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    dn13ll

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    人間月と死神リューク

    10月2日まで限定公開→常時公開

    #しにハー0902

    【残念ながら僕は人間なのです/みっけ】「なあライト」
    「なんだいリューク」
     話しかければ返事は返ってくるが、月の意識はもうずっと長いことノートにある。そのことがリュークには少しつまらなく感じる。
     キラはLに勝った。だのに月は以前の方がよほど生き生きとしていた。今まで以上に一心不乱に人間を裁き続けているキラ。机に噛り付きノートに向かっているさまはリュークから見ても異様な雰囲気で、監禁されていた頃よりもずっと疲弊していた。
     ──人間は休息を取らないと死ぬんじゃないのか。記憶を失っていた月がLに言っていたことだ。死神界に戻ったリュークはずっと月のことを見ていた。悪人を厭いながらも一線を超えてはならないとしていたこども。リュークの友達。退屈な居場所において、無聊を慰める唯一が月の観察だったのだ。
    「人間はまだ殺し足りないか」
    「……悪人なんてものはそうそう尽きることはないよ。だから僕はキラになった」
     ノートから目を離して答える月の声は疲れが滲んでいた。淡々とした音声は演技がかったところのある彼にしては珍しい。それに、と月が続ける。暫くぶりにリュークと会話をする気にでもなったのだろうか。
    「それに、僕は人間だからね」
    「……? ああ。だがお前は神でもある。そう言ったじゃないか」
     新世界の神となる。幼い生命≪神≫の託宣、その息吹をリュークはこの声で聞いたのだ。死ぬことのないリュークの時間の感覚でも、それは不思議と昔のことのように思えた。だが月からすればごく最近のことだ。
     視線を上にやる月はどうやら言葉に迷っているようだった。今日は珍しい姿をよく見る。
    「『一人を殺せば殺人者だが、百万人殺せば英雄だ』…チャップリン、殺人狂時代だ。『全滅させれば神』は…ジャン・ロスタンだったか?」
     そういうものなんだ。言い聞かせるような響きだった。──果たしてこれほどに、月の声は老いていただろうか?
    「そういうものなんだよ。リューク。人が神になるには死んで祀られるか…これは日本的なものだけれど…人類を滅ぼすか、…全くの新しい人間社会を創るかだ。キラは最後だ。今はまだ違うけどね」
     そうまでしないと神なんてものにはなれないんだよ。神話時代ならともかくね。軽やかな声はしかして月のものではない。二重に聞こえるそれに違和感なんて覚えなかった。けれどだんだんにしわがれていく。──これでは。
    「僕が生きている間に為せるかどうか…簡単なことじゃない。だからこそ僕にしかできないんだ」
     これではまるで、老人のようではないか!
     リューク。知っていたかい。死のないリュークにとって、それははじめての恐怖だった。
    「僕はね、人間だ。…人間なんだよ」
     だから死んでしまうんだ。リューク。君と違ってね。
     月の姿かたちをしたそれは瞬く間に霧となって消え失せた。そうだ。月はリュークが殺したではないか。あの忌まわしき倉庫で、縋りつき命を乞う友を、己が殺したではないか!
    「ライト…人間は、まだ殺し足りないか?」
     悪人のいない世界を創るまではね。もうずっと聞いていなかった月の笑い声がした。
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    dn13ll

    PROGRESS書いたら前書きを大幅に加筆修正することになりました。私は一体何を書いて……?(ここで正気に戻る)
    《前書き》
     近年、めっきりとキラの名を聞かなくなった。それも当然で、不審死などここ一、二年報道されていない。もうずっと、ずっとだ。永遠に続くと思われた神の世界は、突如として消え去った。一体誰が今日を迎えることを想像できただろう?
     いや、いや。そもそも不審死など、そうそうあるものではない。なかったのだ、キラが世界に君臨するまでは、人の死はどこか遠いものでしかなかった。画面の向こう側で起こる不幸。自分とは切り離された世界の出来事。そういうものであった。少なくとも、ここ日本では、間違いなくそういったものであった。戦争も死も、他人事だった。それが、他人事の死が、いつしか日常のものとなり、ついには他人事ではなくなった。キラが姿を消す少し前のことだ。罪人でなくとも、みなが平等に死を与えられる恐怖を己がものとした。怠け者に生きる価値はなく。優れた才を発揮しない者を生かす意味はなく。善良なる人々こそ生きる価値のある、至高のものである。そういう風に、キラは世界を作り替えた。その意識が人々に完全に根付く前に、キラの世界は崩れ去ったのだが。
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