【残念ながら僕は人間なのです/みっけ】「なあライト」
「なんだいリューク」
話しかければ返事は返ってくるが、月の意識はもうずっと長いことノートにある。そのことがリュークには少しつまらなく感じる。
キラはLに勝った。だのに月は以前の方がよほど生き生きとしていた。今まで以上に一心不乱に人間を裁き続けているキラ。机に噛り付きノートに向かっているさまはリュークから見ても異様な雰囲気で、監禁されていた頃よりもずっと疲弊していた。
──人間は休息を取らないと死ぬんじゃないのか。記憶を失っていた月がLに言っていたことだ。死神界に戻ったリュークはずっと月のことを見ていた。悪人を厭いながらも一線を超えてはならないとしていたこども。リュークの友達。退屈な居場所において、無聊を慰める唯一が月の観察だったのだ。
「人間はまだ殺し足りないか」
「……悪人なんてものはそうそう尽きることはないよ。だから僕はキラになった」
ノートから目を離して答える月の声は疲れが滲んでいた。淡々とした音声は演技がかったところのある彼にしては珍しい。それに、と月が続ける。暫くぶりにリュークと会話をする気にでもなったのだろうか。
「それに、僕は人間だからね」
「……? ああ。だがお前は神でもある。そう言ったじゃないか」
新世界の神となる。幼い生命≪神≫の託宣、その息吹をリュークはこの声で聞いたのだ。死ぬことのないリュークの時間の感覚でも、それは不思議と昔のことのように思えた。だが月からすればごく最近のことだ。
視線を上にやる月はどうやら言葉に迷っているようだった。今日は珍しい姿をよく見る。
「『一人を殺せば殺人者だが、百万人殺せば英雄だ』…チャップリン、殺人狂時代だ。『全滅させれば神』は…ジャン・ロスタンだったか?」
そういうものなんだ。言い聞かせるような響きだった。──果たしてこれほどに、月の声は老いていただろうか?
「そういうものなんだよ。リューク。人が神になるには死んで祀られるか…これは日本的なものだけれど…人類を滅ぼすか、…全くの新しい人間社会を創るかだ。キラは最後だ。今はまだ違うけどね」
そうまでしないと神なんてものにはなれないんだよ。神話時代ならともかくね。軽やかな声はしかして月のものではない。二重に聞こえるそれに違和感なんて覚えなかった。けれどだんだんにしわがれていく。──これでは。
「僕が生きている間に為せるかどうか…簡単なことじゃない。だからこそ僕にしかできないんだ」
これではまるで、老人のようではないか!
リューク。知っていたかい。死のないリュークにとって、それははじめての恐怖だった。
「僕はね、人間だ。…人間なんだよ」
だから死んでしまうんだ。リューク。君と違ってね。
月の姿かたちをしたそれは瞬く間に霧となって消え失せた。そうだ。月はリュークが殺したではないか。あの忌まわしき倉庫で、縋りつき命を乞う友を、己が殺したではないか!
「ライト…人間は、まだ殺し足りないか?」
悪人のいない世界を創るまではね。もうずっと聞いていなかった月の笑い声がした。