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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフコラロ海軍if(+7武海鰐野郎)
    最終話
    いつもの海軍ifの過去編になります。
    ※ドフ鰐前提
    ※あの島の一件に感銘を受けて(n回目)、過去編スタートです。
    ※ド28歳✕鰐33歳
    ※いつもの如く海軍仕様に捏造、ご都合主義注意

    プラズマ・ダイブ!!!③『・・・"オペオペの実"・・・、は、・・・億、』

    『"三週間後"・・・、"ルーベック"に・・が、』

    ジジ、ジジ、と、殆どノイズに遮られた"通信"が電伝虫から流れ出る。
    その、耳障りな会話を自室で聞きながら、ドフラミンゴの口角が上がった。
    "リミット"は、"三年"。
    随分早く、"その時"が来たものだ。

    元海軍将校だった、"海賊"ディエス・バレルズとの間で交わされる、極秘の取引。
    50億などという大金を、海軍本部が動かせる訳が無かった。

    (・・・"政府"が、絡んでやがるな。)

    その憶測に、笑いが止まらない。
    "聖地"に、"首"を、持って行った"あの日"、"奴ら"に"殺されかけた"あの日から、ドフラミンゴの頭の中には、"二つ"の算段が巣食っていた。
    一つは、この世の"システム"を、"破壊"する方法。
    もう一つは、この世の"システム"を、"操る"方法だ。

    (奴らは、おれを、"持て余している"。)

    あの馬鹿共が、この"時代"を"恐れている"のには、訳があった。

    (世界政府から、オペオペの実を"横取り"しても・・・、)

    「"おれなら"、或いは、」

    "許される"かも、しれない。

    ######

    「・・・どうかしたか、センゴクさん。」

    昼食の後、センゴクに呼ばれ、執務室を訪れたロシナンテは、二人の時にしか見せない、些か緩んだ顔で扉を開けた。
    いつも通り、忙しそうに書類の山に埋もれたセンゴクを、少しだけ心配そうに見る。

    「ああ、ロシナンテ、悪いな。」
    「・・・いや、忙しいなら後にしますか?」

    気遣うロシナンテに、大丈夫だと言ったセンゴクは、デスクの下から何やら紙袋を取り出した。
    大きめのそれには、新世界で大人気のキッズ向けアパレルブランドのロゴ。
    「ローに着せてやれ。そろそろ寒くなる。任務で新世界に行った時に見つけてな。」
    「おおお・・・!」
    紙袋からふわふわの部屋着を取り出したロシナンテが、キラキラと目を輝かせた。
    フードにはクマのような耳まで付いている。
    「ぜってー可愛いじゃん!流石センゴクさん!!」
    「いいか、ロシナンテ、着せたら、」
    「写真な。オッケーオッケー!任せてくれ!!」
    既にローの洋服は十着目のプレゼントだが、二人はその貢ぎ方に違和感を感じていなかった。

    「・・・ロシナンテ、本題なんだが。」

    ひとしきりはしゃいだ後、湯呑を傾けたセンゴクは、改まった様子でロシナンテを見る。
    紙袋を足元に置いたロシナンテは、怪訝そうにその顔を見下ろした。
    「・・・近々、超極秘の取引がある。」
    「・・・超極秘?」
    「"海賊"ディエス・バレルズから、"オペオペの実"を買う。」
    「ハァ?!海賊と?!しかも・・・ッ、"オペオペの実"って、何で、」
    「・・・"上"絡みでな。」
    敵対する海賊と取引をすること自体相当後ろ暗いが、その取引される"悪魔の実"にも、ロシナンテは不信感が湧いて出る。
    聞き齧った知識だが、"奇跡"を起こせる、"人体改造能力"。

    (それを、)

    必要とする生命は、今、この海軍本部に居るというのに。

    「・・・その実は、誰が食う予定なんです。」
    「・・・そこまでは知らされていない。」
    「なァ、センゴクさん。その実があれば、」
    「黙れ・・・!!」

    ダァン!!!と、センゴクの拳が机と衝突し、大きな音を立てた。
    言われなくても、そんなのは、この男にだって分かっている。
    昂った感情を抑え込んだセンゴクは、一度息を吐いた。
    「・・・すまん。
    取引が無事終了したら・・・実の能力者にローの病気を治して貰えるよう、便宜は図るつもりだ。」
    この組織の"上"が、そんな、人間らしい感性を持っているとは到底思えない。
    それでも、それがセンゴクの立つ場所で出来る精一杯なのだろう。
    ロシナンテは、困ったように頬を掻いた。
    「・・・ドフラミンゴが、この取引に勘付いている。」
    「・・・ドフィが?」
    痛む頭を押さえるセンゴクが、絞り出すように言った"兄"の名前に、ロシナンテは声を上げる。
    確かに、ドフラミンゴは何かと鼻が利く。
    「奴が・・・妙な気を起こさないよう、見張っていてくれないか。ロシナンテ。」
    「・・・おれに、ドフィを止めるのは無理です。」
    「動向を私に知らせるだけで良い。・・・この取引は政府案件なんだ。奴が何かを起こしても、庇いきれん。」
    苦しげに言ったセンゴクに、ロシナンテは思わず苦言を飲み込んだ。

    "聖地"から、降ろされた"神"の"子ども"。
    潰れた左目。"出禁"を突き付けた割に、この場所からは追い出さない"上"の連中。
    考え出せばキリが無い、あの日出会った小さな二人の少年を、取り巻く全てが後ろ暗い事に、センゴクは気付いていた。
    何か、何かを起こせば、奴らは呆気なく、この二人を消し去ってしまうのではないか、そう、ずっと、危惧している。

    (・・・或いは、その、"逆"か。)

    "手"を、出しあぐねる理由が、"何か"あるとしたら。
    それなら、

    「センゴクさん・・・あんた、ドフィを、"けしかける"つもりですか。」

    たった今、まさに、"思っていた"事を口にしたロシナンテに、センゴクの瞳が揺れた。
    ロシナンテは、珍しく感情の読み取れない顔で、見下ろしている。
    「あんたが、隠そうと思えば、流石のドフィだって掴めない筈だよな。・・・センゴクさん、本当は、"そうなる事"を、"望んで"いるんじゃねェのか。」
    「ロシナンテ、聞け、」
    「そうなんだよな?!おれたちが元"天竜人"だから、何かの"特例"が働くことを、期待してるよな・・・?!」
    そうやって、"人間"が、あの男を、"踏み躙る"から、ドフラミンゴは、いつまで経っても安らかに"眠れない"。
    ロシナンテの手のひらが、センゴクの胸倉を掴んだ。

    『・・・"優しい"から、"困る"んだ。』

    世界が、優しいままで、居てくれないと、あの男は、また、"誰か"に"銃口"を、向けてしまう。
    ロシナンテは、それが、怖かった。

    「おれたちは・・・ただ、"マリージョア"で"生まれただけだ"!!・・・おれも、ドフィも・・・ただの、"人間"なんだよ!!センゴクさん!!」

    呆気にとられるセンゴクの襟を離して、ロシナンテはフラリと後退る。
    "上"も、"下"も、皆"線"を引きたがるが、あの地に住まう生き物は"はじめから"、"人間"なのだ。

    「・・・すまない、ロシナンテ。本当に、奴を仕向けるつもりは無いんだ。・・・信じてくれ。」
    疲れ切った顔で、呟いたセンゴクは、汗の滲んだ額を撫でる。
    立ち尽くすロシナンテを見上げて、奥歯を噛み締めた。

    『現場で人の命を取るのはワシらだで!!!ならばせめてオハラの学者たちが完全な悪だという証拠をくれ!!!』

    前にも、世界政府の名の下に、踏み躙った、生命がある。
    次に、踏み躙るのは、あの、"珀鉛病"の"少年"か。
    それとも、"元"天竜人の、哀れな男か。

    「・・・オペオペの実は、諦めよう。ロシナンテ。また、きっと、チャンスは来る。」

    「・・・センゴクさん、」

    「ドフラミンゴを、頼むぞ。ロシナンテ。奴らは、"口実"さえあれば、あいつの首を刎ねるかもしれん。」

    ######

    「・・・どこへ行くんだい。」

    深夜。月の明かりが差し込む長い廊下。
    海軍本部内は、当直の僅かな海兵以外に、誰も居ない筈だった。
    バレルズとの取引まで、もう、幾日も無い。
    いつも通り、"4階"の廊下の窓から外へ飛び出そうとした男は、つるの声にゆっくりと振り返った。

    「・・・"北の海"、"ルーベック"。」

    にんまりと歪む、その唇から、低い声が漏れて、サングラスがギラリと光る。
    その二つの地名が意味するところを、つるは、知らなかった。
    それでも、肌を焼くような"嫌な予感"に抗えず、つるはここに立っている。
    「こんな時間に、出て行く事があるのかい。」
    「フフフッ。なんだ、あんたも知らねェのか。"中将殿"。トップシークレットだったか。」
    「・・・何の話だい。」
    自分の預かり知らない後ろ暗い案件は、この海軍本部には数え切れない程存在していた。
    それなのに、この、妙な"予感"は何だろうか。
    また、誰かが、この男を、傷付けてしまう。そんな、悲しく怖い出来事が、起こる気がした。

    「"海賊"ディエス・バレルズから、海軍本部は50億で"オペオペの実"を買うらしいぜ。」

    そんな、キナ臭い取引は、この世界の"下請け"では稀にある事。
    そんなものよりも、つるはドフラミンゴの口にした、悪魔の実の名前に、眉を顰めた。
    その心中を、目敏く見抜いたように、ドフラミンゴは嬉しそうに笑う。

    「あんた、今、"欲しい"と思ったろ。
    あの実がありゃァ、可哀想なガキを、"一人"救えるもんなァ。」

    笑う、笑う、ドフラミンゴの口元に、つるは相変わらず厳しい表情を浮かべた。
    大金が動くなら、それは、政府の案件である。
    そんなものに、この男は、手を付けようとしているのか。

    「・・・世界政府から、横取りでもするつもりかい。そんな事をして、どうなるか分かっているのかい。」

    「フッフッフッ!!!どうだろうなァ。それを、"試して"みてェと思ってたんだ。」

    ドフラミンゴの言葉の意味が分からないつるは、初めてその表情を歪めた。
    確かに、この男には"世界貴族"の血が流れている。
    しかし、今、その立場には居ないのだ。

    「・・・あんたが、止めろと言やァ、おれァ、止めるぜ。・・・どうする。"中将殿"。」

    試すように、その目を覗き込むサングラス越しの瞳は、どうやたって、見えない。
    つるの逡巡を見透かして、ドフラミンゴはまた、喉の奥で笑い声を上げた。
    元より、"誰か"の"牙"に、なるつもりは無い。

    「冗談だ。そう怖ェ顔をしないでくれ。」

    「・・・お行き。」

    「・・・あァ?」

    窓枠に足を掛けたドフラミンゴの背中に、思いがけない台詞がぶつかった。
    掠れる声で、振り返ったドフラミンゴの正面で、つるはその大きな男を見上げる。

    「お前なら、上手く、やれるんだね?お前は、それで、"傷つかない"かい?」

    その細い肩に似合わぬ眼光で、ドフラミンゴを見上げたつるは、"中将"だった。
    二の句が継げないドフラミンゴの口元から、笑みが消える。

    「お前に、"賭けて"、いいんだね?」

    一度、バチリと合った視線に、ドフラミンゴの方が逃げるように瞳を細めた。
    これから"仕出かす"大きな事件が、痛みを伴うかどうか、そんなこと、ドフラミンゴにも分からない。

    「・・・おれに"賭ける"なァ、正解だ。上手くもやれる。・・・だが、傷つかない選択は、この海にゃァ、ねェだろう。」
    「それなら、傷ついたら、すぐに"帰って"おいで。」
    「フフフッ。なんだ、慰めてくれんのか。」

    今度こそ、本当に飛び出してしまおうと、言いながら笑ったドフラミンゴが背中を向けた。
    その大きな背中を見据えて、つるは、小さく口を開く。

    「・・・帰ってきたら、みんなで、ごはんでも食べようか。ドフラミンゴ。」

    その、あまりにも平和ボケした物言いに、ドフラミンゴの口角がグイ、と下がった。
    人間も、この世を支配する"神気取り"も、システムも、時代も、全てが全て、大嫌いだ。
    その中に紛れ込む、目眩がする程、眩しい何か。
    そんな物があるから、きっといつか、自分は、"許して"しまう。

    「・・・あんたは、"人間"なのに、優しいなァ、"おつるさん"。」

    そう、呟いて、そのハイカラな"猛鳥"は、夜の空へと、羽ばたいた。
    それを見送る"共犯"は、自分の震える肩を、抱き締める。

    「・・・頼んだよ。ドフラミンゴ。」

    ######

    『ドリィー!!酒を運べェー!!』

    『バカげてるぜェ!政府は頭でもおかしくなったのか??!』

    「フー・・・。」

    寒い。しかも、"雪"だ。
    海軍本部から命を受けて、"北の海"バレルズ達の拠点"ミニオン島"に張っているクロコダイルは、そのアジトの屋根の上で葉巻の煙を吐き出した。
    今は止んでいる雪も、いつまた降り出すかは不明。
    濡れるのは避けたいクロコダイルが、"何故おれなんだ"と心の中で悪態を吐いた。
    いつまでこの"馬鹿共"が、巨額に浮かれているのを聞いていなければいけないのか。

    ふと、その耳に、"妙な""羽音"が届いた。
    その瞬間、クロコダイルの瞳がギラリと光る。

    (・・・お出ましだ。)

    この"据え膳"を、みすみす逃すような男なら、クロコダイルが興味を抱く事も無かっただろう。
    バサバサと羽ばたく、"正義"のコートが視界の端に映ったところで、クロコダイルの体はサラサラと崩れていった。





    ("海軍本部"と、"バレルズ"の取引は"三日後"。・・・なら、奴らの"拠点"を叩いた方がはやいな。)
    天駆ける"夜叉"の名に違わず、空中を猛スピードで移動するドフラミンゴは、"ルーベック"を素通りし、"ミニオン島"を目指す。
    "奪う"のは、簡単だ。全員、殺せばいい。
    大切なのは、その後の行動。

    "知ってしまった"、奴らの"心臓"。送り込まれる刺客。生き延びた過去。

    この地に生きる、"操られる"馬鹿共とは、

    (・・・おれは、"違う"。)

    それを、確かめる時が来たのだ。






    「コラさん、ここどこだよ。なァ、コラさん。」
    「・・・ちょっと黙ってろ、ロー。もうすぐだから。」

    ザクザクと、雪を踏みしめて歩く影が二つ。
    小さな手のひらを握り、ひたすら歩みを進めるロシナンテは、何本目か分からない煙草に火を点けた。

    『ロー。"オペオペの実"は、お前が食うんだ。』

    『世界中を敵に回す事になるが・・・それでも、生きるんだ。』

    『病気を治したら、二人で海へ出よう。世界を見て回ろうぜ。』

    思い詰めた顔で、ローを海軍本部から連れ去った割に、海の上でロシナンテはやけに饒舌だった。
    それなのに、この雪の降る島に降り立ったロシナンテは、緊迫した面持ちで、ひたすら前へと進むのみである。

    (・・・悪い、センゴクさん。)

    さっきの"状況報告"では、"ドフラミンゴ"がローを連れて"ミニオン島"へ入ったと告げた。
    未だ、海軍本部はロシナンテの思惑には気付いていないだろう。
    このまま、ドフラミンゴよりもはやく、オペオペの実を奪い、ローに食べさせ、雲隠れする。
    ドフラミンゴの"算段"も、"未遂"に終われば、そう咎められる事はない筈だ。

    「・・・コラさ、ちょっ、と、待って、」
    「・・・ロー?」

    握っていた小さな手のひらが、ズルリと滑って、ロシナンテの大きな手から離れる。
    ゾッとして振り向けば、雪の上にその小さな体が転がっていた。

    「ロー!!!!・・・おい嘘だろ!!ロー!!」

    驚いたロシナンテが駆け寄り、その熱を持った体に触れる。

    "今度"は、ちゃんと、"救える"と思っていた。
    この少年が、"魘される悪夢"を、振り払えると思っていたのに。

    「頼むよ・・・!ロー!!おれに、"チャンス"をくれ!!」

    か細い呼吸を繰り返す、ローの体を抱き上げて、ロシナンテは雪を避けられる場所を探した。
    その白い肌が、熱で真っ赤に染まっている。

    「こらさん、」

    弱々しく、自分の名前を呼ぶローに、ロシナンテはぐ、と、唇を噛み締めた。
    そして、岩場の影にローを座らせると、その頭を撫でる。

    「ロー、ここで少し待っていてくれ。オペオペの実を、必ず持ってくるから。」
    「コラさん、待って、」
    「大丈夫だ。必ず、戻ってくる。」

    震える手のひらを一度、掴んで、ロシナンテは立ち上がると、くるりと踵を返した。
    その瞬間、足裏が滑って大きな体が雪の上に倒れ込む。
    妙に冷静な、ため息が聞こえた。

    「雪、滑るから気をつけろよ・・・。」
    「・・・・・・・・・・・・・はい。」

    ######

    (・・・なんで、"あいつ"が居るんだ。)

    ゆっくりと、廃墟街へ入ったドフラミンゴは、妙に静かな空間で、窓の灯が一つ一つ消えていく様を眺めていた。
    無音の中、割れた窓ガラスに"弟"の存在を悟る。
    "中将"にも知らされていないこの取引を、"中佐"のロシナンテが知る術は、一つだ。
    (・・・センゴクの差金か、)

    「・・・!!」

    そう思った瞬間、僅かな明かりの反射を捉えて、意識する前に体が動く。
    金色の一閃が、ドフラミンゴの頭を空振って、空を切る音がした。
    まるでネオンの残像のように、赤い眼光が軌道を描く。
    (・・・"役者"が、多いな。)
    思い至ったところで、ドフラミンゴの体を砂が巻いた。
    その中から現れた、金色の鉤爪がドフラミンゴの眼前に迫り、それを糸で受け止める。
    ガキィン・・・!と、甲高い音だけが響き、深いグリーンのコートが雪の上で翻った。

    「・・・テメェは、お呼びじゃねェぞ。"サー"・クロコダイル。」
    「残念、おれは"お呼び"なのさ、ドフラミンゴ君。」

    どちらともなく弾かれて、雪の上で対峙する。
    ドフラミンゴの隠された瞳に、クロコダイルの瞳孔が細くなった。

    「バレルズに手を出すなら、おれァ黙っちゃァいねェぞ。こっちも仕事でね。」
    「そうかい。特に眼中にねェから、勝手に騒いでてくれ。」
    落ち着き払って、静かに言った瞬間、同じタイミングで雪を蹴る。
    ドフラミンゴの鼻先に突き出された指輪だらけの手のひらに、思わず顔を背けた。
    逃げ切れなかったドフラミンゴのサングラスが静かに雪の上に落ちる。
    一瞬で、糸に巻かれたクロコダイルの体がピタリと止まった。

    「何だ、隠すには勿体無ェ面じゃねェか。"フライフェイス"。・・・顔に傷のある男は好きだぜ。」

    初めて見た、その"左目"に、クロコダイルが随分と嬉しそうに笑う。
    潰れ、爛れた、人間の"残虐"を描く、見えない"眼球"。
    クロコダイルの嬉しそうな顔に、ドフラミンゴのこめかみでブチブチと何かが切れ去って、右目が獰猛に開いた。

    「・・・おれァ言ったよなァ、"首輪"が、"外れた"ら、"気を付けろ"と。」

    クロコダイルの体が砂になり、絡まる糸を抜けた瞬間、ドフラミンゴが低い唸り声を上げる。
    その眼光を受けて、クロコダイルはニヤリと口角を上げた。

    "対峙"するだけで、こんなにも、"高揚"する。
    その、身も凍る憎悪を、普段、一体どうやって隠しているのか。

    (・・・ああ、こいつと、)

    "敵対"できて、本当に良かった。

    冷静沈着、頭脳明晰、海軍本部の"若き天夜叉"。
    その面の下は、ドロドロと憎悪渦巻く、"化物"か。
    その、表裏に、クロコダイルはずっと、"興味"がある。

    「"おれの"首輪は、外れたぜ・・・"鰐野郎"。棺桶の準備は出来てるか。」

    「すぐに、出来るぜ。"墓標"の要らねェ"棺桶"だ。
    ・・・テメェも気に入ってくれるよなァ!?"フラミンゴ野郎"!!!」

    お互いが、お互いに、"そんな口がきけたのか"、などと、些か場違いな事を思う。
    クロコダイルの振り上げた手のひらに、小さな砂嵐が現れた瞬間、相変わらず無音の中、背後で大きな爆発が起きた。

    ######

    「・・・・・・・・・・・・おい、あれ、いいのかよ。」

    「・・・"准将殿"が良いと思うなら良いのでは。」

    「良い訳あるか。」

    わらわらと、爆発した廃墟から飛び出すバレルズの一味を後目に、掴み合う寸前の二人はその格好のまま制止して、思わず顔を見合わせる。
    何となく、"嫌な予感"を感じたドフラミンゴは、クロコダイルに背を向けて、何とか原型を保つバレルズのアジトへと足を踏み入れた。

    「・・・ドンキホーテ・ドフラミンゴ!!?
    テメェら裏切りやがったな?!悪魔の実を盗んだのもテメェらか?!」

    「・・・だったら、苦労はしねェよ。」

    逆上し、がなり立てたバレルズが向けた銃口を払い、ドフラミンゴは苛ついたようにその顔面を蹴り付ける。
    倒れ込むバレルズの首を、いとも簡単に刎ねた。
    その、躊躇いのなさに、残党達は息を呑む。
    先程の獰猛な眼光は鳴りを潜め、普段は見えないその眼球は、暗く、暗澹としていた。

    「・・・お前らに、生きていられちゃ"困るんだ"。」

    譫言が吐かれた直後、ドフラミンゴの手のひらから現れた糸が光を反射し、次の瞬間にはまるで、操られたように、バレルズの一味が武器を構え出す。

    「うわぁあ!!やめろ!!どうした?!」

    「知らねぇ!!体が・・・"勝手に"!!!」

    突然始まった同士討ちに、騒然となった場から踵を返したドフラミンゴは、空の木箱を一瞥し、舌を打った。

    (オペオペの実は・・・ロシーが奪った後か・・・。)

    何故、とは、思わない。
    奴は、ローに、"銃"を"握らせないよう"、必死なのだ。
    もう"救えない"、"誰か"の代わりに。

    「"ドリィ"!!!!助けてくれ!!!」

    出口へ向かったドフラミンゴの足が、正面で自分を見上げる"少年"に止まった。
    後ろで殺し合う連中は、情けない声で少年の名を叫ぶ。
    バレルズの一味らしい、顎に傷のある少年は、目の前で繰り広げられる騒動に酷く、怯えていた。
    ちらりと、その視線がバレルズの落ちた首に向く。

    「いい"名前"だな。小僧。」

    茶化すように見下ろして、そう言えば、"ドリィ"は一度、ドフラミンゴの右目を見上げた。
    その、がらんどうの瞳に、ドフラミンゴは意外そうに口元の笑みを消す。
    束の間、合った視線はすぐに逸らされ、少年は踵を返した。

    「"M・C""53210"。"准将"。ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」

    走り出した少年の背中に、ドフラミンゴは低い声を投げる。
    僅かに振り返った少年の瞳は、"許容"できる。

    「"ルーベック"に軍艦が停泊しているから、そこでそのコードと名前を伝えろ。運良くそこまで辿り着ければ、助けてくれるかもな。」

    もう、振り返りはしないその背中を、ドフラミンゴはしばらく、見つめていた。

    ######

    (やったぞ!ロー!!オペオペの実だ!!!お前の病気を治せるぞ・・・!!!)

    ザクザクと雪を踏みしめて、ロシナンテは手の内にある奇妙な果実を握り締める。
    ドフラミンゴの仕業だろう。仲間同士で殺し合う海賊達の悲鳴を聞きながら、ロシナンテはゴーストタウンを駆け抜けた。

    『どうせ死ぬんだろ?!さっさと追い出せよ!!あのガキは、"ホワイトモンスター"だ!!!』

    『兄上やめてー!!!!』

    『"お前"の首で、"聖地"へ戻る!!!』

    人間の本性は、"残酷"だ。

    (だけど、)

    『もう、中佐か・・・。あんなに小さかったのに・・・。はやいものだな、ロシナンテ。』

    『ロシナンテ、おいで。ごはんにしよう。』

    "それ"だけじゃないと、教えるくらい、別に、良いだろう。

    その時、走るロシナンテの目の前に、音も無く大きな影が舞い降りた。
    その見覚えのある風体に、ロシナンテは一度、悲しげに眉を顰める。

    "無視"し続けた傷跡が、人知れず開き、血を流し始めた事を、いい加減、直視する時が来たようだ。

    「・・・こんなところで何をしている。ロシナンテ。」
    「・・・ドフィ。」





    「・・・どうしたもんかね。」
    雪の上に散った、真っ赤な血を見下ろしながら、クロコダイルはゆったりと歩く。
    同士討ちを始めた馬鹿共の間をすり抜けながら、うんざりと顎を擦る。
    バレルズは死んだ。悪魔の実も無い。
    一応、無事に取引が終わるように護衛することが、クロコダイルに与えられた任務であったが、既に失敗と言える。
    そもそも、こんな公表できない取引に、海賊を関わらせるなど、理由は一つだ。
    何かあれば、すぐに尻尾を切れる、その後腐れの無さ。
    (・・・トンズラしちまうか。)
    いやしかし、七武海の椅子は捨てがたいな、などと、腹の中で悶々と自問自答を繰り返した。

    「・・・すッ・・・!!!!!!」
    「・・・あァ?」

    考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか街外れまで来てしまったらしい。
    突然上がった"子ども"の声に、クロコダイルは思わず下を見下ろした。
    「"すなのおうさま"・・・!!!!」
    「・・・少年。こんなところでどうした。随分具合が悪そうだが・・・。兄貴はどうした。」
    見覚えのある、海軍本部の"馬鹿共"の"ガキ"。
    キラキラとした瞳で見上げてくる"ロー"に、クロコダイルは些か面食らって気だるげな瞼を開いた。
    "兄貴"の言葉に、ローは泣きそうに顔を歪めて、小さな手のひらでクロコダイルのコートを掴む。
    「・・・コラさん、戻って来ねェんだ!!きっとどっかでドジって泣いてるに決まってる!!すなのおうさま!!頼むよ!助けてくれ・・・!コラさん、おれのためにオペオペの実を盗みに行ったんだ・・・!!」

    (あの爆発は、"弟"の仕業か。)

    その言葉に、何かと合点のいったクロコダイルはくわえていた葉巻を砂にしてから、ローの目の前にしゃがみ込んだ。
    「頼むよ・・・、絶対に死んで欲しくねェ人なんだ・・・!」
    ローの瞳から、やっとこぼれた涙に、クロコダイルは何の感慨も抱かなかった。
    踏み躙られた、"白い街"の"死に損ない"が、あの兄弟に執着する要因は充分である。
    クロコダイルは黙ったまま、親指でローの目元に触れた。
    後から後から、流れる涙を吸い取ると、乾いた頬にローが不思議そうな顔をする。

    「・・・男が、みっともなく泣き喚くのはいけねェなァ。」

    そう言ってから、着ていたコートでローを包み立ち上がった。

    「連れてきてやるから、待ってろ。」
    「ほ、ほんとか?!ありがとう、すなのおうさま!!!」

    この少年の、"英雄"になるのも悪くない。
    どうせもうこの島でやる事も無い。
    いくつも言い訳を考えてから、クロコダイルはローに口角を上げて見せた。

    「馬鹿野郎。"海賊"に、礼なんか言うもんじゃねェぞ。」

    サラサラと崩れたクロコダイルの姿に、ローは未だ輝く瞳のまま、かっこいー・・・、と呟く。
    風に巻き上げられた砂が、天高く登っていく様を、ずっと、見ていた。


    (・・・クソ寒ィ。)
    一方、コートを無くした"すなのおうさま"が、そんな悪態を吐いた事を、地上の少年が知る由もない。

    ######

    「ロシー、お前、オペオペの実を、持っているな。」

    殺し合う、背後の喧騒が、妙に遠く感じる。
    ドフラミンゴは対峙した"弟"に、低い声で問いかけた。
    目の前のロシナンテは、苦しげな表情のまま、一歩、後退る。

    「お前、こんな事を仕出かして、この後どうするつもりなんだ。」
    「・・・ローの病気を治して、二人で逃げる。」
    その台詞に、ドフラミンゴの額に筋が浮いた。
    いつもそうだ。楽観的で、平和ボケした、自分とは相容れぬ"価値観"。
    「・・・おれに任せておけ。ロシー。全て、丸く収めてやる。オペオペの実を、寄越すんだ。」
    「馬鹿言うなよ。ドフィ。この実に手を付ければ、世界政府に目を付けられる。今まで通りなんて無理に決まってる!!」
    「・・・おれは、」
    酷く、平凡な事を言ったロシナンテに、内心失望したドフラミンゴの視界に、場違いな物が映り込んだ。
    遠くの方に見える港へ、"軍艦"が現れたのである。
    取引は、"三日後"の"ルーベック"。
    バレルズ達のアジトである"ミニオン島"に、海軍は用など無い筈だ。

    (・・・全部、"嘘"か。)

    それもそうだ。あんなにも海軍本部に馴染んでいるロシナンテが、海軍を捨てる決断などできる筈が無い。
    センゴク辺りに、"兄"の"監視"でも命じられたか。
    その筋書きに、ドフラミンゴの口元が、奇妙な弧を描く。

    「フフフッ。軍艦を呼んだのは、お前か、ロシー。」

    やっと、港の様子に気が付いたロシナンテは、ぐ、と言葉を詰まらせた。
    それを肯定と取ったドフラミンゴは、おかしそうに笑い声を上げる。

    (お前は、紛れも無く、"あの男"の息子だ。ロシー。)

    取り返しのつかない"問題"で、"正解"を選べない、"敗者"。
    何故"彼ら"は、こうも自分の邪魔をするのか。

    「ドフィ、オペオペの実は諦めて、このまま帰れ。」
    「お前こそ、何故おれの邪魔をするんだ!!おれに任せておけば・・・全て丸く収まるんだぞ!!!」
    「そんな訳あるか!!!"人間"一人が、世界を敵に回すんだぞ・・・!!今まで通りなんて、そんなの無理だ!!!」
    ブツン、と、ドフラミンゴの頭の中で、張っていたものが切れ去った。
    弟の裏切り、ままならない現実。待っている、"あの人"。

    『お前は、それで、"傷つかない"かい?』

    (・・・馬鹿言うな。)

    (この世は、おれに、優しかねェんだ。)

    ドフラミンゴの腹の中で、黒い何かが渦巻いていく。
    酷い目眩がして、吐きそうだった。
    するりと、縋るように懐へ手を伸ばし、小さな銃を掴む。

    「・・・おれを、」

    チカチカと、目の前がやけに眩しくて、ロシナンテの姿が眩んだ。
    ああ、そうだ。"前"も、"そうだった"。

    いつだって、この、"破壊衝動"に、折り合いが付けられない。
    ズキズキと痛む左目に、追い立てられるように、懐から手のひらを抜いた。
    あの時は、あんなに大きくて重かった銃は、もう、こんなにも"小さく"て"軽い"。

    「おれを・・・"人間"なんかと一緒にするんじゃねェよ・・・!!!」

    向けられた銃口を、ロシナンテは、ただ、ぼんやりと眺めていた。

    ######

    『おれを・・・"人間"なんかと一緒にするんじゃねェよ・・・!!!』

    いとも簡単に千切れた"枷"に、ロシナンテはモヤモヤと湧く焦燥を感じた。
    怯むという枷を持たない、哀しき"怪物"。

    (・・・また、)

    また、"傍ら"の"少年"を、傷付けてしまうのか。
    ロシナンテはその現状に、思わず奥歯を噛み締めた。

    (・・・いや、違うか。)

    ずっと、後悔している。
    "兄"に"父親"を、"撃たせた"事を。
    その"後悔"に、些かうんざりしてきただけだ。
    海軍本部で、ローを止めた時だって、"嫌"だったのは、"また"止められなかった後悔を、抱く事。

    (・・・自分勝手な野郎だな、おれは。)

    手に入れた安穏まで捨てて、あの少年に、優しい世界を見せようとしたのだって、結局、"そういうことだ"。
    ロシナンテは、震える指で懐の"愛銃"を握る。

    (・・・結局、救われたいのは、"おれ自身"だ。)

    また、"兄"が、身内を殺して悪夢を見るのは、御免だった。

    「なんの真似だ・・・ロシー。」
    懐から抜かれたロシナンテの手のひらに握られた銃を見て、ドフラミンゴが低く唸る。
    大方、全員死に絶えたのか、その白い雪の上に立っているのは、もう、二人だけだ。

    『お前に、"賭けて"、いいんだね?』

    衝動のまま、引き金を引けなかった理由に、ドフラミンゴはうんざりとして、動かない指と、向けられた銃口にぎりぎりと歯を食いしばる。

    「ドフィ。ほんとは、何にも囚われずに、ただ、あの、優しい場所で、普通に過ごして欲しかったよ。」

    ロシナンテの瞳が妙な光を含んだ瞬間、"本能"が、反射的に指に力を込めた。
    引き金を引く瞬間、やけにスローモーションで、ロシナンテの顔が悲しげに歪む。
    彼の、指が、いつまで経っても引き金を引かない事に、ドフラミンゴは心底、"後悔"をした。

    この土壇場で、引き金を引いたのは、ドフラミンゴだけだった事に、"やっぱりな"と、心の中で笑い声を上げる。

    (・・・お前は、本当に、"あの男"にそっくりだ。)

    「おれは・・・お前らのような"人間"とは、違う。」

    そう呟いた瞬間、引き金を引いた筈のドフラミンゴの指が、思い切り"空振り"、ザラリとした"砂"の感触だけが、手のひらに残った。

    視界の端で、黒い艷やかな髪が揺れる。
    金色の瞳に、まるで絡め取られるように吸い寄せられた。

    「バーカ。テメェも、ただの"人間"だぜ。"フラミンゴ野郎"。」

    唐突に現れた砂の塊が、目の前で人間を形作り、やがて、クロコダイルが姿を現す。
    その右手が掴んだ小さな銃が、ボロボロと枯れて、乾いた砂に変わった。

    ######

    『・・・誰だ。お前は。』

    暗い、暗い部屋。
    ドフラミンゴはソファに座り、ローテーブルに置かれた電伝虫と対峙している。
    その奇妙な虫が、その先にいる男の顔を模倣し、真一文字に引かれた口元が小さく動いた。

    『ロー、"オペオペの実"を手に入れたぞ。』
    『やったな!!ロー!!これで病気が治る!!』

    ローは、珀鉛をうまく取り出せただろうか。
    それすら確認せずに、海軍本部へ戻ったドフラミンゴは、こっそりと自室に帰っていた。
    "オペオペの実"の取引については、既に"上"には報告されているだろう。
    ミニオン島に現れたセンゴクは、空へと飛び出したドフラミンゴに、難しい顔をしただけで、特に何も言わなかった。

    「"ドンキホーテ"・ドフラミンゴだ。」

    受話器に吐いたその名前に、息を呑む音が聞こえる。
    それに、愉快そうに笑ったドフラミンゴは、小さな受話器を握り直した。

    『・・・なんの用だ。貴様は既に、"我々"に相対できる程の身分では無いぞ。』

    本当に、馬鹿な奴らだ。
    ドフラミンゴは抑えきれない笑い声を、押し殺して、一度額を撫でる。

    「ああ、そうだったな。まァ、そんな事はどうでもいい。・・・オペオペの実の取引は、失敗したぜ。」
    『何故それを、』
    「・・・おれが話しているんだ。遮るんじゃねェよ。」
    長い足をローテーブルに投げ出して、ドフラミンゴは鋭く言い放つ。
    "主導権"が、こちらにある事を、何故この馬鹿共は理解しないのか。
    「バレルズ共が取引を放棄し、オペオペの実を持ち逃げしようとしたんで、全員、殺して、実は取り返した。感謝してくれ。
    ・・・だが、なァ、謝らないとならねェ事があるんだ。」

    一度、言葉を切って、静かに息を吸い込んだ。

    『どうして、そう、不幸になろうとするんだい。お前は、"幸せ"に、なれるんだよ。』

    こうやって、"悪巧み"をしていると、決まってあの"中将"が顔を出す。
    その忌々しさに、ドフラミンゴは心の中で、舌を打った。

    (幸せになんて、なれる訳ねェだろう。)

    『ドフィ。ほんとは、何にも囚われずに、ただ、あの、優しい場所で、普通に過ごして欲しかったよ。』

    巣食ってしまった、"破壊衝動"。殺してしまった、"父親"。
    それなのに、あの女と弟は、平和に過ごせと宣った。
    そんな事が、出来ると、本当に思っているのか。

    「"手違い"で、海兵のガキが"オペオペの実"を食っちまった。すまねェとは思うが、別に、許してくれるよなァ?
    誰にでも、間違いはある。」
    『・・・何だと?!
    知っているぞ!!海軍がフレバンスの子どもを匿っていると・・・!!大方、その子どもにでも食べさせたか・・・!?そんな嘘を、』
    唐突に、ドフラミンゴの長い足が、ローテーブルを蹴り上げた。
    倒れたテーブルと一緒に転がり落ちた電伝虫が、ジタバタとその短い腕を振る。

    「フッフッフ・・・!!!嘘?嘘だと・・・?
    おれが、"そう"と言ったら"そう"なんだよ・・・!!!
    なァ、"五老星"・・・!!!!」

    ああ、愉快だ。
    この世は、どうやら"操れる"。
    黙ってしまった受話器の向こうの"老人達"に、ドフラミンゴはとうとう大きな声で笑い出した。

    あの時知った、"国宝"の存在。奴らの刺客を掻い潜った自分の生命力。それが身に沁みている奴らは、この男に逆らう程、馬鹿では無い。

    (あんたが、信じる程、おれの背後は明るくないぜ。"中将殿"。)

    その時、思考の端に現れた"中将"を、ドフラミンゴは笑って、殺した。

    ######

    「ドフィ・・・!!!ドフィ!!!!」
    「なんだ、ロシナンテ。ノックぐらい、」
    「いーから!!つーか何だよ、電気も点けずに!!」
    唐突に、ロシナンテが喧しく扉を開けて、ドタバタとドフラミンゴの部屋へと飛び込んできた。
    眠りについた電伝虫を、ただ眺めていたドフラミンゴは、振り返りもしない。
    それどころでは無いのか、ロシナンテは勝手に電気を点けて、あろうことか、ドフラミンゴが蹴飛ばしたローテーブルも、"何で倒れてんだ"と呟いて直していた。
    「はやく!来てくれ!!」
    グイグイと腕を引くロシナンテに、根負けしたドフラミンゴがやっと立ち上がると、扉の先に、つるが立っている。

    「・・・中将、」
    「"上"から、ローの事は全て不問にすると、連絡があったようだよ。」
    「・・・あァ、そうか、ヨ"ッ?!?!?!」

    ドフラミンゴが応えた瞬間、つるの瞳がじわりと歪んで、ふらりとその場にしゃがみ込んだ。
    "中将殿"のその姿に、思い切り口角を下げて、おかしな音を出したドフラミンゴがアワアワと狼狽える。
    「な、な、な、泣く事ァねェだろう・・・!!おおおおい、"おつるさん"!!!」
    「ドフラミンゴ・・・、お前、上手くやったんだね。」
    この男を取り巻く、後ろ暗い"特例"。それを、利用したのは分かっていた。
    そのせいで、付いてしまうその傷に、つるはどうしようもなく目眩がする。
    それでも、本当に、望む結末を掴んできたドフラミンゴに、言わなければいけない事は、たった一つだ。

    「・・・ありがとうね。ドフラミンゴ・・・。」
    「・・・いいよ。別に。」
    自分の為に流される涙。自分の帰りを待つ"誰か"。その、直視できない"優しい"世界に、ドフラミンゴは手持ち無沙汰に髪を掻く。

    「ドフにい。」
    「・・・。ロー。」

    つるの背後に、小さな影と、大きな影。
    クロコダイルの足元にくっついたローが、しゃがみ込むドフラミンゴを見上げた。
    その肌を蝕んでいた"珀鉛"は消え失せ、悪かった顔色に、僅かに血色が戻っている。
    何より、その瞳が、出会った頃の、"がらんどう"では無くなっていた。
    消え失せた"同胞"に、ドフラミンゴは少し、悲しげに顔を歪ませて、その小さな体を抱き締める。

    「ぜんぶ、壊したいと思ってたんだ。・・・でも、もう、思わねェよ。」

    腕の中の少年は、小さな手のひらでドフラミンゴを掴み、口を開いた。
    離れたローが、満面の笑みをドフラミンゴに向ける。

    「この世は、いがいと、優しいんだ。」
    「・・・ああ、"そうだな"。」

    この世は自分に、優しいと、認めざるを得ないドフラミンゴは頷いて、その小さな頭を撫でた。
    この優しい世界を、踏み躙られないように、"人間宣言"は放棄する。
    さっき踏み入れた"操る側"に、自分が居続ける限り、きっと、この平穏は保たれるのだ。

    「・・・オイ、一体どんな手を使いやがった。」
    「・・・ゲ。"鰐野郎"。」

    その平和な空間に、ズカズカと土足で踏み入れたクロコダイルは、ドフラミンゴを見下ろして、不機嫌そうに言った。
    任務失敗のお咎めは無く、七武海の席もそのままである。
    明らかに、そそくさとあの島から飛び立ったこの男の仕業だと勘付いていたクロコダイルは、押し付けられたその"借り"にため息を吐いた。
    「いや、そりゃァ、まぁ、色々と、」
    しどろもどろになるドフラミンゴに、クロコダイルは一応遠慮していた葉巻に火を点けて、ぐるりと踵を返す。

    (・・・まァ、"使える"男って事か。)
    そんな、悪党らしい事を思って、モクモクと煙を吐き出した。

    「・・・言いたくねェなら別に良い。お前を取り巻く背景に、さして興味もねェしな。」
    「・・・そうかよ。」
    ひらひらと手のひらを振り、出口へと向かったクロコダイルに、ローが元気いっぱいに腕を振った。
    その大きな背中が、"ああ"と、態とらしく、たった今気が付いたとでも言うような動きで振り返る。

    「"お前"に、興味はあるがな。"素顔"は割とおれ好みだ。
    今度食事でもどうかね、ドフラミンゴ君。」
    「・・・・・・・・・・・は、」

    ニヒルな笑みを浮かべる顔に、ドフラミンゴは天使の放った矢が心臓を撃ち抜く幻覚を見た。
    その、プラズマのように"落ちる"感覚に、ドフラミンゴはしばらくぽかんと口を開けている。
    ロシナンテは、一体何を見せられているんだ、と、引き気味に思った。

    「・・・まったく。油断も隙もない子だよ。」

    流石に涙が引っ込んだつるは、ため息を吐いて、未だしゃがみ込むドフラミンゴの腕を引く。
    我に返ったドフラミンゴの顔を、見て、少し、笑った。

    「・・・ごはんにしよう。ドフラミンゴ。」
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    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202