細かく刻んだニラとキャベツ、それからひき肉、卵を一つ割り入れて、片栗粉と胡椒を振りかける。ラー油と醤油、日本酒に生姜、ニンニクをふんだんにいれ最後に「中国さんが思ったよりも入れた方がいい、とおっしゃっていたので」と、普段そっけない態度をとるくせに、兄貴分の国の化身の名前を出してその通りにした。戸棚にしまわれた調味箱を取り出し、塩を加える。食に関してはストイックだな、とイギリスはその動作をひとつずつ目で追っていた。
日本は台所に置かれたダイニングテーブルの上にボウルを置き、たすき掛けをした和服姿のまま腕を振るっている。手全体で具材を掴み、時折空気を抜きながら手早く混ぜていた。その中国から「日式餃子」と呼ばれるアジアの料理を作るらしい。ダイニングチェアに座りなおす。料理といえばフライパンを火にかけ、ターナーで具材をくるくるとかき回す――そういった優雅な仕草を想像していたが、彼は前髪を揺らし全身の力を手に込めており、どちらかというと大工や工芸を思わせた。勇ましく力強く、男らしい。
「さあ、イギリスさんにも手伝ってもらいますよ」
壁掛け時計に目をやり、シンクに溜まっている食器を洗おうかな、と思っているうちに日本は高らかに告げた。自覚はあるが、この男はイギリスを調理に触れさせようとしない。にもかかわらず今日は真逆を言ってくるので、驚いて振り返った。「え?」
「だから、これ。包んでくださいませんか。意外と量があるんですよ」
にこやかに言う日本の手元には、円形にくりぬかれた薄いラザニアじみたものがある。聞けば「皮」らしく、「餡」である捏ねた具材を一つずつ包んでいくらしい。
「ああ、やっぱりお上手ですね」
「そうか?」
「まるで売り物じゃないですか。一度手本を見せただけなのに。さすが、器用でいらっしゃる」
「そんなに褒めるな。調子に乗るぞ」
指先に細かな粉が付着するのがなんともいえない感触だが、餃子作りは案外楽しかった。コチコチ、と時計の針が時を刻む音だけが響く静かな台所で、二人で黙々と手を動かしている。皮をつまんで手のひらに乗せ、スプーンで餡を掬っては中央へ置く。水を指の腹で塗り、少しずつ丸めて口を蛇腹に閉じると餃子ができる。
「見てください。これは、風車」
日本が手元をぱっと広げると、餃子の皮が五つに分かれており、複雑に折り重なっていた。確かに風車に似ている。「すごい!」とその手法に賞賛を送ると、自分も真似したくなってくる。
「じゃあこれはどうだ。キャンディ」
「かわいいですね。バラ、とかできませんか」
「こうか? あ、破れた」
「もう」
熊の形、クジラ、それからお互いを模した不思議なもの。歪で不格好な餃子がいくつか仕上がり、気付けばすべてを包み終えていた。
作り上げた彼との種を、日本がそっと持ち上げる。フライパンに油とともに乗せ、火を点けて焼き上げる。蓋をするとたちまちに香ばしい匂いが漂い、空腹を感じた。湯気が立ち、その蓋を開けて餃子の焼き上がりを二人で眺める時、この料理を食卓で二人で囲むとき、イギリスは国の化身であることを忘れて幸せを感じるのだろう。
「イギリスさん、お皿取ってもらえますか」
ぼうっとフライパンを眺めていると、隣に立つ恋人はそうイギリスに告げた。「ああ、今すぐ」と台所の隅にある食器棚へ向かう。扉を開けた三段目の奥に自分のカップとソーサが堂々と陣取っているのを見て満ち足りた気分になり、言われたとおりに大皿を手にした。