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    800字朝菊 9日目

     細かく刻んだニラとキャベツ、それからひき肉、卵を一つ割り入れて、片栗粉と胡椒を振りかける。ラー油と醤油、日本酒に生姜、ニンニクをふんだんにいれ最後に「中国さんが思ったよりも入れた方がいい、とおっしゃっていたので」と、普段そっけない態度をとるくせに、兄貴分の国の化身の名前を出してその通りにした。戸棚にしまわれた調味箱を取り出し、塩を加える。食に関してはストイックだな、とイギリスはその動作をひとつずつ目で追っていた。
     日本は台所に置かれたダイニングテーブルの上にボウルを置き、たすき掛けをした和服姿のまま腕を振るっている。手全体で具材を掴み、時折空気を抜きながら手早く混ぜていた。その中国から「日式餃子」と呼ばれるアジアの料理を作るらしい。ダイニングチェアに座りなおす。料理といえばフライパンを火にかけ、ターナーで具材をくるくるとかき回す――そういった優雅な仕草を想像していたが、彼は前髪を揺らし全身の力を手に込めており、どちらかというと大工や工芸を思わせた。勇ましく力強く、男らしい。
    「さあ、イギリスさんにも手伝ってもらいますよ」
     壁掛け時計に目をやり、シンクに溜まっている食器を洗おうかな、と思っているうちに日本は高らかに告げた。自覚はあるが、この男はイギリスを調理に触れさせようとしない。にもかかわらず今日は真逆を言ってくるので、驚いて振り返った。「え?」
    「だから、これ。包んでくださいませんか。意外と量があるんですよ」
     にこやかに言う日本の手元には、円形にくりぬかれた薄いラザニアじみたものがある。聞けば「皮」らしく、「餡」である捏ねた具材を一つずつ包んでいくらしい。
    「ああ、やっぱりお上手ですね」
    「そうか?」
    「まるで売り物じゃないですか。一度手本を見せただけなのに。さすが、器用でいらっしゃる」
    「そんなに褒めるな。調子に乗るぞ」
     指先に細かな粉が付着するのがなんともいえない感触だが、餃子作りは案外楽しかった。コチコチ、と時計の針が時を刻む音だけが響く静かな台所で、二人で黙々と手を動かしている。皮をつまんで手のひらに乗せ、スプーンで餡を掬っては中央へ置く。水を指の腹で塗り、少しずつ丸めて口を蛇腹に閉じると餃子ができる。
    「見てください。これは、風車」
     日本が手元をぱっと広げると、餃子の皮が五つに分かれており、複雑に折り重なっていた。確かに風車に似ている。「すごい!」とその手法に賞賛を送ると、自分も真似したくなってくる。
    「じゃあこれはどうだ。キャンディ」
    「かわいいですね。バラ、とかできませんか」
    「こうか? あ、破れた」
    「もう」
     熊の形、クジラ、それからお互いを模した不思議なもの。歪で不格好な餃子がいくつか仕上がり、気付けばすべてを包み終えていた。
     作り上げた彼との種を、日本がそっと持ち上げる。フライパンに油とともに乗せ、火を点けて焼き上げる。蓋をするとたちまちに香ばしい匂いが漂い、空腹を感じた。湯気が立ち、その蓋を開けて餃子の焼き上がりを二人で眺める時、この料理を食卓で二人で囲むとき、イギリスは国の化身であることを忘れて幸せを感じるのだろう。
    「イギリスさん、お皿取ってもらえますか」
     ぼうっとフライパンを眺めていると、隣に立つ恋人はそうイギリスに告げた。「ああ、今すぐ」と台所の隅にある食器棚へ向かう。扉を開けた三段目の奥に自分のカップとソーサが堂々と陣取っているのを見て満ち足りた気分になり、言われたとおりに大皿を手にした。
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    gmksk

    MOURNINGクリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。
     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
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    gmksk

    TRAINING朝菊 13 妖精さん
     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
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    gmksk

    TRAININGほぼ日朝菊 12
     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
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