ウルフマン『少年、私は自身の性別を男性と認識している』
台東区、上野。――正しくは、ウエノ。
悪魔交渉に失敗し、再度人狼の姿をした悪魔を探すナホビノに半身が語りかけてきた。内容は唐突なものである。
話の意図が読めないままナホビノが相槌を打つと、アオガミは普段と変わらずに至って真剣な声音でこう尋ねるのであった。
『つまり、私の中にも狼がいるということだろうか』
「え?」
『言葉通りの意味ではないとは認識している。ルー・ガルー自身が己の凶暴性に怯えている様子であったことから、理性無き欲望の比喩なのであろうと』
だから、とアオガミは言葉を切る。
『……』
躊躇いというよりは、怯えを感じる沈黙。
(俺に自分の気持ちを押しつけてないかって思っちゃったのか)
ナホビノは即座にアオガミの思考に気づくも、直接的な否定では彼は納得してくれないだろうと思考した。
自己肯定が低く、しかし頑固な一面もある己の愛おしき半身。
彼が一個人として思い悩む姿もまた愛おしくはあるものの、表情を曇らせる姿をナホビノは――少年は、見たくないのだから。
「アオガミ、ルー・ガルーと俺との会話は全部覚えてる?」
『無論』
「じゃあ、俺が争いが好きって答えた時にルー・ガルーはなんて返してきた?」
『……狼とて、社会性はあると』
「そういうこと」
アオガミの回答に応じつつ、遠目に四つん這いで砂塵を書き上げる人狼の悪魔の姿を発見し、ナホビノも大地を蹴り上げる。
「それに、俺はアオガミからの我が儘なら聞いてみたいな」
『少年、それは私の台詞だ』
「じゃあ、明日の朝ご飯はお互いに作り合おうか?」
『承知』
和やかなやり取りをするナホビノとアオガミであったが、この後に仲魔になったルー・ガルー曰く。
「独りごちながら穏やかな顔で斬りかかってくる貴方、ジュ・ペア……」
フランス語は極一部しか知らぬナホビノであったが、ルー・ガルーが明らかに怯えている様子から意味を察し、気まずそうに視線を逸らすのであった。