Thank you for singing「ありがとうございました。」
長いようで短かったES合同ライブが終わってしまった。その中で、遂に歌ってしまったのだ。あの曲を。
「朔間先輩!最っ高だったじゃねぇか!何がそんなに嫌なんだよ!」
「やかましいのぅ。あのセリフ割と恥ずかしいんじゃぞ。蓮巳くんがどうしてもと言うから──。」
「俺がどうしてもと言って悪かったな。」
別に嫌でもない癖に大神には素直に楽しかったとは言いたくないらしい。格好つけたがりなのは、まあ俺もなのだが。
「そうじゃよ。おぬしが言えと言わなかったら、ただ歌うだけで良かったかもしれぬのに。それにそういう蓮巳くんはどうなのかえ?」
「俺のことは別にいいだろうが。」
「素直に楽しかったとは言えぬのか?」
「貴様にだけは言われたくないぞ。」
「俺様は楽しかったし、また3人で歌えたことが嬉しかった。良かったって言ってたのは客のためだけなのかよ?本当に楽しかったと思ってたのは俺様だけで、先輩達はそうじゃなかったのか?」
大神は少し泣きそうに訴える。ああ、そうだった。こいつにとって初めてのステージは、どれほどの絶望的なやり取りが行われていようとも、紛れもなく『デッドマンズライブ』なのだ。しかし、デッドマンズのライブは、始まりが終わりだった。大神にとってようやくと思うのは、当たり前と言えよう。
「すまん。不安にさせたか?朔間の本心は知らんが、俺はお前ともう1度歌えたことが嬉しかったぞ。ライブ中もよく目が合っていたしな。」
「わっ我輩だって楽しかったぞい!蓮巳くんが意地悪したって思ってただけじゃし!」
「へへっ、そうかよ。そうだよな!だって俺様と歌えたんだもんな!」
そんな大神の姿に朔間はなんだか嬉しそうだ。満更でもないという方が正しいだろうか。もしかしたら、こうなる未来があったかもしれない。でも、それはあくまで物語上のアナザーストーリーだ。あの出来事があったからこそ、3人でのライブはこんなにも尊く感じられるのだ。それは紛うことなき成長と言えよう。
「なあ敬人。今日、ようやく息を吹き返したか?」
「突然なんだ。俺はデッドマンズ(死体)ではあるが、UNDEAD(不死者)ではないぞ。だが、そうだな…そう言うとするなら、俺たちは自力で紅く光り輝いて貴様らさえも眩しいと思わせる月になってやるさ。」
「はっ。一丁前に生言いやがって…坊主のくせに。まぁ、お前からそんな言葉が聞けるようになったのは嬉しいことだな。」
「俺もようやく友人としてまた歌えたのは嬉しかったぞ。それはそれとして、坊主って呼ぶな!悟りには離れ過ぎたアイドルになれたんだ!あんたと同じアイドルに。」
そうだ。俺も朔間零という男に憧れていたのだ。今思えば、全く恥ずかしい話だが。
「おっ俺様を置いて話すんじゃねーよ!デッドマンズは!3人でデッドマンズだろーが!」
「クククッ。そうじゃの、機会があればまた歌える日が来るじゃろう。事務所も因果か同じなのじゃ。遠からず、その日は来ようぞ。」
「ああ、そうだな。」
「おう!デッドマンズでまた歌おうな!」
そんな大神の笑顔にまた救われた気がした。俺も朔間も。