ふと、目が覚める。
眠りにつくまで隣にいた男の姿が見当たらず、体を起こして首をひねると、数センチだけ開けた窓の側で煙草を吸う左馬刻の姿を見つけた。ベッドから起きだし、その横に並ぶ。
「初雪だね」
「……寒かったか?」
窓を閉めようとした左馬刻に、大丈夫、と寂雷が首を振った。まだ宵闇に包まれているヨコハマの空には、ひらひらと粉雪が灰のように舞っている。
「桜に攫われる…なんて言い方があるけれど、君が攫われるとしたら、雪かな」
「はあ?……色だけだろ。それによお」
左馬刻が煙草を咥え、その先に点いた火がじり、と赤みを増す。吸い込まれた煙が、寂雷に向けてふう、と吐き出される。けほけほと軽く咳き込んだ寂雷は、紫煙の向こうでギラつく紅い眼光に射抜かれ、ぞくりと腰に震えが走った。
「俺様を攫えるとしたら、アンタだけだ」
分かってんだろ、とでも言いたげに、左馬刻が小さく笑う。寂雷はその手から煙草を奪い取り、灰皿にぎゅっと押し付け火を消した。
「……やっぱり、寒いから、暖めてほしいな」
「お安い御用だ」
細く開けていた窓をぴたりと閉めきり、二人の身体が新雪よりも真白いシーツに沈む。どちらからともなく唇を重ね、くちゅりと水音が寝室に響く。
夜雪が明けの雪に変わるまで、二人はベッドの上で熱を分け合っていた。