マックスウェル子育て日記(クリスマス)スノーホワイト
「クリスマスプレゼントは何がいい?」
クッキーを食べていた時に不意に明智さんに投げかけられた言葉。
そういえば、もうすぐクリスマスだった。
ハロウィンは毎年盛大なために記憶に残るが、それからクリスマスまでは行事が少ないが故に意外と時間を忘れがちである。
魔力消費の事故で体が小さくなっても、時々実験などをしているために大人の時よりかは多忙では無いが、それでも体を酷使するとすぐに疲れて眠くなってしまうので、案外日々をのんびり過ごしていたものあるのだが。
「クリスマスプレゼントはサンタさんがもってくるものではありませんか?」
「まぁ、サンタサーヴァントから貰えるだろうが、私からもプレゼントしたくてね」
「ほんとうですか?ありがとうございます!!えっと……………そうだ!」
「実験用の素材は無しだぞ」
…………先手を打たれてしまった。
「魔力燃料用のアンプルも、機械類の部品も、素体集めの人員と言うのも無しだ」
「どうしてですか?わたしがいちばん欲しいのはじじつなのに…………」
「それじゃあプレゼントにならないじゃ無いか!!」
明智さんは眉間を押さえてため息をついた。
多分予想通りの返答が返ってきたからだと思う。
私だって何度聞かれても同じ返答をすることは分かりきっていて。
しょうがない。
だって実験や研究は私の本分なのだから。
「何か無いのか?こう、子供っぽいプレゼントのお願いとか」
「しかたありません。外見はこどもになりましたが、なかみは変わってないのですから……」
明智さん曰く、体が幼くなった影響が出ているらしいのだが、私にはちっとも分からない。
確かに小さい体では、このカルデアの部屋では色々不便で。
それ故に子供っぽい仕草をしてしまうときもあるかとは思っているが、自分自身は中身はきちんと成人男性のつもりなのだが。
「おかしとかはどうですか?お茶でしょうひできますよ?食べればおきばしょに困りませんし」
「その、即物的な思考はやめなさい。せっかく年に一度のイベントなんだし………」
「そもそもしこうひんにはあまりきょうみが無いので」
「……あぁ、そうか…………」
明智さんの大きな手が、こちらの頭をわしわし撫でる。
私が嗜好品関係に興味を示さないのは、大人の時も同様で。
カルデアにはサーヴァントたちを飽きさせ無い娯楽は多数存在しているのだが、私はどれもあまり参加したことがない。
実験や研究一筋でやってきたこともあるが、むしろそれしか出来ない思考回路なのだ。
カルデアに概念英霊として召喚されてから、聖杯に求めるべき願いを追い求めている。
ここに居られる限られた時間に、その道に寄り道などないのだから。
「なら、私がマックスウェルに喜びそうなものを選んでおこう」
「わたしが、ですか?一体なんです?」
「それはこれから考えるさ」
あっ、サプライズなのかな?
単に今思いついていないのもあるだろうが、私のために何かを考えてくれることが嬉しくて。
明智さんのことだから、きっといいものを思いついて………
「あっ!!まほうのステッキはいりませんからね!!」
「えっ!?それ、どこかで流行ってるのか?」
「イリヤさんに憧れた、子供系のサーヴァントの間で人気らしくて…」
エジソン作の音が出る!光が出る!何なら軽いものなら倒せるビームが出る!!
と子供にはかなりの購買意欲のそそられる品で、もうすでに何人かの子供サーヴァントが持っていた気がする。
前にボイジャーくんが周回にうっかり持って来ていて、ステッキから星を出しながら戦っている所を見て大人の間でも擬似ビームが出せると購入者がいたくらいだ。
ちなみに、女の子向けのハートと星と、男の子向けのソード型がある。
出るビームの色も選べたり、効果音違いな商品がニコラ・テスラ作で出ていた。
どっちが先とか、また交流と直流で対決しているのが見られて、仲介するエレナさんの苦労が見えるのだった。
「子供受けがいいのか……」
「ほんとうにいりませんからね!!」
「それって振りか……?」
「ちがいますから!出力をあげるようかいぞうしたら、ひとりでそざい集め行こうとも思ってましたので……」
「もう購入済みか!!そして一人で行こうとするな!!!」
「だって……このからだだとごめいわくばっかりかけてるし……」
体が小さくなったとしても、この部屋は大人の時と何も変わってない。
いずれ戻るだろうと、そのままなのだ。
だから椅子は高いし、ベッドも大きい。
極め付けは部屋の開閉スイッチが高くて、台がないと手が届かない……。
他にも研究室や、実験棟の棚など大人の時には何でもない動作が出来なくなっているのだ。
それを補助してくれるために、明智さんにはお世話になりっぱなしなのだが、彼曰く他にも理由があるとのことなので甘えさせてもらっている次第で。
自立しよう!と意気込んだのはいいものの、方法が分からず試行錯誤しているところで。
星形のステッキは出力が3倍にはなったが、初めから軽いモノが倒れるレベルなのでそれが3倍になったとてちょっと重い物が倒せるくらい。
具体的には空のドラム缶がいい音をしてちょっと揺れるくらいのレベル。
全然実用的ではないため、こっそり隠してあるのは内緒である。
「そんなこと気にしなくていい」
ふわりと抱き寄せられると、彼の胸元にすっぽりと体は収まった。
大きな手が、今度は優しく髪を梳く。
鼻をくすぐる明智さんの部屋に炊かれていた香の匂いがして、何だか落ち着く気がするのは何故だろうか。
時々血を貰いながら少しずつ大きくなっていると思っていた体はまだ随分と小さい。
こんな体では素材集めも、実験も研究も…………魔力供給だって出来ない。
出来ないと言うより、体が受け付けないと言うのが違いのだが、どちらにしろ同じことだ。
気にしなくてもいいと慰められるたびに、こんなに気にしていたのかと絶望する。
「ありがとうございます……」
優しさに包まれながら、何もかも忘れてこのままでいいのかもしれないと思ってしまう、自らの矛盾に悩むのだった。
「…………ん…………っ……」
まぶたは開かないけど、暖かな布団の中で身動ぎした。
カルデアでは部屋の気温が一定に保たれているので、真冬の時期であろうとベッドから寒さで出たくないといったことはない。
でも室温とは違う人肌に暖まった布団は格別なのは、仕方がないとつい思う。
時間の概念はあるが、朝を告げる窓際のライトが少しだけ明るいだけで、部屋は相変わらず薄暗かった。
観念して薄めを開ける。
そこには、キラッと光る袋に真っ赤なリボンを結びつけられたものが置いてあった。
(クリスマスプレゼント!?)
大きな声が出そうになるのを、隣で寝ている明智さんを起こしてしまいそうでぐっと堪えた。
サンタからの贈り物かとも思ったが、実は昨日サンタカルナに貰った。
謎のちょっとずっしりした黒い箱で、
『プレゼントを開けるときは広いところを選ぶといい』
と謎の言葉をサラッと言って去っていったので、そちらはまだ開けてはいない。
むしろ開けたら何が出てくるのか不安でしかないのだが…………
なら、こっちは明智さんからのプレゼント?
するりと布団から抜け出すと、枕元に置いてあったサングラスを掛け直す。
銀色の光沢のある袋は、窓からのライトに照らされて星の形が浮き出て光っていた。
「…あぁ…、マックスウェル起きたのか…?」
寝起きの大きなあくびをして明智さんが起きて来てしまった。
ちょっと申し訳ないと思いつつも、この袋を開けた音ではきっとすぐ目が覚めてしまうだろうから杞憂だろう。
そもそも明智さんは警戒心が強いのか、こちらが部屋から抜け出そうとするとすぐに起きる。
だから今まで一度も勝手に部屋から出たことがないくらいだ。
「これっ、明智さんからですか?」
「そうだよ。開けてごらん」
嬉そうににこりと笑って、そう促すものだから、すぐにでも結ばれた赤いリボンに手をかけた。
シュルッと音がして、目に飛び込んできたものに息を呑んだ。
「……うわぁ………キレイ………」
それは大きなスノードームだった。
台座に乗った真球のガラスの中には、小さな町が作り込まれており、その中は雪の積もった真っ白な世界が広がっていた。
まるで、どこかの絵本を切り取ったような幻想的な世界が手の中のガラスの球体の中に収まっていた。
「ちょっと貸してごらん」
大きな手が伸びてくると、台座に手を伸ばす。
カチッと音がした後は、はじめに見たときよりも感嘆の声が漏れて。
小さな家の中からは光が漏れ、飾り付けられた電飾からはきらびやかな光が灯る。
そして、細かな雪がガラスの中を踊るように舞うのだった。
「綺麗だろう?レイシフト先で見て一目惚れだったんだ」
「すごく……キレイです……」
もっと褒め言葉を口にしたいのに、本当に綺麗なものを目の前にしたら言葉が出てこなくなってしまって。
世の中には美しい美術品など数多あるし、またそれを作って来た芸術系のサーヴァントだっている。
でもその美しさを全部詰めたような綺麗なものが、手の中に収まっていることに感動を覚えるのだった。
「気に入ってくれたかな?」
「はいっ!ありがとうございます明智さん!」
「その笑顔が見れてよかったよ」
彼は微笑み私を膝に乗せると、互いの体を布団に敷いてあった毛布ですっぽりと包んだ。
それほど寒くはなかったが、じんわりとした暖かさが心地いい。
ふわりふわりと雪の舞うスノードームをずっと眺めていたくなる。
実際朝食に、と声をかけられるまでその目は釘付けで。
彼に包まれた暖かさの中、心までもが温かくなる贈り物に、内側から何か溢れるものを感じたのだった。
「ここでいいかな」
コトリ、とだだっ広い平原に、一つ箱を置く。
平原といってもそれを模したシュミレーターなのだが、サーヴァントたちが模擬戦を行えるほどには広さはある。
皆がクリスマスパーティーで騒いでいるためか、今日のこのシュミレーターは他には誰もいない。
まぁ、その方が好都合か…………と目の前に置かれた箱を見た。
真っ黒な箱に赤いリボンを飾り立てたものは、昨日マックスウェルが貰った、サンタであるカルナからの贈り物で。
広いところで開けよ、と忠告があった為にこうしてわざわざシュミレーターまで足を運んだのだ。
「準備はいいか?」
「はい、明智さん」
「…………ところで、そのステッキは何だ?」
箱の前で構えるマックスウェルの手には、何やら可愛らしい星のついたステッキが。
研究の事故で小さくなった体に、これまた可愛いステッキがベストマッチしていて可愛いを超越している。
この姿を収めておきたい……
ゲオルギウスにカメラでも学ぶかな……と本気で考えるほど。
「これですか?ごしんようです!」
キリッとした返事をくれ一振りしてくれたが、杖の先からふよふよ……と漏れた星型のビームが可愛すぎるんだが。
誰だ開発したの…………金一封送りたい気持ちになって来たぞ。
「まぁ、いい……危ないから離れていなさい」
彼は即座に私の後ろに回ると、ギュッと私の黒いコートを掴んだ。
小動物みたいで可愛いと心を打たれつつつつ、置かれた箱の赤いリボンを一気に引いた。
ボフンッ!!
一瞬で目の前が真っ白になった。
水蒸気の様にもくもくと立ち込める煙が、目の前を真っ白に染めていく。
いや、染まっているのはそれだけではない。
「明智さん!雪です!!」
嬉しそうな声と共に、彼が私のそばから駆けていった。
もくもくと舞い上がった煙は、次第に弱まってくると、今度は空からたくさんの白い雪が降り注ぐ。
カルデアの外は吹雪なので、雪など珍しくもないのだが、ふわふわと天井から降ってくる雪は吹き荒れるものではなく優しく降り注ぐ。
こんなに優しい雪なのに、緑一色だった平原はすぐにでも真っ白に染まった。
一歩歩くごとにサクサクと新雪を踏む感触が足に伝わってくる。
それが楽しいのか、マックスウェルもパタパタと周りを駆け回りながらはしゃいでいた。
そしてこけた。
「大丈夫か?」
雪まみれの身体を起こしある程度払っていやると、こけた拍子にぽーんと遠いくまで飛んで行ったステッキを拾いにいく。
見た目は玩具屋にありそうなレベルの星型のステッキなんだがなぁ………
降って星が出るとか不思議な……
ボンッッ!!
軽く降っただけだった。
興味本位で振って出た星は、ふよふよっと可愛く宙を舞い床に接したかと思うと爆発した。
雪がえぐれてその下の土が剥き出しである。
えっ、なんだこれは??
「やはり魔力量に依存してたんですね!明智さんすごいです!!」
足元のお子様がキラッキラした視線を投げかけて来て頭痛がする。
「……マックスウェル……これ君が改造したのか?」
「そうなんです。リミッターを外したんですが、出力が3倍くらいまでしか増えなかったので、ふしぎに思ってたんですが、魔力依存ならせつめいがつきますね!!」
……はぁ…………と長いため息を一つ。
「没収だ」
「私では扱えないので、明智さんが戦闘で使ってもいいですよ?」
「こんな役に立たない攻撃手段使えるか!!」
もし今の星がマックスウェルに当たったかと思うと、気が気じゃないのだが彼はそんなことお構いなしだ。
実験や研究を本分としているのは大人と対して変わってなくて、ほっとするような危険な香りがするような…。
ステッキをこれ以上振る事が内容に懐にしまうと、そっと彼を抱き上げる。
雪が降るとは思っていなかったので軽装な姿が、風邪を引いてしまいそうだったから。
「寒くないか?」
「サーヴァントはかぜを引きませんよ?」
「知ってはいるさ」
しんしんと振る雪は日の光に反射してキラキラと輝く。
雪の照り返しで、世界がもっと明るくなったように見えた。
「まるでスノードームの中にいるみたいですね」
小さな手に雪を捕まえて、そう呟く。
そうだな、とその独り言に言葉を返し、スノードームの世界を思い描いた。
「見習って雪で家でも作るか?」
「雪だるまも作りたいです!」
腕から飛び降り、サクサクと走り出す小さな後ろ姿を眺めがら、つい苦笑する。
今の彼の姿は本意ではないかもしれない。
それでもこの時が楽しいだなんて口にしたら、彼はどう思うのだろう。
いや、きっと大人であっても同じ世界を見れていたかもしれない。
君の道行く先に祝福を。
MerryXmas
おわり