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    chisaorito

    @chisaorito ヴェランをかきます💛💙

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    chisaorito

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    ちょっと遅れた2023年猫の日のヴェラン💛💙

    2023/2/23

    #ヴェラン
    veranda

    【ヴェラン】「Was Kätzchen nicht können」Was Kätzchen nicht können


     ランちゃんに「急ぎで頼みたい」と任された書類を持って、騎士団長の執務室を訪れる。
     いつも通りの回数をノックして、「入ってくれ!」と親しみのある返事を聞いてから、扉を開くと、白いものが柔らかい感触をすり寄せて通り抜けていく。
    「おっ、ムート! 出勤ごくろうさまー!」
     声をかけるとムートは「ニャー」と返事をして、尻尾をひと振り、書庫へ向かって軽やかに歩いて行った。
     ムートは俺とランちゃんが面倒をみている白猫。俺たちが仕事中は、ムートも「書庫番」という立派な仕事をしてるんだぜ!
     午前中はランちゃんの執務室で日向ぼっこをしている時が多いけど。
    「ムートが移動したってことは、そろそろ昼か」
     そう言ってランちゃんは腕を伸ばし、身体を解している。しなやかな動きが猫みたいだ。
    「うん、ランちゃんは午後から非番だろ。これ頼まれてた書類だけど……」
    「ああ、ありがとう。助かった」
    「こんくらいお安い御用だぜ!」
     渡した書類にざっと目を通したランちゃんは、呼び鈴で従騎士を呼ぶと、書類の配達を任せている。
     どうやら今の書類で今日の仕事は片付いたみたいだ。ランちゃんの表情から仕事モードが抜けていく。
     午後から非番と言っても、急な案件で休めないことも多いから、今日はしっかり休養が取れるみたいで安心した。
    「お前も午後から非番になったんだよな」
    「そうだぜ~! 飯食いに行く?」
     部下からシフトの交換を頼まれて、俺も急遽非番になったんだよな! 一緒に休めるなんてツイてる!
    「うん、飯の後、お前に付き合って欲しいところがあって」
     俺はランちゃんの言葉に一瞬、息を呑んでしまった。
     好きな相手に「付き合って欲しい」と言われるのは、違う意味だって分かっていてもドキドキしちゃうもんだ。


     幼馴染みのランスロットに恋しているって気付いたのは、いつだったかな。
     割と最近。副団長になってからだ。
     それまではランちゃんに追いつきたい、並びたいってそればっかりで、恋してるなんてまったく思ってもいなかった。
     誰よりも守りたくて、誰よりも幸せになって欲しい人。
     そう思うたったひとりなんてさ、『愛しい人』しかねえよな。寧ろ、よく今まで気付かないでこれたよって思った。
     副団長になって、少し余裕も生まれたから気付いたのかなあって思ったけど、単純にランちゃんの傍にいる時間が増えたからだ。
     一兵卒だった頃は、一か月ランちゃんに会えないとか、会えてもひと言ふた言、言葉を交わすだけとか、ざらにあった。
     それが今では隣に私室を賜っていて、会おうと思えばいつでも会える。恵まれている。
     傍にいる時間が増えたら、もっと一緒にいたいと思って、気付いてしまった。
    「――ランちゃん、付き合って欲しい……って湖」
    「今日が何の日か知っているか、ヴェイン?」
     よく行く店で昼食をとった後、ランちゃんが俺を連れてやって来たのは、城から馬車で少し行った所にある湖だった。
     この寒い季節に湖で何をするんだろう。
     水辺は冷えるから、人も疎らだ。
     春から秋にかけては、民の憩いの場になっている。最近、ボート遊びが流行っているとか聞いたな。……デートスポットとして。
     ランスロットさん どうして俺をデートスポットに連れてくるんだよ
     俺は自分の気持ちに気付いた時、ランちゃんにきちんと想いを伝えていた。
     ランちゃんとお付き合いしたいとか、気持ちに応えて欲しいとか、そういうんじゃなくて、ランちゃんが無防備に近づいてくるからだ。
     近くにいる時間が増えたら、ふたりでいる時間も増えてさ。ランちゃんは子供の頃から知っている幼馴染みの俺を信頼しているから、距離感が近かった。
     酒を飲んだ時、俺にもたれて寝ちゃったから、翌朝目覚めた時に告げたんだ。
    「俺、ランちゃんを好きだから、無防備にされると困る」って。
     好きだって、決死の想いで告げた。
     だって幼馴染みに恋心を抱かれていたなんて、気持ち悪いと距離を置かれる可能性が高いだろ?
     だけど、距離を置かれても、嫌悪されても、ランちゃんを傷つける羽目になるよりずっといい。
     あろうことか、ランちゃんは笑って「俺はお前を信じてるから」って言ったんだ。
     それでその話は終わった。
     ひでえよな~。裏切るつもりはサラサラねえけど。
     それ以来、一応、距離は取ってくれているから、一応、俺の告白は頭にあるらしい、一応。
     うん、ランちゃんの言動に一々ドキドキしてるのは、俺の都合で、ランちゃんに非はありません!
     ランちゃんはひどくねえぜ
     どっちかと言うと告白してからも変わらず、傍にいさせてくれて、優しい。
    「ヴェイン?」
    「……はっ、えっと、何の日かって」
    「……もしかして体調悪かったか? それなら、今日はもう……」
    「帰らない! 帰らない! ちょっと考えてただけ! えーと、今日は、にゃんにゃんにゃん、『猫の日』だろ」
     昨日、城のメイドたちがムートを撫でながら、「明日はごちそうよ~」って話していた。
    「そうだ、にゃんにゃんにゃんの日だな」
     ――うっ、可愛い。
     普段はカッコいいくせに急に可愛くならないで欲しい。俺の真似をしただけだって分かってるけど~! ランちゃんが言うと凶悪に可愛い!
     誰も聞いて無かっただろうな
     そう思って辺りを見回すと、ボートの貸出所に並んで、釣り竿貸出所があるのに気付いた。
    「……あ、もしかして、魚釣りか?」
     今が旬の魚が釣れる。
     子供の頃、ランちゃんとマフラーをグルグル巻きにして、村の湖でも釣っていた。この湖でも釣れるのだろう。
    「流石、ヴェイン!」
    「それでムートのご褒美作りをするんだな!」
    「あたり。いいだろ、新鮮な魚を使った……お前が作った料理」
    「わはは! 俺が作るのかよ、まかせろ!」
    「自分が作る」とは言わないランちゃんに笑ってしまった。ランちゃん、ちょっと包丁が下手だから、鱗取ったり出来ないもんな! 武器の扱いは得意なのに、調理器具になると、どうして下手になるんだろう。
     そんなランちゃんだから、俺も役に立てるんだけど。
    「ふふっ、沢山釣っていこうな」
     無邪気に笑うランちゃんと競争しながら、大量の魚を持ち帰った。


     あまりにも量が多かったので、城の厨房へ差し入れて、残りは夜勤の団員へのお裾分けにしてもらった。
    「……あれ、ムート、もういいのか? ヴェインが作ったウマいだし汁煮込みだぞ。ホロホロでウマいぞ!」
     ムートの前に屈みこんで、お皿を差し出しながら、ランちゃんが話し掛けていた。
    「ウマいって……、あ、ランちゃんつまみ食いした?」
     ムートは色々な人からご馳走を貰っていたようで、俺が作った飯は数口でいらないと言う。
     城の皆に可愛がられていて良かったぜ~!
     ランちゃんはガッカリしてるけど……、うん、寒い中、釣りを頑張ってたからな~! 「お前、ヴェインの飯を食わないなんて、贅沢な……」と呟いているのも聞こえてきた。
     ランちゃんは立ち上がり、お皿をテーブルへ置くと、「お前の作っただし汁がいい匂いで、少し」って、つまみ食いを正直に打ち明ける。
    「ランちゃんの分は、もう少し濃い味付けで別に作ってあるから」
     そう伝えると、ぱっと表情が華やいだ。
     可愛いよな。俺の飯を好きだって言ってくれるの。
     俺のことも同じくらい好きでいてくれたらいいんだけど~! つい贅沢なことを考えてしまう。
     ランちゃんはムートを抱っこして、ソファーへ腰掛けると、真っ白なお腹を撫で始めた。
    「こんなにお腹をぽっこりさせて……、お前、ヴェインの飯が食えない程、何を貰って来たんだ」
    「うわ……、食い過ぎも良くねえから、来年は皆に控えめにしてもらおうぜ」
     ランちゃんの言う通り、ムートのお腹がぽっこり膨らんでいる。食べ過ぎだぜ~!
     ムートはランちゃんにお腹を撫でられて、気持ちよさそうにしていた。細い指が喉の下を撫で、ゴロゴロと低い音が響く。
     いいよなあ。遠慮なくランちゃんに触れて貰えて。
     俺も猫だったら、ランちゃんに甘えて、可愛がって貰えただろうか。いや、子供の頃、十分可愛がって貰ってたけどな!
     それに今はどちらかと言えば、可愛がられるより、可愛がりたいし。
     ランちゃんを抱っこして、喉を撫でてさ……って、いけね。
     この妄想はナシナシ!
    「ムート、寝ちまいそうだな。俺が引き受けるから、ランちゃんは部屋に戻って休めよ」
     ランちゃんの膝の上からムートを抱き上げると、ムートは俺の腕の中でもゴロゴロと喉を鳴らした。口元が笑っているみたいに見える。猫は無表情って言うけど、そんなことねえよな~!
    「大好き」はちゃんと伝わってくる。
     可愛いなーと思いながら、ムートの鼻にキスをすると、「俺はまだ部屋に戻らないぞ?」という声が聞こえた。
     見ると、ソファーの上で胡坐をかいたランちゃんと目が合う。
    「え?」
     それは結構困ると言うか……、あ、そっか。飯を食ってないから。
    「ゴメンな~、今、飯用意するから……」
    「そうじゃなくて」
     ランちゃんが視線で「こっちに来い」と言うので、俺はムートを猫用ベッドへ寝かせてから、ランちゃんの傍に行く。
     腕を伸ばしてもランちゃんには届かない距離へ腰掛けると、ランちゃんは猫みたいなしなやかさで俺の傍へ来た。
    「ラ、ランちゃん……」
    「ヴェイン。お前は、どうして自分の望みを言わないんだ」
    「……え?」
     ランちゃんが近づいた分、離れようと後退ると、逃げられないようにする為か、俺の太腿の上に膝を乗せ、背もたれへ手をついて、俺を囲い込んだ。
    「待って 待って、ランちゃん」
     めちゃくちゃ距離が近い上に、ランちゃんを押しのけて逃げることが出来ない!
     ランちゃん、なんでー
    「言わなくても、お前の望みは全部顔に出てる」
    「ひえー」
    「ムートより分かり易いんだよ」
     そりゃ、猫より分かり易いだろうけど! でも、だからって口に出来ないことの方が多いだろ?
     恋する男の考えなんて
     俺だって、とても口に出来ない。
    「だって、言えねえよ。ランちゃんが困るだけだ」
    「じゃあ、顔に出すなよ」
    「それは……、ランちゃんが勝手に読むからじゃん……」
    「ヴェイン」
     口を噤むとランちゃんが呆れた顔で俺を正面から見つめてきた。
     子供の頃、不貞腐れた俺を揶揄う時にやっていたように唇を指先で摘まんでくる。
     距離が近すぎるんだってば。
     俺、ランちゃんを好きだって言ったのに。
     至近距離は困るって。
     こんな距離。
    「ムートへキスしたみたいに、キスしたくなるだろ……」
     摘まんでいた指を離された時、思わず言葉にしてしまっていた。
     顔に出ているなら、言っても言わなくても同じだっていう、やけくそみたいな気持ちもあった。
     ううん、言葉にしたら、もっと警戒してくれるんじゃないかって。猫が威嚇の声を出すようなもん。
     それなのにランちゃんは、やっぱり笑っていた。
    「要望はキスだけなのか?」
     なんて言う。
     なにこれ。どういうこと。
    「お前さ、告白と要望は一緒にしてくれないと、結構困るんだぞ?」
    「え……」
     するりとランちゃんの腕が俺の首に回る。
     ランちゃんの距離がぐっと近づいたと思ったら、少しかさついた唇が触れていた。
     ランちゃんの唇が、俺の唇に触れている?
     ――え、キスしてるってこと? うそだろ。
     乾燥して、潤いが無くなっている唇は、柔らかくて、あたたかかった。
     一度離れたと思ったら、もう一度触れてくれる。
     触れるだけのキス。
     もっと、したい。
     もっと、触れる面積を増やしたい。乾いた唇を潤すくらいに……。
     ランちゃんの腰へ腕を回して引き寄せてしまう。
     なんでランちゃんが俺にキスしてるんだろうと思ったけど、もっとキスを深くしたくて、衝動が抑えられない。
     だから、至近距離は困るって言ったんだ。
    「……ランちゃん、なんで……」
     もっとキスしたい。舌を絡めたい。それ以上だって。
     そう思って、ランちゃんの顎を捉えたけど、ムートが伸びをして、くるんと寝る体勢を変えたお陰で我に返れた。
     ありがとー! ムート~! ムタイを働かなくて済んだぜ~!
     慌てて手を離す。ランちゃんから距離を取りたい。
     でも、ランちゃんは許してくれなかった。手のひらを重ね、指を絡ませてくる。
     どうして。
     どうしてって、ランちゃんも、望んでるってこと?
    「ヴェイン」
    「……はい」
    「お前が俺に『好きだ』って告げた後、『困る』って言うから……、俺は、ヴェインが俺との関係を変えたくないんだと思って」
     それは、ランちゃんが困るだろうから、絶対に幼馴染みという関係を壊したくないと思っていた。
    「恋心に気付きたくなかったのかなって、無かったことにしたいんじゃないかって、思ったんだ。お前が、そう思ってるなら、俺は」
     言いかけたランちゃんの言葉を奪って、唇を重ねた。
     ランちゃんの手が震えているのに気付いたから。
     キスをしながら、「ごめん」と何度も謝ってしまう。
     ランちゃんを悩ませていた。
     俺が中途半端だった所為で。
     逃げていないで、はっきり告白していれば良かったんだ。
    「好きだ。付き合ってください!」って。
     受け入れるにしても、断るにしても、はっきり言われないと困るだけだっただろう。
    「ごめん、勇気がなくて……」
     猫には『勇気』って付けておいて、これだ。
     何度もキスをすると、ランちゃんも応えて、唇を押し付けてくる。拙い、初々しいキスを繰り返しながら、俺はもう一度告げた。
    「ランちゃん、好き。好きです。俺の恋人になって」
    「ふふっ、いつかはっきり伝えてくれるって、信じてたぞ……」
     ランちゃんはキスの間に悪戯っぽく微笑んだ。
     ランちゃんが『信じてるから』って言ってたの、そういう意味
     全然、分かってなかった。
    「信じてたけど、……ムートにキスするから、待ちきれなくなった」
     その言葉に、俺はとうとうランちゃんをソファーへ押し倒してしまった。
     俺がムートを可愛いと思ってしたキスに、ヤキモチ焼いたって、そんな告白をきいたら、もう無理!
     押し倒して、性急にシャツの裾へ手を入れてしまう。沢山、触れたい。全部に。
     ランちゃんは抵抗なんてしないで、俺の肩へ腕を回し、囁いた。
    「キス、して、抱っこして、喉を撫で、て……?」
     顔に出ていたこと、全部言われちまったけど、恥ずかしがってる余裕もなくて。
    「猫にできないこと、全部する」
     そう囁くと、ランちゃんはやっぱり笑って俺をまっすぐ見つめていた。
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