キャッチミーちゅん♡「おい! リアム! 待て! 逃げるな!!」
ぱたぱたとシャーロックの元から飛び去る一匹のちゅん。黄色いふわふわの毛並みに可愛らしいサイズの茶色のスーツの様な服を纏った一匹の小鳥は、飼い主であるシャーロックの元から逃げる様にして飛んでいく。シャーロックと一定の距離を保ったまま飛んでいくちゅん。必死の形相で追いかけるシャーロック。まるでこれでは鬼ごっこである。
「リアム! 待ってくれ!」
必死に追いかけるが、相手は鳥である。スイスイとシャーロックを嘲笑うかの様に障害物を縫って飛んでいく。シャーロックは見失わない様に走って、走って……そして足を止めた。その場で俯き、固まってしまう。シャーロックが追って来ないことに気がついたちゅんは一番近い軒先に止まりそこから彼を見下ろす。
何分経っただろうか? 互いに全く動かなくなってしまった。しばらくシャーロックを見ていたちゅんだったが、動かない主人が心配になったのだろう。ふわりとシャーロックの目の前までいくと顔を覗き込む様に下に入った。ちゅんの目の前にはニヤリと不敵な笑みを浮かべたシャーロックの顔。はめられたとわかった時にはすでに遅く、両手で覆い隠す様に捕まえられてしまった。
「よっしゃ! やっと捕まえたぞ。リアム。全く手間掛けさせんなよなぁ……これからもう一人のリアムの所行くってのによ」
不満ですと書かれた顔のちゅんが両手の間から出てきてシャーロックを睨む。そしてせめてもの抵抗とばかりにシャーロックの指を噛んだ。
「いってぇ!? おいコラ! なに拗ねてんだよ……」
明らかにむくれているちゅんに向かって、シャーロックは溜息混じりにこう言った。
「今日はシャロも居るぞ」
そう言うや否やちゅんはもがいてシャーロックの拘束から抜け出すと肩に止まる。そのまま機嫌良くぴいぴいと鳴くと、シャーロックの首に擦り寄った。
「はっ……現金なやつ」
苦笑いを浮かべて呆れるシャーロックとは反対にとても機嫌が良いリアムちゅんだった。
機嫌の良い鳥の声がウィリアムのシルクハッドの中から聞こえる。歌でも歌っているのだろう。リズムに乗っている。そんな鳥の声に耳を傾けてウィリアムも一緒になって、機嫌良くリズムをとった。
「ふふっ。シャーリー、機嫌がとってもいいね」
「煩いくらいでは?」
これから出かけるというウィリアムの身支度を手伝っていたルイスは冷ややかな視線をシルクハッドに向けた。
「まぁまぁ……リアムに会えるのが楽しみなんだよね。シャーリー」
そう言ってシルクハッドを取ったウィリアムの頭の上には一匹のちゅんが止まっている。ブルネットカラーの毛並みに、小さな黒いスーツを纏ったちゅんはウィリアムに向かって元気よく返事をした。
「はぁ……兄さん。あまりあの男と関わるのはやめてください」
「大丈夫だよ。ルイス……計画に支障はないんだし……」
そう言ってちゅんを頭から下そうと手を伸ばす。ちゅんはすぐにウィリアムの指に止まると身体を左右に揺らして歌い始めた。楽しそうなちゅんを見て、ウィリアムはクスリと微笑んだ。自分と同じで相手に会えるのが本当に楽しみなのだろう。
「シャーリーが楽しそうだと僕も楽しくなるな」
「いずれ別れるとわかっていてもですか?」
ルイスの声に少しだけ棘を感じた。彼の言う事はもっともで、プランがある以上、シャロと仲の良いリアムとの別れは必須である。そして、自分とシャーロックもまた同じ。
ウィリアムは少しだけ表情を暗くして力強く頷いた。
「うん。この子には酷だと思ってるけど……この子は強いし、賢いからきっと僕の気持ちを分かってくれるよ。ね? シャーリー」
そう言ってちゅんの頭に触れるだけのキスをした。すると、ちゅんはお返しとばかりにウィリアムの頬まで飛んで、擦り寄る。そして再び指に止まると機嫌良く続きを歌い出した。
「それじゃあ、そろそろ行ってくるよ。ルイス」
「はい。お気をつけて……兄さん」
とびきりの笑顔を浮かべた兄を見て、ルイスは不機嫌になりつつもウィリアムを送り出したのだった。