運命なのに相容れない二人 3「いやあ、大漁大漁!!」
「長可さん……そんなお魚みたいに……」
「似た様なもんだろうが!マスター喜ぶぜ!!」
「確かに足りないものが取れましたからね。あ、でもまだ持っていけませんよ」
「何でだよ。マスターに今日持ってくって言っちまったぜ」
「こんな素材が血だらけだと、マイルームを汚しますよ。それに長可さんも…」
「返り血拭くの面倒じゃねぇか!!お前も真っ赤だしよ」
「私のは不可抗力です!!」
私の声が廊下に響いたが、長可さんは悪びれる様子もなく豪快に笑った。
素材が足りないと、マスターから依頼があったらしいのだが、それは長可さん経由で。
何でもカルデアでは暴れたりなくて、マスターに進言したところ、
『なら、丁度いい!!』
とばかりに、お願いされた様で。
それのお供に、ご指名を受けたのが私なのだが……。
宝具を打つのに便利だから、という安直な思考でお供にされてしまったのでもう大変で。
ワイバーンの大群にも物怖じしない者のお供は想像以上に恐ろしいもので。
迫り来る猛獣を避けながら支援するというのは骨が折れた。
幸いにも時間軸が否定される以前であり、敵からの攻撃は私には無効だったが救いか。
それでも支援しながらも飛んでくる血飛沫までは避けられず、霊衣を汚すこととなった。
両方とも遠目から見ても赤い程に、全身が真っ赤に染まっている。
きっと誰かがこの場面に出くわしたら悲鳴を上げるかもしれない。
誰かのトラウマにならないと良いなぁと思いつつも、手にしたたくさんの素材にマスターが喜んでくれるならとつい思ってしまうのだった。
でも手に入れた素材は、まだ獲物から取ってきたばかりで。
血糊や肉片がついている状態では、素材としては粗悪品だ。
これから洗浄して、精査して品質の良し悪しを見極める作業が……
「ん?なんか良い匂いするな」
「えっ………?」
その時だった。
全身の毛穴が開く感覚。
思わず手に持っていた素材の入った麻袋をその場に取り落とす。
べシャッ、と異質な音を立てて、麻袋から獲物の体液が滲んだ。
しかし、そんな事など気にしている余裕はなかった。
口元を押さえたたまま、その場にうずくまる。
内側から溢れ出る、熱の渦。
ヒートだ。
どうして!?
まだ、予定日までは3日はあったはずなのに!?
「おい、大丈夫か?」
急に足を止めてしまった私に、長可さんがこちらを覗き込む。
言葉を返そうとするも、渦巻く感覚が思考を壊し始めている。
理性で出来ていた頭が、発情という理解出来ない生理現象で揺るがされるのを嫌う。
「医者んところ連れて行こうか?」
「……い、いえ…………」
ようやく絞り出した言葉。
今一番必要なのは、ヒート用の鎮静剤だ。
霊基に個別に調合されたものは、確かにメディカルルームに行けばあるのだが。
「……もうし、わけ……ありませ、ん……私室、にっ……」
息絶え絶えで口にすると、フワッと体が浮いた。
体格的にもそれほど軽い方ではないのだが、背中に担がれ落とした素材の袋も拾ってくれた。
掴まれた手首が少し痛いが、こちらは掴まれるほど余力がないので致し方なし。
「お前の部屋どっちだ?」
「……左、……通路の……っ…」
「カルデアん中って似たような廊下ばっかりで面倒だな」
同感です。
と心の内で思いつつ、必死に内側からの熱に耐える。
抑制剤も鎮静剤も睡眠薬もない今は、ただ己の理性で全てを繋ぎ止めるのだった。
スパーン!!
あぁ、電子キーの扉を力任せに開けて。
いつもならそんな文句が口につくが、今は自分で開けることも出来ないので許容する。
「……ありがとう、ご、ざいます」
どさっと部屋の中央に下ろされて、テーブルに常備してあった薬を水なしで飲みこんだ。
いつヒートが起きても良いように、必要な薬はパッケージから取り出し一塊りにして常備してある。
水も欲しかったが、贅沢は言ってられない。
抑制剤と鎮静剤はメディカルから処方されたものだから、まだ粒が小さくて飲みやすい。
でも睡眠薬は、独自に配合してあるものだから、飲み込み難くて何度か嚥下をしてようやく胃に落とした。
すぐは効いては来ないが、これで一安心と、肩の力が抜けるのが分かる。
最悪、廊下でヒートの最高潮になり、動けずαの餌食になることだけは避けられた。
それを思えば、犠牲は部屋の扉くらいなら安いものだろう。
「…長可、さん……助かり、ました、あり」
運んでもらったお礼の途中で、それは止まった。
長可さんの手が、ジャケットに掛かったからだ。
…………えっ……?
ヒートによる思考が鈍くなっているが故に、何故長可さんの手が私の衣服を掴んでいるのか理解出来なくて。
ずるりと脱がされたジャケットに、体が硬直した。
そうだ。
目の前の長可さんは『α』だ。
あれだけの力を持ち、敵を殲滅していく技量を持つ戦国武将が『β』なはずがない。
『Ω』が放つヒートの香りは、αを引きつける。
それは相手が、番であろうとなかろうと関係なのだ。
古来から発情したΩはαの獲物だった。
ヒートの香りを少しでも嗅げば、Ωが内に溜まった熱を貪るようにαの慰みものになる。
『彼』だって抗えずそうしたように。
ふと思い出したくない顔が浮かんで、ようやく止まっていた思考が動いた。
太い指先がネクタイにかかり、もう片方の手がベストのボタンを外す。
力では敵わないと知っていても、震える手で押さえ込んだ。
抵抗したのは二度目。
初めの時はほとんと力が入らなかった。
受け入れたわけじゃないと、言い訳して『彼』を責めた。
思い出したくない。
なのに、ヒートで歪んだ思考は何故そればかり思い出させるのか。
「……い、や…だっ…」
長可さんに組み敷かれそうな事か。
それとも、『彼』を思い出したからなのか。
滲むような声は、か細くもうちから出た自分の言葉だった。
ピタリと、長可さんの手が止まる。
「寝るんだろ?お前血塗れだぞ?」
ふと、自分の姿を眼下におさめ、ベットのシミもシワ一つすらもないシーツを見た。
「……じ、自分で、出来ますっ!!」
いつもより数倍声が張り、要らぬ体力の消費をした。
「これ全部入らねぇぞ」
「……入る分だけで…、残りは、風呂場にでも……」
素材の体液がついているものは、早めに洗浄しないといけないのだが、諦めて冷蔵庫にぶち込んでおく事にした。
1週間続くヒートでは、入れられなかった素材は諦めだろう。
他の方にお願いしたくても、伝令が長可さんでは成功するとは思えないからだ。
かろうじて汚れの少なかったシャツ一枚になると、シーツへと潜り込む。
鎮静剤が効いて来たのか、燃え盛るような感覚が少しだけマシになったという感じだ。
睡眠薬で意識が落ちるまで、この感覚と戦わないければならないのは毎度の事だが、ちっとも慣れない。
早く過ぎ去って欲しいと、ただ待つだけの時間。
心を無にしていると、いきなりサングラスを外された。
そのまま、ワシワシと濡れタオルが顔や髪を乱暴にかき乱した。
でも冷たくなく、ほんのり温かい。
すぐさまサングラスは戻されたが、きっと髪はぐちゃぐちゃだろう。
まぁ、誰もヒートの時には会わないので構いはしないのだが。
「ありがとう、ございます……」
「良いって事よ。風呂に入れないんだから少しだけだけどな」
確かに、本当はシャワーでも浴びたかったのだが、内側の感覚がそれを許すはずもない。
血のりがついたままの顔や髪で寝ることがないだけでもありがたい。
だがそれよりも……
「…………あの……襲わないんですか……?」
「ん?何でだ?」
心底不思議そうな顔。
「私Ωなんですよ。それに今発情期ですし……」
「えっと……相手して欲しいって事か?」
「…っ……違います!!匂いに影響されてないかと思っただけで……」
理性を失うのはΩもだが、匂いを嗅いだαだって同じ事。
『彼』は一瞬で理性を無くした。
それが多少でも当てはまると思っていたのだが。
「あぁ、ちと良い匂いはするけどよ、そんな盛るってほどでもないぜ」
「…………えっ……」
「俺が狂化が低いのもあるけど……まぁほとんどの奴は気にしないと思うぜ?」
確かにそうだ。
ここには恐らくだがたくさんのαがいる。
歴史に名を残してきたサーヴァントなのだから、それが平凡なβ、ましてやΩである確率は低いだろう。
でも今までαの匂いに気づくこともなかったし、Ωの匂いに反応したサーヴァントを見たことがなかった。
聖杯戦争のために作られた、この隠匿の首輪は恐るべきほどに作用が強いのだろう。
ならどうして、私は『彼』だけを嗅ぎ分けることが出来るのか。
運命だから?
運命とはどこで作られるのだろうか。
「何、悩んでんだ?」
大きくて無骨な手が、私の髪をわしわし撫でる。
少し痛いくらい力強いのに、何だか安心してしまうのはその手が温かったからか。
「Ωでもまたレイシフト出来ますか?」
「おう!獲物の首取るには協力してもらわないとだしな!」
にかっと笑われて、その笑顔が知られる前と変わらないもので安堵していた。
Ωを虐げる歴史も存在する中、変わらない人に出会えたからか。
それとも腕力主義のお眼鏡にかなう働きをするのを認められたからなのか。
「ありがとう、ございます……」
今日何度お礼の言葉を口にしたか。
肺の中の空気を言葉にすると、睡眠薬の作用か微睡が襲ってきた。
この体に渦巻く耐えがたい熱を、遮断出来る時間がやってくる。
Ωという性別を受け入れられない自分ができるただ一つの抵抗。
「良くなったらまた狩りに行こうな」
「…………は、い…」
もうぼやけた視界と、揺らめく聴覚で上手く把握できないが、かろうじて言葉を返す。
意識はそこで閉じるように落ちていった。
***************
廊下でふと匂いに気がついた。
ものすごく良い匂い。
それを吸い込むだけで、気分が高揚し身体の中が湧き立つ感覚が襲う。
彼の匂いだ。
それを気づいた途端、本能で地面を蹴っていた。
彼の部屋など知らなかったのだが、匂いを追っていくとある扉にたどり着いた。
少し軋んだ扉の隙間から、濃厚な匂いが立ち込めている。
こんな匂いがしなかったらきっと開けるのをためらっただろう。
彼が会うたびに眉を寄せる事を知っているし、自分がしたことも否定しない。
会うたびに傷つけてしまうから、きっと部屋など訪れたら何を言われるか、そして何を言ってしまうのか。
でもこの匂いには抗えなかった。
アリが甘い砂糖に誘導されるように、今この扉を開けないという選択肢は頭には存在してなかったのだ。
少し立て付けの悪い扉が開く。
飛び込んできた景色に目を見開いた。
「………………なっ…」
言葉を失った。
そこに居たのは、ベッドに横たわるマックスウェルの姿。
よれたシャツ一枚の装いと、シーツの隙間から覗く白い脚。
ぐちゃぐちゃに乱れた金にも似た髪。
細い手首に残った、誰かの手の痕。
その姿は、倉庫で蹂躙したあの日をフラッシュバックさせるもの。
あの日事が終わったあとずっと眺めていたそのままの姿。
「…………何でじゃ……」
誰が彼に触れた?
彼はそれを許したのか?
自分だってあの時彼の事を好き勝手組み敷いたんだ。
他のαが匂いに釣られて手を出しのかもしれない。
非力な彼に、抗う術がないことは自分が一番よく知っているのだから。
理性を壊しそうな匂いが立ち込めていて、今すぐにもでも食べてしまいたくらい無防備な彼なのに、ピクリともその指先は伸びていかない。
絶望や嫉妬が入り混じった感情がそれを上回り、胃の中がひっくり返りそうなほど熱い。
「…………マックスウェル…」
悲惨な目に合わせたことは分かっている。
後悔しきれない事をしたことは何度悔いても悔やみきれない。
それでも、運命だって気づいてしまったから。
たとえ何度撥ね付けられようとも、会えるだけで満たされていたのに。
「……おまんは…わしでのうてもえいがか?」
ベッドの縁に体を預けて、ぐちゃぐちゃになっていた彼の髪を梳く。
名前を呼んで欲しい。
いつもみたいに嫌そうな顔をして、突っぱねた言葉でも良いから。
自分をどれだけ否定する言葉をぶつけられようとも、声を聞くだけでよかった。
そばに居られなくても、その匂いを嗅げるだけでよかった。
たとえ一度も笑ってくれなくても、眺めていられればよかった。
でも、全ての自己満足は虚構でしかない。
本当は、こんな酷い事をした自分でも受け入れて欲しかったのだ。
笑って。
そばに居て。
愛を囁いてほしい。
なんてわがままで、身勝手な望みか。
彼にだって選ぶ権利はあるというのに。
もし運命であったとしても選ばれなかったら、その時は…………
どうすれば良い?
「………………ん……」
不意に彼が身じろぐと、こちらの首巻の端を掴んだ。
そこで気がついた。
彼の指先にある赤い染みに。
これは……血か?
生前は人斬りと名を馳せていたので、この色はよく知っている。
少し赤黒くなった指に目を凝らせば、そこから彼の袖や襟首に点々とした赤い染みが見えてきた。
彼から発せられる匂いで気がつかなかったが、そういえば少しだけ生臭い匂いが。
そこでようやく、彼以外の景色が視界に入った。
整然と並んだ実験道具やきっちりと納められたたくさんの本。
争った跡など無く、デスクの上の薬が散らばっているところだけが不自然なほど。
そしてよく見渡せば、ベッドのすぐそばに脱ぎ捨てられた彼の衣服。
それは血でべっとりと汚れていた。
点々と床に落ちた血の跡の先を見れば、冷蔵庫に繋がっていて。
恐らく素材回収をしたが、ヒートが訪れたので断念したであろう痕跡がいくつもあった。
「……なんじゃ……わしの思い過ごしか……」
どっと力が抜けて、彼の側に頭を垂れる。
匂いにつられて周りが全く見えなくなっていて、あらぬ妄想で身を焦していたかと思うと顔がら火が出そうな気分だった。
彼がこれを聞いていたらどんな顔をするだろうと想像するだけで切腹ものだ。
彼が身じろぐ。
実は起きていて聞いていたんじゃないか!?と身を固くした。
でもそれは杞憂で、彼は首巻きを握り締めていた手を引き寄せただけだった。
「これ、欲しいんか?」
寝ている彼にそう呟く。
答えは帰ってこないが、首巻を解くとそっとそばに置いた。
すると、彼の手はその首巻を大事に抱きしめるように両腕に包み込む。
ふわりと笑みが溢れる。
「……おまんは、まっことかわええなぁ……」
微笑む彼の頬にそっと指先で触れる。
跳ね除けられることもなく、今だけ受け入れてくれる喜び。
直接向けられる事がなかった笑顔がそこにある。
胸が締め付けられるほど、幸せな瞬間。
「起きるまで好きにしたらえい」
まるで、子供をあやすように、その頭を撫でる。
いつ目覚めるか分からないと思いながらも、時を忘れて幸せを味わう。
あの悲惨な日を塗り潰すように。
決して忘れてはいけないのに、今だけは許されるような気がしたのだった。
***************
まず初めに意識が目覚め、そしてまぶたが開く。
いつもヒートからの目覚めは良くない。
無理やりに睡眠薬で押し殺した発情は、発散される事なく溜まっていく。
だから起きたては身体が重く辛くて、目覚めた事を後悔するほど。
それでも無理にでも身体を動かせば、そのうち良くなるからと自分に言い聞かせる。
鎮痛剤を飲めば溜まっていたものを押さえつけられ、元の生活に戻るのだ。
でも発散出来ない熱は、どんどんん溜まっていく。
現に、飲む睡眠薬の量は増えている。
あの日の後は少し緩和したが、自分で合成した薬は飲み込むのが億劫になるほどに多くなっていた。
でも、今回は少し違った。
意識が目覚めても、なかなか目蓋を開ける気にはならなくて。
良い匂いがする。
自分の好きなものをこれでもか、と詰め込んんだような良い匂い。
この匂いに包み込まれているだけで、心が穏やかになってく。
自分がΩであることも。
それを受け入れられないことも。
発情という理性では理解できない事に抗っている事も。
そんな悩みを全て包み込むような香りに、癒される気がした。
この匂いは知ってる。
これは…………
目が開いた。
目の前に広がった紅は、彼を象徴する色だった。
彼が付けているマフラーの色。
そして彼の持つ同じ色の紅い瞳を思い起こさせた。
まだ焦点が定まらない中、その紅はゆっくりと消えて行った。
まるで役目を終えたのを知ったかのように。
そして過ぎ去った後の残り香が鼻腔をくすぐる。
これは確実に『彼』匂いだった。
どうしてここに?
今まで一度も部屋に来たことはなかったはずなのだが。
ふと、扉を見ると長可さんのせいで、立て付けが悪くなった扉が。
あの隙間からヒートの匂いが漏れたのだろうか?
Ωに割り当てられる部屋には、念のためヒートの匂いを廊下に漏らさない設計になっている。
こんなに歪んでは、修理をお願いしないといけないだろう。
鍵だって長可さんが外側からかけられるはずもないので、彼にとっては易々と侵入出来る部屋と化していた訳である。
「……なんで、来たんですか?」
癒してくれた残り香をを吸い込みながらも、口から出た言葉は辛辣だった。
来なくていいのに。
来る理由など、無いはずだ。
会うたびに彼を拒み、悪態をつく者を番にしたいなど誰が思うというのか。
彼にはすぐにでも諦めてもらわなければ。
この匂いを吸う度に揺らいでしまいそうな思考に、釘を打つように言い続けてきた言葉。
一言彼を否定しなければ楽になれると思っているのに、それを許さない自分がいる。
ふと、眼下を収めればシャツ一枚のあられも無い姿。
換装するだけの気力もなかったので、致し方無いとは思うのだが、彼の前でなんていう格好を…。
……彼は私に触れなかったんですね……。
あの日と同じヒートの匂いに乗じて、手を出すことも出来たはずだ。
睡眠薬で眠っている自分なら、抵抗もされずに手駒めにする事は容易いはずなのに。
包み込むような香りが彼の優しさを体現しているようで、また奥歯を噛み締めたのだった。
それからというもの、ヒートの3日前後は予定を入れないことにした。
廊下で動けなくなったときに、たとえ周りに被害が無くとも自制を失った時のことをつい考えてしまうからだ。
回数を増すごとに増える睡眠薬の数はそれを教えてくれている。
コップに注ぎ込まれた欲という受け入れ難い感覚は、もはや溢れそうなほと張り詰めている。
それでもヒートから目覚める度に香るあの優しい匂いがその波を消してくれる。
嬉しくて
腹立たしくて
癒されて
でも胸の中では拒絶を繰り返す
彼と顔を合わせれば悪態を吐くのは変わらなかった。
距離は付かず離れず変わらないのに、彼の存在が自分の中で変わっていく。
今まで知らなかった感情がごちゃ混ぜの中、理性だけが示す道を歩もうと必死になっている。
まだあの日に歪んだ扉をそのままに。
終わり
<設定>
『隠匿の首輪』
カルデアではΩのサーヴァントが付けている首輪。
希望者及び要注意人物のαも付けている。
本来は聖杯戦争の参加者であるマスター及びサーヴァントに付けてもらうもの。
αやΩのフェロモンを遮断する。
聖杯戦争において、フェロモンを使い一般人を巻き込んだ抗争にしないためというのが大義名分のである。
しかし作られた真実は、α至上主義である時代の聖杯戦争において、Ωのサーヴァントがマスターだけでなく他サーヴァントすらもフェロモンで使役する事で勝利を収めかけたために、二度とこのようなことが起きないように開発された。
首輪をしているのがマスターであるという分かりやすい目印にならないよう、魔術にて隠匿されている。
たった7騎しか呼ばれない聖杯戦争において、今のところ運命の番が出た事例は無いために、この首輪の効果は絶対のものだと評価されている。
カルデアでは外すのには、顧問またはマスターの許可が要る。
抑制剤……発情を抑える薬
鎮静剤……発情してしまった時に生じる感覚を抑える薬
睡眠薬……言わずもがな
普段Ωに処方されているのは、抑制剤と鎮静剤のみ。
性欲を処理すれば薬は必要ないが、Ωの発情は身体的負担が大きいので発情すると服用する人が多い。
ヒートは1週間ほど続き、抑制剤を服用すれば悶々とするくらいで、必要以上には処理しなくてもいいくらいには効く。
ただし、マックスウェルは発情の感覚が嫌いなので(Ω性への抵抗)発情している間は睡眠薬で意識を落としている。
適度に処理すれば、溜まることは無いのだが、理性で構築された意識が性欲という人の本能を嫌い、あの日に以蔵に触れられるまで一切自分でした事もないし、それ以降も無い。
睡眠薬は自作。
せっかくのオメガバース設定なのに、エロシーンが書けない。
次からは書ける予定。
森くんは割と世話焼きなイメージ。
頼れる兄貴って感じで好きです。