さな声を漏らす。
    見下ろすと、随分と下の方で少女が手にした二段のアイスが自分のズボンと衝突していた。
    「す、すいません・・・ッ!!うちの子が・・・!!」
    今日はオフで、海軍のコートは着ていない。自分の人相が悪い事にも、まあまあ自覚はあった。
    そのつもりは無かったが、恐らく見下されれば、睨まれたと見えるだろう。
    少女の父親であろう男が、慌てて駆け寄ってくるのにため息を吐いて、ローはその、入れ墨だらけの手のひらを返した。
    「・・・ROOM。」
    半透明のサークルが広がって、足元の少女の瞳にじわりと、薄く涙が膜を張る。

    「"シャンブルズ"。」

    くるりと指を返すと、ローの手のひらに遠くのアイスクリーム屋で、客に出されようとしていた三段のアイスが現れて、代わりにそのカウンターに小銭が散らばった。
    相変わらず仏頂面のローはそのまましゃがみ込むと、少女の手のひらにアイスを押し付ける。

    「悪ィ。余所見してた。これで許してくれ。」

    ポンポンと、少女の頭を撫でて立ち上がったローは、ぺこ、と、呆気に取られる父親に無愛想な会釈をして歩き出した。

    "悪党"共には"制裁"を、"か弱き市民"には"正義の加護"を。

    海軍本部"大佐"トラファルガー・ローは、戸惑いながらも礼を口にした父親を、振り返りもしなかった。



    「・・・やっぱり、"そうだ"。間違いない。」
    そんなやり取りを、路地の影から盗み見る男が一人。
    カタカタと震える腕で、懐から電伝虫を取り出した。
    存在自体が不確かで、噂程度にしか知らなかった、"悪魔の実"の能力。
    それを、海軍本部の"海兵"が食べたという"不確かな情報"が、今、真実味を帯びたのだ。

    「見つけた・・・。"オペオペの実"の、能力者・・・!!!」

    ######

    「・・・あァ?ローが居ない?」

    勤務終了間際。
    海軍本部"中将"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、突然執務室に現れた"弟"ロシナンテに、書類に走らせるペンは止めずに声を上げた。
    心配そうに眉根を寄せたロシナンテは、咥えた煙草の煙を吐き出してから、手持ち無沙汰に頬を掻く。
    「あァ。もう暗くなってきたんだが・・・帰ってこねェんだよなァ。」
    「あいつ今日オフだろう。別に、好きなだけ遊ばせてやりゃァいいじゃねェか。」
    「いやまァ、そうなんだが・・・部屋で一緒に映画見ながら飯食う約束してんだよなァ。」
    「・・・なんで毎回兄上を誘わねェんだ。お前ら。」
    また除け者にされたドフラミンゴは悲しそうに言うが、ロシナンテはそれどころでは無いようで、ドフラミンゴの背後の窓に視線を走らせた。
    暗くなるまでには戻る、正門に集合して一緒に寄宿舎に戻ろうと、そう言ったのはローの方である。
    ローが今までにロシナンテとの約束を前置きも無く破ったことは無かったのだ。
    「ただ、帰るのが遅いぐらいなら、別に良いんだけどなァ・・・。」
    「ガキだっつっても、あいつは海軍本部の"大佐"だぜ?大丈夫だろ。」
    「・・・そうだと良いんだけどなァ。」
    未だ、心配の拭えないロシナンテに、ドフラミンゴはため息を吐いて書類に視線を落とす。
    殺しに略奪、クーデター。処理しなければならない"悲劇"は掃いて捨てるほどあった。
    「"シャボンディ諸島"に行ってんだろォ?あんまり遅いようなら、おれが迎えに行ってくる。そう心配するな。ロシー。」
    「・・・そーだな。」
    短くなった煙草を未練がましく咥えたロシナンテは、気のない返事をして、心配そうな顔のまま、ふらりとドフラミンゴの部屋を出ていく。
    その後ろ姿を、ドフラミンゴはサングラスの奥でちらりと見遣った。
    その時、ドフラミンゴの手元に置かれた陶器の湯呑が、ピシ、と小さな悲鳴を上げる。
    触れてもいないのに、まるで、何かを"咎める"ように、その胴体には亀裂が入っていた。




    「いたか・・・ッ?!」
    「見失った・・・!!」

    「ハァ、ハァ、は、」
    バタバタと響く落ち着きの無い足音をやり過ごして、ローは壁に凭れて大きく息を吸い込む。
    突然襲いかかった弾丸が、食い破った腹を押さえて、ズルリと地面にしゃがみ込んだ。

    『"天竜人"の命令でなァ!!悪いがうちの"店"の商品になってくれ!!』

    モヤモヤと霞がかる視界の中で、唐突に自分を囲んだ刺客が吐いた言葉を思い返す。
    "世界貴族"が欲しがるものに、心当たりは、たった"一つ"。

    『・・・どうせ"三年後"におれは死ぬ。』
    『フフフッ!!それは、"お前"の"運次第"・・・!!』

    "リミット""三年"の、運命を覆したのは、自分の"運"か、或いはあの男の"執着"か。
    そんな答えの無い問い掛けに、ローは血だらけの手のひらで瞳を覆う。
    ("天竜人"絡みなら、海軍本部にゃ戻れねェな。)
    元より、あの組織は"世界貴族"の"下請け"だ。
    ローを差し出す命令が、既に下されている可能性もある。

    (・・・それに、)

    落ちた神様。爛れた左目。"聖地"に"出禁"を喰らった、我が中将殿。
    あの優しい"兄弟"を、これ以上、"世界貴族"に近寄らせたくは無かった。

    『珀鉛病は"中毒"だ。他人には感染しねェよ。』

    最初に出会った"神様"は、きっと、この"可哀想"な"ガキ"を手放せない。
    ブワリと、半透明のサークルがローを囲んだ。

    「・・・じゃァな。」

    ######

    「ドフラミンゴ。どこへ行く?」
    「あ?ローが帰って来ないんだ。迎えに行ってくる。」
    「・・・。そのことだが。」

    もう九時を回った。
    それでも帰ってこないローに、流石に何かあったかと、心配になったドフラミンゴは、残業を切り上げて海軍本部の廊下から外に飛び出そうと窓枠に足を掛けた。
    その後ろ姿に声を掛けたのは、"元帥"センゴクである。
    言い淀むように、顎を擦ったセンゴクに付いて来いと言われその背中を追うと、"元帥"の執務室に通された。

    「・・・海軍本部"大佐"、トラファルガー・ローは、」

    ゆっくりと、デスクに着いたセンゴクは、組んだ手のひらに額を当てて、ドフラミンゴの方を見ない。
    ビリビリと、指の先が痺れるように感じた。
    嫌な予感。消えてしまった"弟"と、割れた湯呑。
    ドフラミンゴは素直に、サングラスの奥で瞳を細めた。

    「トラファルガー・ローは、"脱走"した。我々海軍本部は"脱走兵"として行方を追うが、お前と、ロシナンテはこの案件に関わるな。・・・通常任務に当たれ。」

    「・・・は?」

    告げられた、およそ覚えの無い出来事に、ドフラミンゴは小さく声を漏らす。
    真っ先に"何故"では無く、"誰だ"と思うのは、この組織の後ろ暗さを知っているからか。
    "ロー"を、海軍本部から追いやって、"喜ぶ"のは一体"誰だ"。
    「おれが、それで、納得するとでも思ってんのか。」
    「納得しなくても、上の命令は絶対だと、習わなかったか。」
    "仏"の名も泣く、鋭い眼光が、それを見下ろすドフラミンゴの視線とかち合って、バチリと爆ぜた様な幻覚を見た。
    不意に、ドフラミンゴの口元が奇妙に歪んで、センゴクはそれが、笑っているのだとワンテンポ遅れて気が付く。
    「フフフフッ。おれが、"引っ掻き回してやろうか"。なァ、あんた、それを、望んでるだろ。」
    「今回ばかりは・・・大目に見れん。・・・大人しくしていろ。」
    苦しそうに、絞り出したセンゴクを見ると、ドフラミンゴは喉の奥だけで笑って、踵を返した。
    権力のみがモノを言う、この魑魅魍魎蔓延る正義の中枢で、この中将は紛れもなく"最終兵器"だ。

    「なァ、センゴク。おれを、"懐刀"だとおもってンなら、酷い勘違いだぜ。おれァ、この"世界"が、いつ壊れたって、構いやしねェんだ。」

    出て行く間際に、振り返ったドフラミンゴはニヤニヤと歪めた口元で言う。
    ギリ、と、奥歯を噛み締めたセンゴクを、鼻で笑って大股で扉を潜った。

    残されたセンゴクの、組んだ指先が自分の手の甲にギリギリと食い込む。
    ぱた、ぱた、と、赤い血が机に落ちても、その瞳は何も映してはいなかった。

    (・・・何が、)

    『死体の山に隠れて、国境を超えた。』

    『もう何も、信じてない。』

    斑に蝕む白い病。人間に踏み躙られた、人間の平穏。廃棄された国。
    一度、世界を見限ったあの少年は、ようやく笑顔を見せるようになったのに。

    「・・・何が・・・正義・・・!!何が・・・、海軍本部・・・ッ!!」

    この世の正義の中枢は、酷い、臭いがした。

    ######

    「・・・は、嘘だろ。ローが、"脱走"?」
    「真に受けるな。何か裏があるんだろう。いつも通りの、"上の指示"って奴だ。」
    海軍本部を後にしたドフラミンゴは、寄宿舎のロシナンテの部屋を訪れていた。
    センゴクの言葉をそのまま聞かせれば、ロシナンテは怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
    「じゃあとっとと探しに行こうぜ、ドフィ!ローの奴、どっかで泣いてるかも・・・。」
    「分かってる・・・!だが、おれ達は明確にローの捜索を"外され"ている。下手に動けば海軍本部も敵に回るぜ。」
    「だから何だよ!!後で謝ればいいだろ!!それよりローのほうが大事だ!!!」
    「・・だったら少し黙ってろ!!
    奴ら、隠す気になれば殺してでも隠すぞ!!"此処"は、そういう"場所"だろうが・・・!!」
    相変わらず、"すぐ"に"手が出る"。
    ロシナンテが掴んだドフラミンゴの襟元が、グシャリと皺になった。
    それを咎めるように見下ろしたドフラミンゴは、苛つきを飲み込むように奥歯を噛み締める。

    「・・・取り込み中失礼。」

    突然、覚えの無い声が割り込んで、窓から差し込む月明かりが翳る。
    ザラリとした、砂の感触を感じたドフラミンゴの視界に、たなびく黒いコートが見えた。

    「・・・何だ、兄弟喧嘩か。仲良くしろよ。」

    砂の塊が徐々に人の形を作り、最後に葉巻の煙が揺れる。
    窓枠に腰掛けた王下七武海、"サー"・クロコダイルの姿に、ドフラミンゴとロシナンテの動きがピタリと止まった。

    「わ・・・鰐野郎!!!テメェが何故ここにいる?!」
    「クロコダイルさん!!久しぶり〜!」

    月明かりを背負ったクロコダイルは、ころっと態度を変えた二人にため息を吐いて、その足元に"何か"を投げる。
    ぱさりと、軽い音を立てて落ちたそれに、ドフラミンゴ達も視線を下ろした。

    「・・・これ、どこで、」

    床に落ちたのは、見覚えのある、白い帽子。
    白い生地に飛んだ、真っ赤な液体に、ロシナンテが呆然と呟いた瞬間、ドフラミンゴの大きな手のひらがクロコダイルのタイを掴んだ。
    「・・・あいつは、どこにいる。」
    「クハハハ。何だ、正義の味方にしてはえらく凶暴だな。」
    ギラギラと光るその瞳に、クロコダイルは思わず笑い声を上げる。
    成程、やはり、何か"起きていた"。
    「・・・さっさと言えよ。鰐野郎。こっちは余裕がねェんだ。」
    「・・・。」
    ギリギリと胸元を掴む手のひらに、クロコダイルはうんざりと眉尻を下げて呑気に葉巻を咥える。
    偶に、この男の必死さは、"気の毒"だ。

    「シャボンディ諸島の路地裏に落ちてた。・・・何となく見た覚えがあったんで、会合のついでに届けたまでだ。姿は見てねェ。
    ・・・何かあったのか。」

    煙と共に吐き出せば、ドフラミンゴは払うようにクロコダイルのタイを離す。
    苛ついたように髪を掻いて、舌打ちをした。
    「出掛けたまま、帰ってこねェんだ。・・・しかも、海軍本部は早々に、"脱走兵"扱いで捜索を決め、おれとロシーを捜査から外した。・・・クソ!!何もかもおかしいぜ。」
    ソファにドカリと座り込んだドフラミンゴは、考えあぐねるように伏せた顔を両手で覆う。
    この縦割り組織にしては、早すぎる結論。外された捜索。
    あの、白い街の少年を取り巻く、危うい要素は、何だった。
    「・・・馬鹿か、テメェは。親しいお前らを捜索から外したんなら、それは"見つける"気がねェってことだ。
    ・・・それか、お前らに、バレたら"マズい"隠し事があるかだな。」
    クロコダイルの言葉に、ドフラミンゴの瞳孔が細くなる。

    ("おれたち"に、バレたら、"マズい"。)

    それが、何なのか、思い当たる節は、たった"一つ"だ。
    この海軍本部で、"聖地"マリージョアに入る"権限"を剥奪された、二人の"将校"。
    ドフラミンゴは顔を覆ったまま、その心当たりに背筋が凍る。

    (・・・まさか、)

    「ドフラミンゴ、ロシナンテ、ここに居るのかい。」

    目の前が妙に暗くなった瞬間、控えめなノックの音がして、"大参謀"つるが扉から顔を覗かせた。
    想定していなかったクロコダイルの姿に、つるは一瞬キョトンとする。
    それに気が付いたクロコダイルは、スマートに窓枠から部屋の中に降りて、吸っていた葉巻をサラサラと砂にした。
    「これはこれは。"大参謀"。夜分にすまないとは思ったが、中将殿に急用があってな。」
    「そうかい。夜遊びはほどほどにするんだよ。」
    「あァ、勿論さ。」

    ((ヤダ・・・!!何この人・・・!!めっちゃ媚売るじゃん・・・!!!!!))

    ニッコリと、英雄の顔で笑ったクロコダイルに、ドフラミンゴとロシナンテは兄弟らしく、同じ事を思う。
    「そんな事より、おつるさん!一体どうなってるんだよ!ローが脱走扱いなんて・・・。」
    「もう聞いていたかい。・・・わたしにも何がなんだか・・・。突然、ローが脱走したから探せなんて言われてね。」
    今まで隠していた不安を、いとも簡単に見せたロシナンテに、つるはため息を吐いて言った。
    "大参謀"ですら、全貌が掴めていないとは、いよいよこれは、背後が暗い。
    「しかも、お前たちは捜索から外せとお達しだ・・・。センゴク元帥もだんまりだよ。・・・ドフラミンゴ、ローに何か変わった事はあったかい。」
    「ねェよ。何もねェ。・・・おつるさん、こりゃァ、また、"上"の、お遊びじゃねェのか。」
    ドフラミンゴの言葉に、僅かにつるが息を呑んだ。
    「おれと、ロシーが外されるのは、何時だってあの"馬鹿共"絡みだ。"奴ら"、ローのオペオペの実に目を付けたってとこだろう。」
    "人間"の、"命"の量すら書き換える、稀有で、デタラメな能力。
    それを、背負わせた"張本人"は、言葉を失うつるを見た。
    その、サングラスの奥で燃える"憎悪"に、"大参謀"の頭脳が回転を始める。
    一度、閉じたつるの瞳が、再び開いた。

    「・・・ドフラミンゴ、ロシナンテ。"わたし"からの"命令"だ。・・・ローを探して、わたしの前に連れておいで。」

    そこで、始めて、戸惑うようにドフラミンゴの瞳が揺れた。
    躊躇うように、その口元が震える。
    「責任はわたしが取るよ。好きにおやり。老い先短いわたしが、こんなところにしがみつく理由なんて、有りはしないからね。」
    「おつるさん、」
    何かを言いかけて、止めたロシナンテに、ドフラミンゴはゆっくりと立ち上がった。
    そして、ロシナンテのデスクの引き出しを勝手知ったるように開けて、何やら紙とペンを取り出す。

    「・・・馬鹿だなァ、おつるさん。あんたが居なくなったら、おれのしがみつく場所が無くなるじゃねェか。」

    サラサラと、デスクでペンを走らせながら言うドフラミンゴに、つるは怪訝そうに瞳を細めた。
    カタリとペンを置いて、再び立ち上がったドフラミンゴは、バサリとその肩に掛かった、重たいコートを脱いで、ベッドに放る。
    そして、つるに書類を二枚差し出した。

    「・・・休暇、もらうぜ。おつるさん。盆暮正月働き詰めなんだ、有休、溜まっててな。」

    自分と、ロシナンテの分の"休暇申請"をつるに押し付けたドフラミンゴは、意気揚々と手を振って、扉へ向かって歩いていく。
    慌ててロシナンテと、鼻を鳴らしたクロコダイルがその背中を追った。
    「へへ・・・。おつるさん、ありがとな!!行ってきまーす!!」
    「さっさと問題児はクビにした方が、ストレスが減るんじゃないのかね。」
    呆気に取られたつるを残して、部屋の扉はパタリと閉じる。
    つるは胸に抱えた書類を、ぐしゃりと握った。

    君臨する神。恨みの象徴。"軽い""命"。
    抗えない筈のこの世のシステムを、彼らが破壊してしまう、そんな、身の毛もよだつ、嫌な予感。

    つるの膝が、力を失ったようにがくりと折れて、ふらりとソファに座り込んだ。
    苦しそうな表情で、その額を撫でる。

    「・・・馬鹿な、子だね。」

    ######

    「・・・・・・・・・・いや、想定以上に"私服"が派手なんだが。体積がデカい。しかもなんでお揃いなんだよ。」
    「え?でもこれ二十代の時からお気に入りだし。なァ、ロシー。」
    「あったけーんだよな。これ。手触りも良いし。」
    「お前ら、二十年弱お揃いで出歩いてんのか・・・。マジでキモいな。」
    夜が明けるのを待ってから、シャボンディ諸島を訪れたクロコダイルは、"着替えてから行く"、と言い、遅れて現れた兄弟の"私服"に、うんざりと煙を吐き出した。
    ピンクのファーコートの兄と、黒いファーコートの弟。
    そういえば、スーツ姿しか見たことが無かったが、何度か訪れた事のある、奴の部屋に"ソレ"が掛かっていた事を思い出した。
    「隠れる気あんのか・・・。ちょっと来い。」
    「えー。別に良くねー。ダイジョブダイジョブ。」
    「はやくローさーがーそーぜー。クロコダイルさーん。」
    「いや、普通に一緒に歩きたくない。」
    すごい力で引き摺られ、服屋に連れて行かれた兄弟は、クロコダイルが手早く選んだ洋服を押し付けられる。
    嫌そうな顔で試着室に追いやられた二人は、渋々そのカーテンの奥へと消えた。

    「どーよ!やっぱりおれは何でも似合うな。」
    「なんか・・・地味なんだけど。」

    数分で試着室のカーテンを開けた兄弟に、クロコダイルはゆっくり視線を向ける。
    黒いハイネックに、モスグリーンのセットアップスーツを身に着けたドフラミンゴと、白シャツにボルドーのセーターを着たロシナンテを見て顎を擦った。
    「弟の方はまァ良いが・・・フラミンゴ野郎、お前、果てしなく胡散臭ェな。」
    「うわ、ホントだ。半グレ集団の親玉みたい。」
    「・・・おれの事傷付けて楽しい?」
    「ったく、少しは弟を見習えよ。見ろ、立派なちょっとデカいモブだ。」
    「いや、ちょっとデカいモブて何。」
    それでも、さっきよりはマシだと、クロコダイルは踵を返す。
    そして、"行くぞ"、と低い声で言った。





    (・・・参ったな。港が"取られた"。)
    シャボンディ諸島の外れの、朽ち果てた空き家の中で、ローは応急処置を施した脇腹を押さえて舌を打つ。
    相変わらず追手の姿は散見された。
    さっさとこの島を出たかったが、港は何故か海兵達が警備体制を敷いている。
    やはり、海軍にも手が回ったか。
    何にしても、体力の消耗が激しかった。一度休まなければ、能力を使うのは難しい。

    『ロー、"オペオペの実"を手に入れたぞ。』

    『やったな!!ロー!!これで病気が治る!!』

    朦朧と、まるで夢を見るように、懐かしい映像が頭の中を過る。
    大刀と膝を抱えたローは、眠るように顔を伏せた。
    "白い国"に対して、"人間"は驚く程残虐だったが、反して、あの"兄弟"は優しい。
    懐かしむように微笑んで、ローは息を吸い込むと、ゆっくりと立ち上がった。

    "扉の外"が、どうにも、"喧しい"。

    (見ろ。・・・"人間"は、"残酷"だ。)

    扉が蹴破られて、銃を構える無数の人間が空き家に雪崩込んでくる。
    ローの瞳がグラグラと揺れて、嫌な事を思い出した。

    足音、銃声、焼けてしまった、シスターの臭い。
    マスクを付けた、顔の無い"人間"の群れ。

    自分を囲む、大勢の追手の顔が、あの日、白い街で見たガスマスクに重なっていく。
    ドクン、ドクン、と、嫌に心臓が音を立てて、ローの呼吸が妙に細くなった。

    報復と、制裁を。
    "奴ら"の"不義"に、"フレバンス"の"痛み"を。

    「ハァ、アァ、」

    錯乱したローの口元から呻き声が漏れて、半透明のサークルが広がっていく。
    あっという間に空き家を超えて広がるサークルは、此処からでは見えなくなった。

    (そうだ、)

    本当は、この世界を、壊したいと、思っていたのに。
    ローの瞳が赤い光を放ち、その瞬間、空き家がガタガタと、不穏に揺れた。

    ######

    「ロー君?来たわよ。いつも通り難しそうなお医者さんの本、沢山買っていったよ。」
    「まじで!何時ぐらい?昨日??」

    シャボンディ諸島で、ローが行く所など限られている。
    派手に遊び回らないあの青年行きつけの本屋で、ドフラミンゴ達は店主の女にローの写真を突き付けると、そう悩みもせず店主は言った。
    ロシナンテがカウンターに齧り付く勢いで尋ねると、キョトンと、呑気に首を傾げる。
    「昨日の、午前中だったかしらね。・・・13番Gで"北の海"フェアをやってて、それに"海の戦士ソラ"の等身大パネルがあるから見に行くって。」
    「・・・あいつ、あれまだ好きなのか。」
    「知らなかったのか?ずっと大好きだぞ。」
    「・・・何でお前泣いてんだよ。」
    「いや、なんか、心が温かくてな・・・。」
    店主の言葉に、ドフラミンゴは昔、新聞に乗っていたその絵物語を見せてやった事を思い出し、思わずじーん、と、サングラスを外して両目を押さえた。
    その様子に、クロコダイルは引いたように言う。
    「ロー君、どうかしたの?」
    「あー、いや、何でも無いんだ。ありがとう。」
    流石に不審に思ったのか、女が訝しげに聞くのをやり過ごして、ドフラミンゴ達は踵を返した。
    とりあえず、ローの足取りは辿れている。
    ドフラミンゴは少しだけ、はやる気持ちが落ち着いた。

    「・・・ど、ドフィ!!!」

    本屋を一番に出たロシナンテが、突然、驚いたように声を上げてドフラミンゴを振り返る。
    釣られるように、ロシナンテの指差す方向を見たクロコダイルとドフラミンゴの視界に"半透明"の"サークル"が入った。

    「・・・ッ!!!」

    「おい、」

    そのサークルを瞳に映した瞬間、ドフラミンゴの両目が驚く程凶暴な光を放ち、その体は空に向かって飛んで行く。
    我に返ったクロコダイルは、未だ呆気に取られるロシナンテの襟首を引っ掴むと、その円の中心に向かって走り出した。






    「ハァ、は、はぁ、は、」

    酷く、息が切れた。
    力を失った膝ががくりと折れて、ローの体がぐらりと揺れる。
    倒れ込まないように、膝と刀を地面に付いて前方を見据えた。
    空から降らせた"ガレオン船"に押し潰され、倒壊した空き家の中で、自分を囲んだ人間達のうめき声が聞こえる。
    まだまだ湧いてくる"刺客"は、ローの操ったガレオン船に怯えたように、こちらに銃を向けていた。

    いい加減、頭がおかしくなりそうだ。

    絶え間なく響く、撃鉄の上がる音。うめき声。耳元ですすり泣く、幼い自分。

    「ハァ・・・。は、」

    散らばった薬莢を見ていたら、また、グラグラと視界が揺れて、その瞳に耐え難い痛みが走った。
    思わず瞑った目を開けると、地面に転がる、"彼ら"の"死体"。

    『この世に、絶望など無いのです。』

    『救いの手は、』

    『必ず、差し伸べられます。』

    そう言って、笑ったシスターは、呆気なく死んでしまった。
    燃える病院。父親と母親の血。積み上がる死体の山。

    ああ、怖い。ずっと、怖い。

    "こうやって"、"踏み躙られる"のが、一番"怖い"。

    ガチャガチャと、銃を構える音がして、ローの手のひらが反射的に開く。
    消耗し切った体力に、能力の発動は小さくて、遅かった。

    (あぁ、誰か。)

    あの時も、"そう思った"。
    あの時は、誰の手も差し伸べられなかった。
    なのに、また、そうやって、誰かに助けを求めてしまう。
    ローの口元が、はくはくと酸素を求めるように動いた。

    「・・・助けて、"ドフにい"。」

    意識とは別のところで"譫言"が漏れた瞬間、ざわりと、空気が揺れた。
    空から降ってきた、大きな何かが地面に着地すると、思い出したように銃を構える刺客の首が、ごとり、ごとりと落ちていく。
    吹き出した血と、絞り出すような悲鳴を背景に、ローの瞳の中で揺れる、金色の髪。

    「・・・遅くなって悪かったな。ロー。」

    返り血を浴びた、"優しい""神様"は、そう言って、その口元を歪めた。

    ######

    「オイ、弟、お前先に行け。」
    「え?クロコダイルさんは?」
    「"知られたくねェ事"があるんなら・・・"部外者"はいねェ方が良いだろうが。」
    突然、足を止めたクロコダイルは、少し先で振り返ったロシナンテに言うと、新しい葉巻を取り出した。
    オイルライターを擦る音に、ロシナンテは上がった赤い火を見やる。
    「・・・大人だよな。クロコダイルさん。ドフィが惚れる訳だ。」
    「気持ち悪ィ言い方すんな。」
    自分達と、同じ方向に走るガラの悪い連中がクロコダイルの背後に見えた。
    ロシナンテは思った事を素直に口にして、困ったように笑いながら、踵を返す。
    世界中に、"恨まれている"自覚はあった。
    露呈すれば、きっと、優しかった隣人が牙を剥く現実と、目の前のこの男にすら、バレたくない後ろめたさにため息を吐く。
    「・・・興味、ねェよ。」
    低く、葉巻の煙と一緒に吐かれた台詞に、ロシナンテは束の間、動きを止めてしまった。
    盗み見たその、"砂漠の王"は、こちらに走ってくる数人に、既にその"右手"を向けている。

    「・・・"興味"なんか、無ェんだよ。」

    あまりに強い、その光に、"彼"は、救われたのか。
    ロシナンテは、泣いているような、そんな、よく分からない顔で笑った。
    「アハハ!格好いいぜ!クロコダイルさん!!」
    「うるせェ!!さっさと行け!!」
    僅かに軽い足取りで、ロシナンテが再び走り出した瞬間、その背後で大きな砂嵐が起きる。

    「"サー"・クロコダイル・・・?!何故お前が邪魔をするんだ?!」
    「うるせェなァ・・・。」
    何が起きたのか理解できないまま、地面に転がる男が言うのを鼻で笑い、その頭を踏みつけた。
    奴らが一体どの"種類"の"人間"なのか、それ程興味も沸かないし、自分の人生にはそれ程関係も無い。

    (・・・ただ、)

    「面倒なんだよ。あの"馬鹿"は。これで、本当に弟2号が消えでもしたら、あいつは、また、"眠れなくなる"。」

    一つ、"気がかり"があるとしたら、それだけだ。
    何かに怯えたように、眠ることを拒む、馬鹿な男は、一晩中、クロコダイルの黒い髪を弄んでいた。
    悲劇の溢れるこの世界で、優しい夢をなどとは言わないが、せめて、眠る事ぐらい許して欲しい。
    どうしようもなく、"目障り"で、うんざりするのだ。

    「お、おれたちが誰の命令で動いているか、知ってるのか・・・?!」
    「あァ・・・?」
    クロコダイルの靴の下で、踏みつけられた男が苦し紛れに叫んだ。
    実に嫌そうな顔をしたクロコダイルは、自分の足元を見下ろす。
    「"天竜人"だ!!!"世界貴族"の中で、オペオペの実を欲しがった奴が居たんだ!!てめーらがどう阻止しようとしても無駄なんだよ・・・!!」
    僅かに、クロコダイルの瞳が揺れた。
    左目の傷。マリージョアに"入れない""中将"。"ドンキホーテ"。
    あの男の背後と、この世の神との間にある、何か、後ろ暗い"因縁"には、薄々勘付いていた。
    不愉快な声で笑う男の顔面を蹴り付けると、クロコダイルの体がサラサラと崩れていく。

    (・・・あの馬鹿。どうするつもりだ。)

    嫌な、予感がした。
    あの男は、その"因縁"を、病的な程恐れ、"隠している"。
    海軍入隊前の、"白紙"の"経歴"。同じ姓。あの男が、"火"と"民衆"を異常に恐れる"理由"は、知らない。

    「また、"夜泣き"が酷くなるな・・・。」

    ######

    「ハァ・・・、ハァ、お前、こんな事して、タダで済むと思うなよ・・・。」

    散らばった人間の頭と、広がる血の海に、"最後の一人"がガタガタと頭を抱えて朦朧と呟いた。
    ゆっくりと、その男に歩み寄ったドフラミンゴは、喉の奥で小さな笑い声を上げる。
    「"天竜人"の命令だぞ。海軍にも手を回してある。お前、どうなっても知らないぞ・・・!!」
    「・・・そうか。そりゃァ、怖ェなァ。」
    的中した"黒幕"に、ドフラミンゴは驚きもせずに、その男の目の前にしゃがみ込んだ。

    (この海にゃァ、馬鹿しかいねェのか。)

    欲しがる全てが手に入ると思う、神様気取りと、それに良いように使われる"正義"の"砦"。
    自分を、捜査から外せばこの黒幕の存在に気が付かないと高を括った"世界政府"。
    それとも、黒幕に気が付けば、"元"お仲間だった過去の露呈を恐れて、口を噤むとでも思ったか。
    「お前、おれを、"操られる"だけの、"ゴミ共"と同じだと思っているだろう。・・・おれは、テメェらとは違う。」
    「・・・は、ハァ?」
    ちらりと、後ろの方でローを支えて立つロシナンテに視線を走らせた。
    "弟"は、まるで、あの男と同じように、"同胞"を求め、"人間"になりたがった。
    (・・・だが、おれは、"違う"。)

    足元に火を放った人間達。残虐。痛い、痛い。

    あんな、憐れで、残酷な生き物とは、"違う"。

    ("人間"に、"成りたい"なんざ、思った事は無い。)

    「おれは、」

    ギラギラと、妙な光を放つ瞳で、ドフラミンゴは大きく腕を振り上げた。
    "人間"になれば、また、"踏み躙られる"。
    そんな、脆く危うい場所に、立つ気は無かった。

    「おれは、元"天竜人"だ。」

    ドフラミンゴの腕の動きに合わせて飛んだ生首を目で追うと、空き家を押し潰すガレオン船の上で、揺れる葉巻の煙と目が合った。
    その煙を吐き出す"人間"は、気の毒そうに眉を顰めている。
    その、瞳を見た、ドフラミンゴの口元が、ゆっくりと弧を描いた。

    ######

    「また、あの"中将"か・・・。手に負えん。」
    「直接"世界貴族"に噛み付くとは・・・、あの男の凶暴性を甘く見ていた。」
    「処遇はどうする。海軍本部に置いておけば、世界貴族達から反感を買うぞ。」
    「・・・奴は"国宝"のことを知っている。海軍本部から出すと厄介な事になる。」
    「全く・・・"天竜人"も厄介なモノを欲しがったな・・・。一体、どこのどいつだ。」
    「ロズワード家の者らしいが・・・詳しくは知らん。"勝手に"海軍本部にまで手を回しおって・・・。」

    "聖地"マリージョア、"パンゲア城内""権力の間"。
    "いつも通り"、一人の天竜人が欲しがった"下々民"が、よりによって海軍本部の大佐で、しかも、"あの男"が可愛がる"弟分"だった事に、権力の間は少しだけ、騒々しくなっていた。
    どうにか"あの男"に勘付かれないよう、苦肉の策を打ち出してみたが、どうやら失敗に終わったようである。

    「ああ、やはり、"海軍本部"に、大人しくローを差し出すよう言ったのは・・・あんた達じゃ無かったのか。フフフッ。"五老星"の名が泣くぜ。」

    気配もなく、"権力の間"に突然不穏な声が響いた。
    少しだけ、空気がざわめいて、"五老星"が振り向けば、その窓枠に座る、大きな男が目に入る。
    音も無く、室内に入り込んだ"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"は、カツカツと革靴を鳴らして五人の前に立った。

    「おかしいと思ったぜ・・・。テメェらが、このおれに、楯突く筈がねェからなァ。」

    ゴトン、と、ドフラミンゴは塵一つない綺麗なテーブルに、"何か"を置く。
    テーブルに置かれたその"生首"は、オペオペの実の能力者を欲した天竜人が放った刺客、ヒューマンショップのオーナーの物だった。
    真っ赤に濡れた手のひらを、ドフラミンゴはハンカチで拭う。

    「"聖地"に、"首"を、持ってくるのは二度目だなァ。懐かしいぜ。」

    「・・・貴様、それは"世界貴族"への反逆だぞ。」

    「"だから""何だ"。・・・フッフッフッ。おい、老いぼれ共、テメェらおれを"監視"したいが為に海軍本部に置いてるなんざ、酷い勘違いを起こしちゃいねェか。」

    深い緑のジャケットに付いた赤い血痕を、少しだけ残念そうに眺めたドフラミンゴは、血塗れのハンカチを床に放った。
    べチャリと、高価そうな敷物に落ちたそれが、水っぽい音を立てる。

    「お前ら、おれを、"殺せなかった"だろう。今後もそうだ。・・・だったら、お前らはおれの機嫌を損ねないように"踊る"しかねェんだよ。この世界を覆す、"国宝"を、バラされたくなけりゃァな。」

    ああ、忌々しき、"ドンキホーテ"の血筋。

    あの馬鹿な男が、"人間"になどなりたがらなければ、こんな、"弱味"は生まれなかった。
    五老星達は苦虫を噛み潰したような顔で、その、"異端児"を睨めつける。
    何度も、この男を殺そうと画策したが、生き延び、海軍本部にまで入り込んだこの元"同胞"は、紛れもなく、神々の"天敵"。
    黙り込んだその"最高峰"達に、ドフラミンゴはまた、押し殺したように笑った。

    「今後一切、海軍本部と、"おれの家族"に手出しはするな。
    ・・・おれは、この世界に愛着なんて無い。いつでも、ひっくり返してやるよ。」

    ######

    「ドフラミンゴ、ドフラミンゴ・・・!!はやくしろよ!!整理券が無くなる・・・!!」
    「いやもう帰りたい。大丈夫だ。買ってやる。あの手この手で手に入れてやるから、もう帰ろうぜ・・・。」
    「ふざけんな!!!!そんなの他のソラクラスタに申し訳が立たねェだろうが・・・!!!!」
    「何一つ理解できん。」

    晴天の空の下。シャボンディ諸島で開催されている"北の海"フェアは、大層な繁盛で、多くの人でごった返している。
    普段から、人混みを避けているドフラミンゴは、既にげんなりとして、自分の腕をグイグイと引くローに、やんわりと言った。
    そんな顔色の悪いドフラミンゴを、ローはこっそりと見上げる。

    "あの後"、疲労で気を失ったローが目を覚ましたのは、海軍本部の医療施設で、大量のおにぎりと、疲れた顔をした"大参謀"に迎えられた。
    目を覚ましたローの顔を見るなり、泣き崩れたその"大参謀"に、面食らったのはローだけでは無かった。

    『な、泣く事ァねェだろう。おつるさん。』
    『ろ、ロー!元気だよな!!腹に穴開いてるけど!!大丈夫だよな?!ほら、おつるさん、ロー元気だぞ!!』
    『あ・・・ああ!!元気だ!!心配掛けて悪かったよ、おつるさん!!!』
    焦った顔のドフラミンゴを見るのは久しぶりだった。
    思い返すと、今でも少し笑えてしまう。

    自分を含め、"兄貴"達は"世界貴族"に噛み付く形となった訳だが、取り巻く状況は怖いくらいに何も変わらない。
    シャボンディ諸島の片隅で起きた"大殺戮"は、翌日の新聞には"違法人身売買組織"と、"名も無き海賊団"の抗争と載っていたし、そもそも、ローが居なくなった事実を、海軍本部で知っていたのは、"元帥"と"大参謀"だけだった。
    本部内を包帯だらけで歩いていたら、葉巻を二本咥えた白い髪の准将は本当に"驚いた"顔で、"何だ、どこでヤンチャしてきた"などと言ってきたのである。
    "戻ってきた"時に、要らぬ詮索をされないように、騒ぎ立てなかったのは"元帥"の計らいか。
    相変わらず、"過保護"な連中だ。

    (・・・それに、)
    人混みの中でも一際目立つドフラミンゴに、ローはため息を吐く。
    "元"天竜人が、"現"天竜人に、それ程大きな影響力を持つ筈がないのは、流石のローにも分かっていた。
    なのに、恐ろしく平静を保った"日常"を、この男は一体どんな手を使ってもぎ取ってきたのか。

    「お前、何で"一人"で逃げようとしたんだ。」

    海の戦士ソラの、フェア限定フィギュアの整理券を貰う列に並んだドフラミンゴは、ふと、思い出したように言った。
    ローは、逃さないようにと掴んでいた腕を離す。

    (・・・何故。)

    そう言われると、言葉にし難い。
    ドフラミンゴとロシナンテが、海軍側に回るとは思っても居なかったし、二人の元に逃げ帰っても良かった。

    (・・・ただ、)

    この不遇な兄弟が、やっと手に入れたその"安穏"を、自分のせいで壊したくは無かったのかもしれない。
    あまりに大きな黒幕に、そもそも対峙して欲しくは無かったし、まさかこんなにも丸く話が収まるとは、夢にも思っていなかった。

    「さァな。ただ・・・あんたに、"酷"な"判断"をさせると、また、夢見が悪くなるんじゃねェかと思ってな。」
    「何だそりゃァ。ガキか、おれァ。」
    「ま、安心しろよ。一人でどうにかしようとしても、どうせあんたら出張ってきちまうんだ。次は諦めて、最短ルートであんたらのとこに行くよ。」
    「・・・そうだな、そうしろ。」
    あの時、朦朧とする視界に現れたドフラミンゴは、少しだけ、悲しそうに笑っていたのを覚えている。
    あんな顔で笑われるのも、"大参謀"に泣かれるのも、もう、たくさんだ。

    「おい。あっちのテーブルでボヤ騒ぎが起きてるぞ。火元はテメェの"弟"だ、フラミンゴ野郎。」
    「ゲッ!!鰐野郎!!!!」
    弟に付き添い、こんな平和な庶民的フェアで、限定フィギュアの整理券待ちに並んでいるところを、絶対に見られたくなかった男が目の前に現れ、ドフラミンゴは思い切り口角を下げる。
    全くこの場にそぐわない、"サー"・クロコダイルは、周りへの配慮など微塵も無い様子で、悠々と葉巻の煙を吐き出した。
    「何でテメェがこんなとこにいるんだよ。」
    「お宅の"大参謀"直々に食事の誘いを頂いてね。"お礼"だそうだ。」
    「お前、おつるさんと仲良くすんの止めろよ。なんかおれが気まずい。」
    「・・・そうか、ワニ屋も、面倒掛けたな。悪かったよ。」
    「・・・フン。」
    珍しく、生意気さの無い顔で言うローに、クロコダイルは鼻を鳴らしてその頭に白い帽子を被せる。
    路地裏で拾った、血塗れのそれと、同じものだ。
    「・・・ふッ、」
    「・・・なんだよ。」
    目深に、新品の帽子を被ったローは思わず吹き出す。
    その様子に、クロコダイルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

    「ふ、ハハハ・・・!"三つ目"だ・・・!ありがとう・・・!」

    まるで、少年のように笑ったローに、ドフラミンゴとクロコダイルは毒気を抜かれたように、呆れた顔を見せる。

    「おれが買ってやった奴は一番高ェから、ここぞという時に被りたまえ。」
    「オイオイ、聞き捨てならねェなァ鰐野郎。おれのをそんなフェイクファーと一緒にするなよ。」
    「クハハハハ。フェイクファーが何なのか存じ上げないが、おれのは超希少な"雪兎"の毛皮で作ったものだぜ。」
    「・・・あ、そうだ!コラさん燃えてんのか?!おれ行ってくる!!ワニ屋。ちょっと並んでてくれ。」
    「・・・あ?」
    「つーかあんなデケェフィギュア、二つも要らねェだろ。」
    「任務で来れなかったドレーク屋の分だ!!絶対整理券二枚手に入れてくれ!!」
    「・・・おい!!なんでこのおれが、こんな愚民共の列に並ばなきゃならねェ・・・!!」
    "頼んだぞ"、と言ったローが一瞬で消え、入れ替わった小石がドフラミンゴとクロコダイルの足元に落ちた。
    それを見つめ、束の間、謎の沈黙が降りる。

    「アー、鰐野郎。別に、隠してた訳じゃねェんだが、」
    場違いな雰囲気と、黙ってしまったクロコダイルに、ドフラミンゴは歯切れ悪く、口を開いた。
    "こんなところ"で、穏やかに暮らしていると、自分が、"人間"の憎悪の対象なのだということを、偶に、忘れてしまいそうになる。

    "奴ら"と同じ様に、この男も、自分に、牙を剥くのだろうか。

    (・・・なんてな。)

    「だからな・・・、」
    ドフラミンゴの殊勝な様子に、うんざりとため息を吐いたクロコダイルは面倒臭そうに額を掻いた。

    「・・・興味ねェんだよ。お前の、その"人間嫌い"も、バレたくねェ"某"も、全て、おれには関係ねェだろうが。」
    「・・・そうか。」

    どこか、安心したように笑ったドフラミンゴに、クロコダイルも珍しく口角を上げて、満足そうに煙を吐き出す。
    正直なところ、この"人間嫌い"が、自分という"人間"を、憎んでいたとしてもどうでも良かった。

    「まァ、あれだな。」
    「・・・なんだよ。」
    「今回は、慰めてやらん事もねェな。」
    「・・・マジで。今回は嫌な事色々思い出してマジぴえんだぜ。ヨシヨシしてくれ、鰐野郎。」
    「何を言ってるのか分からん。」
    冗談めかして言ったドフラミンゴに、クロコダイルは不機嫌な顔に戻り、ドフラミンゴのシャツの胸ポケットに紙切れを差し込む。
    紙切れに書かれた、クロコダイルが宿泊しているホテルの名前と部屋番号に、ドフラミンゴはパチパチと瞬きを繰り返した。
    「嘘だろ。なに、おれ、明日死ぬの?」
    「そりゃァ、"神のみぞ知る"って奴だな。」
    四年に一度、あるかないかのこの男からの誘いに、ドフラミンゴはニヤける口元で弱々しく呟く。
    ニヒルに笑ったクロコダイルが、手を振って列から抜けると、その瞬間、空中からローが降ってきた。
    「何だよ、ニヤニヤして、気持ち悪ィな。」
    「兄上は今世紀最大のデレを鰐野郎から頂きました。」
    「ふーん。良かったな。」

    遠くなっていく、黒いコートの後ろ姿を眺めて、ドフラミンゴはその、"優しい""無関心"にどうしようもなく救われる。
    いつでも、彼は、"興味が無い"癖に、"居て欲しい"時を知っていた。

    「いーい男だぜ。ほんと。」
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202