高校生半ロナ「嘘をつくな!」
上級生たちに体育倉庫へ呼び出された俺を見つけた半田は、えらい剣幕で声を張り上げた。
「ほんとになんもねえよ。……ちょっと変なこと言われただけだし、ちゃんと断ったし」
変なことを言われたのは本当だった。
「同級生にイジメられてるっていうじゃん。そいつ俺たちがシメてやろうか?」半田はちょっと変わったやつだけど友達だから断った。
「そう言うなよ。カネも出すからさ」財布から取り出した紙一枚を差し出す上級生に意味がわからず首をかしげる。
「大したことじゃない。ちょっと口を借りるだけで――」そこで半田が駆け込んできて、間髪入れずに上級生を殴りつけたのだ。
「だから貴様は馬鹿なのだ!こんなところで一対多数で囲まれて!断って引き下がるわけがなかろう!」
血液錠剤でブーストした状態の金色の目は、薄暗い倉庫の中でも爛々と光っているように見えた。
「……貴様は、人の目を惹くのだ」
半田の言っていることが俺にはよく分からなかった。髪や目の色で他の人より多少目立つことはあるかもしれない。けど、そんなことを言ったら、ダンピールの半田の方が普段からずっと目立っているだろう。
当の半田は、なにか納得したような顔をして、目の前に進み出ると俺の手を取った。
「ロナルド、俺と付き合え」
「はあぁぁ?なんでそうなるんだよ!?」
半田の思考回路がまったく理解できない。混乱している俺をよそに半田は至ってマジメな様子だ。
「嫌なら、付き合っているフリをするだけでもいい」
そう言う半田の顔が泣きそうに見えて、なぜか俺は焦った。
「べつに…いやってわけじゃないけど」
「では決まりだな。今後こういうことがあったら俺と付き合ってることを言え。それでも引き下がらなければ俺を呼べ」
「なんで?」
「彼氏だからだ」
「……かれし」
彼氏。と、もう一度口にしてみる。高校生になったら彼女が欲しいなと思ってたけど、彼女の前に彼氏ができるなんて思ってなかった。
付き合うってことはやっぱりデートに行ったりするんだろうか?遊園地とか水族館とか……海にも行ってみたいな。近くの海釣り公園じゃなくて江ノ島あたりで、ビーチで遊んでから夜のライトアップを見たりして。どうしよう。すごく楽しみになってきた。
「うん!よろしくな!半田!」
ワクワクが止まらないまま繋がれた手をぎゅっと握ると、半田ははにかむように笑った。眉尻を下げた顔はめずらしくて、耳まで真っ赤になっているのも合わせて無性にかわいく思えた。
「ってことがあって。俺、高校の時から半田と付き合ってるんだわ」
半田と付き合い始めて、水族館にも遊園地にも海にも一緒に行った。デートは毎回(セ…が出てくること以外は)楽しいし、二人きりでいると特別な存在なんだと実感する。
今は半田より力も強く体もデカくなってすっかりゴリラになった俺は、彼氏の存在をチラつかせて牽制する必要はないけど、ずっと付き合ってくれてるってことは半田もそう感じてくれてるんだろう。
「二十四時間粘着監視ストーカーがカレピって本気で正気を疑うストックホルム真っ青案件なのに、予想外にゴリラとストーカーのアオすぎる青春を食らって死にそう……不意打ちで死ぬなんて……スナァ」
ドラルクがサラサラと床に崩れ落ちていくのと同時に、派手な音を立てて窓が開け放たれる。窓のサッシを踏む音とともに入ってくるのは――。