Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ロマ🗝

    @a_deviant_hell

    @a_deviant_hell

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    ロマ🗝

    ☆quiet follow

    ギャグです。五官王様には大変申し訳ありません。

    「いかん、いかんぞ……。このままではいかん……」

    地獄大王庁内、五官王の私室にて。
    ベッドに腰掛けて項垂れる部屋の主の表情はやけに硬く、自分に言い聞かせるように何度も頬を叩く。
    五官王がこうして頭を抱えるようになったのは、三日前に葉月と初めて床を共にした翌日からのこと──。

    「あ、五官王様、おはようございます」
    「ああ」

    いつも通り早朝から起きて地獄大王庁内の清掃に勤しむ葉月。
    通りかかった五官王の姿を認めると、薄ら頬を染めてはにかんだ。

    「今日くらいはまだ寝ていてもいいだろう……」

    昨晩は大いに盛り上がり、葉月が三度意識を飛ばすまで事が続いたのだ。
    五官王が目を覚ました時には既に葉月のいた場所はもぬけの殻だったため、3、4時間しか眠れていないはずだ。
    初回から飛ばしすぎたと薄ら後悔していたこともあり、生真面目に日課をこなす姿に罪悪感さえ顔を覗かせる。

    「その、なんだ……。体は平気か?」
    「えっと……。は、はい! 大丈夫です!」

    (やはり嘘が下手だな)

    あからさまに視線を泳がせて耳まで真っ赤に染めている。

    「今日の掃除は獄卒に任せる。お前は部屋で休んでいろ」

    掃除道具を取り上げようと近づくが、葉月はブンブンと首を横に振って雑巾を握りしめた。

    「いいんですいいんです! ホントに! 何かしてた方が楽なので!」

    何に焦っているのか分からないが、階段の手すりに飛びついて一心不乱に磨き始めた。
    「ここにも汚れが!」「こんな所にも!」等と不自然に声を上げながら、とにかく掃除の手を止めるつもりはないようだ。

    「まあ、無理はせずほどほどっ……」

    手すりに付けられた装飾部分を葉月の手が撫でた時だった。
    手のひらに収まる丸いそれを、葉月の右手が布越しに優しくクルクルと撫で回す。
    その姿が、つい数時間前に自身の物を拙く撫でていた姿と重なり、思わず顔を背けた。

    (儂は何を考えておるのだ!?)

    「五官王様? どうかしましたか?」
    「な、なんでもない。とにかく、無理はするな」

    一度冷静にならねばと、足早にその場を去った。

    恐らくそれがスイッチだったのだ。
    それからというもの、葉月の言動一つ一つがあの夜に結びついて心身共に落ち着かない。
    風呂上がりの姿やストレッチ中に漏れる息づかいに猛るならばまだいい。
    ペットボトルで水を飲む姿やそろばんを弾く手つき。
    日常のいたって健全な行為さえも反応してしまうのだからどうしようもない。
    十三王が執務に使うための特大サイズの筆をおろす姿などはもう駄目だった。 

    (おかしい、これはおかしい……! 何故あいつの言動全てが性的に見えるのだ!?)
    (もしや妖怪の仕業か!? いやみの新しい能力か!?)

    考えてはいけないと思うほどに意識はそちらに向き、日を追うごとに悶々とした感情が募っていく。
    いよいよ困り果てて思考も変な方向へ乱れ始めた。

    そしてある日、諸事情により葉月と二人で地上へ出た日のこと。

    「今年はすごく暑いですね。地獄の暑さとはまた違ってクラクラします」
    「そうだな……」

    相変わらず脳内は盛りきったままで、汗だくで首元を拭う姿から必死に目を背ける。

    「あ、自販機で飲み物を買いませんか?」
    「ああ、熱中症にでもなったら困る」
    「五官王様はどれにしますか?」
    「そうだな……」

    二人で自販機を覗き込み、それぞれの飲み物を選んだ。
    こういう時はいつも葉月が支払いを済ませる。
    財布から小銭を取り出し、投入口へと差し入れる。
    その一連の動きが、何故かスローモーションのようにゆっくりと流れていく。
    どうしたことか、500円玉を摘まむ葉月の指から目が離せない。

    (待て、これは違うだろ……)

    バクバクと心臓が暴れてダラダラと汗が流れ落ちる。
    硬貨が投入口の穴にはまり、葉月の一押しで落ちた。

    チャリン──

    「これは……これは……」

    ワナワナと震えながら小さく呟いた五官王に、葉月の手が止まる。

    「五官王様? どうかし……」
    「何かの間違いだ!!!」

    数日間積もってきたものが爆発したのか、硬貨を投入する行為にすら淫を感じてしまった事への絶望か。あるいは暑さで脳がやられたか。
    勢いに任せて自販機に全力の頭突きを見舞わせた。

    「えぇぇ!? なななな何してるんですか!? 頭っ! 自販機っ! えっ!?」

    金属の塊にぶつかった五官王の頭を心配するべきか、巨大な人外からの頭突きを食らった自販機を心配するべきか。
    わたわたと慌てふためく葉月に追い打ちをかけるように、自販機がガタガタと鳴り始めた。
    「ヤバい」と感じたときには既に遅く、ガラガラガラーっと勢いよく大量のジュースがあふれ出てくる。

    「おわぁぁぁぁぁ!? 待って待ってちょっと! おわぁぁぁ!!!」

    咄嗟に髪の毛を伸ばして堤防を作り、なんとかジュースが散乱する自体は防げた。
    元凶である五官王もさすがに唖然として、しばらくの間、ただ蝉の声が木霊した。




    「本当にすまなかった……」
    「いえ……私は大丈夫ですが……」

    ビニール袋三つ分のジュースを抱えて五官王が頭を下げる。
    あの後、自販機のメーカーに連絡を取って事情を説明し、全てのジュースを買い取った。
    駆けつけた業者からは「自販機は丁寧に扱ってくださいね」と柔らかく諭された。

    「まさかこの儂が人間に説教される日が来ようとは……」
    「ま、まあ地獄へのお土産ができたと思って。他の王には自販機の不調だって説明しますから」
    「構わん。どうせすぐに知れること。呆れられるか嘲笑されるか……。どちらにせよそれがお似合いだ」
    「五官王様……」

    ここ数日の醜態と先ほどの一件でかなり傷心している様子だ。
    大きな背中が小さく丸まっている様はどうにも可哀想に思えて仕方がない。

    「あの、夕方になってだいぶ涼しくなりましたし、少し寄り道をしていきませんか?」
    「構わんが……」

    二人で寂れた公園のベンチに腰掛ける。
    住宅地から外れた場所にあるここなら、来る人もないはずだ。
    オレンジに染まる世界の中、二人で一本ずつジュースを手に取った。

    「……ぬるいな」
    「帰ったら極寒地獄で冷やしておきましょうか」
    「それでは氷付けになるだろう」
    「あはは、ですね」

    葉月の冗談に、五官王の口元がほんの少し綻んだ。
    思いつくままに「風が秋っぽくなってきた」とか「五官王様の陰が大きい」だとか、とりとめのない言葉をポツポツ零す。
    五官王も簡単に返事をして、暫く静かな時が流れた。

    「あの……最近様子が変、ですよね?」

    葉月がふいに小さく呟く。

    「……」

    五官王自身も、ここで誤魔化すことはできないと悟っているのだろう。
    だが、言葉が出ない。

    「気付かないうちに私が何か……」
    「違う! いや……違わなくはないが……」
    「あの夜……の後からでしたよね? 私、何かダメでしたか?」
    「そうではない。ダメなのはお前ではなく儂の方だ……」
    「五官王様が?」

    純粋な瞳で見上げる葉月に真実を言えばどんな反応をされるだろうか。
    それでもここまでの失態を重ねてしまった以上、潔く裁かれねばなるまいと腹を括った。

    「あの夜から、お前の何気ない行動に……」

    葉月は黙って次の言葉を待つ。
    不安を孕んだ上目遣いに、再びベッドの上の葉月を思い出す。

    「……っ! クソ、やはりいかん」
    「えっ」

    真っ直ぐな視線から逃げるように、葉月を胸元に抱え込んだ。

    「お前の行動全てが煽情的に映って仕方がないのだ。今までと何ら変わらないはずの言動にさえ悶々とさせられる。あの夜以来、お前をまともな目で見られぬようになってしまった……」
    「そ、そんな……」

    腕の中に小さく収まった体が微かに強ばるのを感じた。

    「どうかしているということは分かっている。だが、どうにもできんのだ……」

    何かを言おうとして、それでも言葉にならないのか、時折「あ」「う」といった音だけが漏れ聞こえる。

    (葉月のことだ。儂を拒絶することなどできないだろう。だが、かける言葉もない、か……)

    「すまん。いくら恋人といえども、節操もないようでは気持ち悪かろう」
    「そ、そんなことないです……」
    「葉月?」

    触れられたくもないだろうと拘束を緩めた腕の中、五官王を見上げた葉月の顔は真っ赤に染まっている。

    「だって私も、五官王様を見る度にその……そういう気持ちに、なっちゃってました……」
    「な、に……?」

    想像もしていなかったカミングアウトに面食らってうまく言葉が出ない。

    「わ、私なんて五官王様の姿を見るだけで思い出してしまって、すごく恥ずかしくて……。でもそんなの変態みたいで気持ち悪いって思われると思って、普通にしようって思ってたのに、いざ五官王様を目の前にすると全然うまくできなくて……」

    あの朝、やけに葉月がテンパった様子だったのはそういうことだったのかと合点がいった。

    「それから五官王様が私を避けるようになってしまったので、私のそういう思いというか感情というか、そういうの悟られちゃったのかなって不安になって。そう思ったらもうそんな浮かれたこと考えられなくて……」

    羞恥心のせいか、いつもより大分早口で言葉も拙い。
    五官王と視線を合わせることもできず、紺色の胸元に向かってひたすらに言葉を投げつける。

    「でも……」

    再び顔を上げ、恥じらいつつも頬を綻ばせた。

    「五官王様も同じで安心しました」
    「そうか、お前もか……」
    「はい、私もです」

    わだかまりが解けた安心感からか、どちらからともなく笑い合った。
    もうすっかり日も落ちて、辺りは薄紫の夜になりかけている。

    「帰るか」
    「はい」





    せっかくだからと地獄の入口まで歩いて帰る道すがら。

    「後学のためにお聞きしたいのですが、私のどういう言動に、その……え、エロス?を感じるんですか?」
    「その言い方はよせ……。そもそも後学とはなんだ。儂を誘惑でもするつもりか?」
    「……」
    「は?」

    冗談半分にあしらってみたところ、思いの外頬を染めて俯くものだから思わず呆けた声が漏れた。

    「地獄に自販機置こうかな……」
    「いや、さすがにアレに二度目はない……。儂もかなり乱心だったと今悔恨の念にかられているところだ」

    もう二度とその話はするなと苦々しくぼやいた。

    「それに、だ。わざわざ誘惑などしなくても……」
    「わっ!? 急にどうし、んぅっ!?」

    軽々と葉月を抱え上げ、唐突に口づける。

    「もう我慢ならん。散歩は終わりだ。今すぐ帰るぞ」
    「ひゃ、ひゃい……」

    怪しげに口元を歪めて意気揚々と地獄を目指す五官王。

    (私、今日死ぬかも……)

    バクバクと鳴り響く心臓は一抹の恐怖によるものか、その裏にある期待感によるものか。
    ともかく、眠れぬ一夜が待っていることは間違いないのだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏❤💖👍💒💗💞🌋🙏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works