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    ロマ🗝

    @a_deviant_hell

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    ロマ🗝

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    ※強いネガティブな言葉が多々あります。
    白葉月になってからの話。
    誕生日の小説とは思えないくらい暗いです。
    葉月が完全に病んでます。

    地獄も妖怪横丁も、何もかもから逃げ出して数十年。毎日見えない何かに怯えながら、息を潜め、誰にも関わらずに済むようにと、宛もなくただ日本中を彷徨い歩いた。

    私が姿を消した後、何度か鬼太郎さん達と出くわすことはあったけれど、「帰っておいで」と差し伸べられた手を私は振り払い続けた。
    自分のせいで大切な人たちが傷付くくらいなら、独りの方がずっと楽だった。
    何の目的も野心もない無感動な日々を無駄に繰り返すくらいなら、いっそ夜霧の元へ行ってしまいたい。

    『お前は生きろ』

    たった一言の呪いで私は今も生き長らえている。











    ほんの気まぐれだった。
    私が居なくなった後も、きっと彼らは私が戻る日を待っている。
    私の部屋はどうなっているだろうか。
    物置になっているのならそれでいい。
    空き部屋になっているのならそれでいい。



    「……」

    私の部屋は私の部屋のままだった。
    深いため息が漏れる。気分が悪い。自分の脳天を今すぐにでも貫いてやりたいような、とにかく最悪の気分だ。

    私は黙って部屋の扉を開けた。
    私が最後に見た記憶と全くと言っていいほど変わらない様相で。机の上にも本棚にも、埃一つ落ちてはいない。

    「死ねばいいのに」

    それはいつからか無意識に漏れるようになった音。
    眉を顰め、数歩進んだ。

    机の上に一輪の花が活けられている。
    鮮やかな花弁や青々とした葉を見る限り、それはつい数時間前に飾られたばかりのようだった。

    「アネモネ……」

    紫色の花弁がどんな意味を持つのか、私は知らない。
    ただ、それを飾ったであろう人の顔が脳裏を過ぎる。

    「死ねばいいのに」

    死んだ目で花瓶を見下ろす私の背後から大きな音が近づいてくる。
    その音が誰のものなのか、振り返らずとも気配で分かった。

    「葉月……!」

    驚きと安堵が入り交じったような声音で宋帝王様がそう呟いた。

    「やっと戻ったのですね。皆貴女を待っていた。すぐに五官王を──」

    死ねばいいのに。

    私は宋帝王様の顔も見ず、部屋の出口に向かって歩き出す。
    私の表情から何かを察したのか、宋帝王様が私の前に立ち塞がった。

    「葉月、貴女が我々を想う気持ちはよく分かる。だが誰もそんなことは望んでいない」

    死ねばいいのに。

    「貴女もできることなら戻りたいと、そう思っているはずだ。だから今日、この日にこの地獄に帰って来た」

    「今日」が何月何日なのか。「今日」に何の意味があるのか。
    私は知らない。興味もなかった。

    「暦なんて、数十年前に追うことをやめました」

    吐き捨てた私の言葉に、頭上から微かな息遣いが聞こえてくる。
    哀れみか動揺か、宋帝王様がどんな顔をしてるのかは分からないけれど、とにかくこれ以上長居する気は無い。
    もう一歩歩を進めた私に、「待ちなさい」と珍しく弱々しい声が降る。

    「今日は三月二十一日。貴女の誕生日ですよ」

    死ねばいい……口をついて出かけた言葉を既のところで飲み込んだ。
    吐き気を催す。最悪だ。どうして私はよりによってこの日に帰って来てしまったのか。

    「五官王は毎年貴女の誕生日に、こうして一輪の花を飾るのです。そして、萎れて枯れてしまう前に押し花にして持ち続けている」

    死ねばいい。

    「いつか貴女がここに帰りたいと願った時、貴女が躊躇わずに帰れるように。自分がどれ程貴女の帰りを心待ちにしていたのかを見せつけてやるのだと」

    死ねばいい。
    死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。

    眼球の奥がぢくぢくと痛い。
    頭も内臓も傷跡も何もかもが痛い。気持ち悪い。
    死んでしまいたい。

    花瓶からアネモネを乱暴に抜き取って、今度こそ出口に向かって足早に歩き出した。

    「何故一目だけでも五官王に会ってやらないのです!」

    宋帝王様がそう叫んでも、もう止まらなかった。
    宋帝王様の腕が伸びてきたけれど、もう目で見なくても簡単に躱せてしまう自分が憎々しい。
    死ねばいいのに。

    「掃除をしに来ただけです。ですがそれも必要ないようなので」

    それだけを言い残して部屋の扉を閉めた。




    地獄から出た。
    人も妖怪もない生い茂った森の中。

    「はっ、あははっ」

    私は奪い取ったアネモネを見つめて笑っていた。

    貴方は私の生まれた日を祝っているというのに、私は産まれたことを後悔し、毎日死に場所を探し続けているのだから。

    「あはっ、はっ……っ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

    ごめんなさい。
    ごめんなさい。
    ごめんなさい。

    もう死んでしまいたい。
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