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    shi_na_17

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    shi_na_17

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    慌てて書いた猫の日ドラロナ。今年は読切!去年なんか書いたかはちょっと記憶にないですね……。

    #読切ドラロナ
    readingDralona

    猫の日読ドロ2024 目の前には、真っ白なままのワードの画面。
     昨夜までの出張での退治での出来事が脳裏を駆け巡る。シンヨコであればそんな大事にならないような事件でも、地方に行けば大事になるまで気付かれなかったり、放置されたりする。昨日の事件もそんな些細な事が大事になった系だった。川に流れ着いたスラミドロが巨大化し、その上気に入った人を取り込んでいた。それで神隠しだなんだ言ってるのだから、呑気なものだ。最終的なサイズは5メートル級だった。もっと小さなうちなら楽だったのに。
     というか、アレだ。昨日の事件はどうやったらロナ戦に落とし込めるか。下らないと思っていたが、案外神隠しとかのフォークロア的な方向でまとめた方が良いかもしれない。
     でも、今回の原稿は、そういう方向ではない。ハードボイルドな方向を依頼されていたのだ。採用したのは先月、かなり本気で撃ち合いからの斬り合いになった依頼である。あれは結構良い戦いだったな。そこそこに時間がかかったが……なんせ張り込みも1週間くらいした。その後もまた日数のかかる依頼で……あれがなけりゃ、今こんなにワードの画面は真っ白じゃなかったはずだ。
     改めて考えると、最近は依頼が立て込んでいた。あっちで退治して、こっちで退治して、たまに家に帰って寝て。久しぶりの休みだ。個人事業主にとって暇は恐怖ではあるが、それにしたって立て込みまくっている。
     そろそろ、ちょっとゆっくりしたい……ような、気もする。可愛い家族と暖かい布団でゆっくり寝て、温泉にでも浸かって、暖かいスープと、焼きたてのパンと…………が、全部揃うのは、あの埼玉の奥地の────ふさり。
    「…………ぁ?」
     一瞬意識が落ちていた間に、目の前にあるはずだった真っ白いワード画面は見えなくなり、代わりにあったのは、黒く艶々とした短い毛並み。
    「お前、また入ってきたの?」
     にゃあ。
     短く泣くのは、長い手足を持った、痩せぎすの黒猫だった。瞳の色は、目が覚めるほどの金色。ご機嫌そうに揺れる尻尾に、ぐるぐると鳴る喉。思えば、こいつは最初会った時からやけに人懐っこかった。
     事務所に帰ってくると偶に気紛れに現れる黒猫。ドアと窓を閉めても施錠をしても入ってくるのは不思議だが、そもそもこの事務所は家賃八千円だ。どこに抜け穴があってもおかしくないので、深く考えるのはやめた。どっちにしろ、重要書類は据え置き金庫の中だし。
    「いつも心配になるくらい痩せてるよな……」
     吸い寄せられるように伸ばした指先で、頭の上と顎の下をかしかしと擽ると、黒猫は気持ち良さそうに目を細める。
     これで、目が赤かったらあいつにそっくりだ。埼玉の奥地の、引きこもり吸血鬼。俺の、特別。
    「これが終わったら…………休みとか、取れるかな」
     スケジュールを確認する前に希望を口にするのは無策が過ぎるとわかってはいる。いるのだが……それでも、些細な希望の一つくらいなら、などと、思ってしまう。
    ──無理だったら、あいつを呼ぼう。自分があの城に行くのが一番嬉しい。なんせ今俺が欲しいものがほとんど揃っている。あとは可愛い家族を連れていけば完璧だが────最悪あいつだけでもいれば、それはそれで。あれであいつは器用だから、料理もあるものでなんとかしてくれるだろうし、無かったら買いに行けば良い。偶にはシンヨコを案内してやるのも楽しいだろう。あの引きこもりだって、ゲームの物色なんかは楽しめるはずだ。
    「んなぁ」
     かぷり。指先を甘噛みされて、はっとする。いつの間にかもの思いに耽ってしまって、猫の許容を越してしまったらしい。それとも、あれか?
    「腹減ってんの? おやつ食う?」
    「にゃあ」
     こいつはえらく賢い猫なので、聞くと返事をしてくれる。これだけ毛並みが良いので、めちゃくちゃ痩せてるがきっとどこかの飼い猫なのだろう。だけども、おやつくらいなら、あげてもバチは当たるまい。そんな訳で、この頃この事務所にはかつおぶしが常備されている。保存が効いて、軽いもの。嵩張りはするが、重たくて置き場所に困るよりかは遥かにマシだって。
    「ほら、おやつ」
     手のひらに載せて差し出すと、猫のざりざりした舌が肌を擽る。ふんすふんすと肌に当たる鼻息すら愛おしい。
    「……なんかかつぶしの匂い嗅いだら、腹減ってきたような気がしてきたな」
     実際はもっと前から腹は減っていたかもしれない。そういえば、最後に飯食ったのいつだっけ? コーヒーとチョコは食った気がする。チョコもバレンタインにあいつがくれたから食っただけで、なければ何も食わなかったに違いない。
    「何か食うか」
     何か食うとして、何かあるかはわからんが。
     なんて思いつつ引き出しを開けると、やっぱり何もない。じゃああれだな。やっぱり、いいや。
     なんて思った途端、黒猫が俄かに立ち上がり、とすとすと歩き出す。向かう先は、ドアだった。
    「出んの?」
     抜け穴があるとして、そこから出ていくとは限らない。猫とはそういう生き物なのだ。俺が寝落ちたりしたら、いつの間にか居なくなっているので自分で出れなくはないのだろうが、出入り口から出たい時もあるのだろう。猫とはそういうものであると重々承知しているので、俺は否もなく立ち上がり、猫の後ろを付いて歩く。
    「折角ここまで来たから、俺も出てくるか……」
     財布は持ってきてないが、スマホはある。今の時代スマホ決済が効かない店は少ない。ましてや行きつけのヴァミマなんかはスマホ決済の客の方が多いくらいだ。
    「なぁお」
    「おう。元気でな」
     次があるかは知らないので『また』とは言わない。でも、なんとなく、きっとまた来るのだろう……とは、思っているけれど。ドアノブを捻って開ければ、猫はするりと廊下へと飛び出して、そのままどこかへ消えてしまった。
    「カップ麺……いや、弁当?」
     一度食い物の事を考えると、なんだかそれしか考えられなくなる。自覚は無かったが、それだけ腹が減ってたんだろう。ついでに何か甘いもんとかも買ってこよう。よく考えたら、ロリポップも後少しだし。
     なんて考えながら、ドアを施錠して、階段へと向かうのだった。

     背中が痛い。あと、なんか肩も凝ってるような。
    「あ、ロナルド君だ」
     少し前までは退治人君と呼んでいたのだけれど、付き合う少し前からロナルド君と呼んでいる。だって、やっぱり名前で呼びたいじゃない? ずっと退治人君じゃ、ちょっと寂しいし。なんて思ってたら、実はつい最近ロナルドが本名じゃない事を知った。言ってよ。
    「明日の夜来るって。じゃあ準備しなきゃね」
     笑いかけた先の愛しの使い魔は、ニヒヒと笑って『これで様子見に行かなくても良くなったね』と言う。いやいや、彼は油断ならないから、1週間ここにいたとしても帰って一人になったら直ぐに不摂生するから。それでも丈夫だから半月くらいは保つけれど、それ以上は怪しいじゃない?
     飲まず食わずではないから死にはしないかもしれないけれど、体調くらいは悪くなるし、実際最初に会った時の血めちゃくちゃ不味かったし。最近偶にくれる血は味は薄めだけどそこそこ美味しいから、だいぶマシになったんだろう。身体がガチガチになってまで猫になって様子を見に行ってる甲斐があったというものだ。自分より遥かに小さくて遥かに身体の柔らかい生物になるというのは、かなり疲れるんだよね。だけど、ロナルド君は小動物が好きだから。猫ならきっと、怪しまれないで事務所に入れてくれると思ったら、そもそも事務所に『どなたでもお気軽にお入りください』とか書いてある看板かかってるし、上の階の床下と天井裏が繋がってるし。ガバガバが過ぎる。
     でも猫ってのは我ながらやっぱり良いチョイスだった。狙い通り怪しまれないで新横浜の街をうろうろ出来てて、眼光鋭いダンピールのロナルド君の友達以外には今のところバレてない。彼には最初に会った時はちょっと脅されたけど、最近では近況を報告し合う仲である。まぁ彼は彼でだいぶ屈折してロナルド君に執着してるけど、根本のところでは彼を傷付ける気はないからね。むしろ心配してる節もあるくらいなんだけど、なんせ歪んでるから紙一重である。
     ともあれ。
    「明日の夕飯はロナルド君の好きなものを作ってあげようね。何が良いかな〜♪」
     ふんふん鼻歌を歌いながら、キッチンへと向かっていく。
     愛しい人に会えるというのは、いつどんな時だって、幸せなのだ。
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