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    朝菊 やった~10日目🎉

     ラジエーターと呼ばれる暖房器具がある。各家、各アパートメントに必ず設置されているボイラーで作られた温水を、ラジエーターに通して循環させ、家屋全体を温める。冬季がくると氷点下に達するのも珍しくないロンドンだが、室内はいつでも暖かい。どの部屋でも室温は均等に保たれ、バスルームやトイレまでラジエーターは設置されているのだから、冬の朝は比較的起床しやすい。
     以前、日本の家に泊まった際は目が覚めると吐息が白く曇った。
    「住まいは夏を旨とすべし。湿度が高くて四季がはっきりしているから、ここでは暖をとるよりも通気性の良い、涼しい家が好まれるんですよ」
     確かにそうだな、と頷いたことを思い出す。だが、自然の気温が家の中にも流れる日本邸には独特の住み心地の良さがあり、イギリスは気に入っていた。あの家では確かに朝、布団から這い出るのには勇気が必要だが、「そういうもの」と考えればしんと冷える室内にも納得できる。掛け布団の中で寝間着を寄せ集め、ぐっと腹に力を込め寒さを堪えて身体を起こすのだ。
     が、ラジエーターで温められたはずの自分のアパートメントでは、なぜこうもベッドから起き上がれないのか。目を覚ますと足元がひやっとし、見ればシーツを隣で眠る男にすべて取られている。こちらを向いて寝ている日本の、裸の肩が規則正しく上下していた。昨晩服を着れば良かったものを、面倒だからとそのままにして就寝した。さすがに温かなロンドンの室内でも、冬の朝に着衣せずベッドに寝ていると肌寒さを覚える。シーツの塊と化した眠る彼を抱き寄せ、足を絡めて腕に押し込めば、弧を描く細いまつ毛が揺れて黒い瞳が薄く開いた。「まだ寝ていたいのに」と言いたげな表情だ。
    「寒い。入れて」
    「……合言葉は」
    「え? あ、愛してるよ?」
    「よし」
     日本がシーツの端を手にしたまま、腕を広げる。ベッドに横たわる彼の肌の色が見え、昨日の夜の、暗がりでぼんやりと浮かび上がるような裸体をまざまざと思い出した。唾液で濡れ、てらてらと光る彼の口元が頭をよぎる。熱っぽい息を吐き、耳の奥に響くような快感を押し殺した声を上げる。そこまでの記憶が映像となって映し出されたが、「イギリスさん、早く」と呼ばれて意識は戻ってきた。身体を捩じりよって近づき、シーツの中に入る。
    「今、何時でしょうか」
    「分かんねえ。スマホ……はキッチンに置きっぱなしだった」
    「寒いなあ。でも喉が渇きました」
    「あ、昨日飲んだ水……もキッチンに置いてきたんだった」
    「あなたはキッチンに置きがちですね」
     腕を伸ばすと、何も言わずに日本が頭を起こし、イギリスの肩口に首を乗せた。居心地が良いところを探っているのか何度か身じろぎをし、「ああ、ここだ」と言わんばかりに落ち着く。彼は自分よりもずっと年上ではあるが、こうしてみると幼い子供のようでもあり、しかし視線を向けられるとその鋭さに心臓の裏側をなぞられた気にもさせられ、――どうにも食えない男である。至近距離で見つめてきた日本は、「お願いがあります」と言い出す。
    「何?」
    「イギリスさん、紅茶が飲みたいです。ついでに、リビングのラジエーターの温度を上げてきてください」
    「それで、温もった頃に起きてくるんだろ? ずるい」
     イギリスをベッドから追い出そうとする割に、彼の腕が背中に伸びてきた。そのまま抱き留められ、力がぐっと身体にかかる。
    「寒いなら、温めてやろうか。朝の俺はすごいぞ」
    「そんなことしたら、二度寝しちゃうじゃないですか……」
    「じゃあ、スリーカウントで一緒に出よう」
    「ええ、絶対にイギリスさんは出てくれない」
    「俺を信じろ」
     かみ合わない会話に、互いに面白くなる。笑う日本の身体が揺れ、髪が頬に触れてくすぐったい。ベッドから出るか、出ないか、の問答をしているさ中にどさりと音がした。「何?」と二人で顔を見合わせると、庭の樹木に積もった雪が、地上に落ちたものらしい。
     雪が降っているなら仕方ない。昼頃に起き出して、それから二人でブランチを作って食べ、公園に散歩へ出かけるのも良いだろう。次第にシーツの中が二人分の体温であたたまり、また、微睡がゆっくりと訪れる。日本の顔に指で触れた。綺麗だな、と純粋にそう思う。
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    gmksk

    MOURNINGクリスマスイベント用の漫画を小説にしました。言い訳でございます。どっちが得意とかそういうのより、私は絵を描けないということがはっきりしました。イベントはとても楽しかったしみなさんの朝菊は最高にエモかったです。
     小説すら、間に合わない。もういい、適当に書こう。アーサー・カークランドはその日、なんやかんやあってファストフード店に入った。クリスマス限定アルバイトとしてさんざんホールケーキを売り、着ぐるみを着用しアーケードの通行人にキャンペーングッズを配り、時折上司にあたる製菓店員に叱られながら、なんとか終業を迎えたころだ。クリスマスイブに当たる二十四日である今日は、どこも飲食店には客がひしめき合い、行列は店の外まで飛び出している。
     一緒にアルバイトをこなしていた、本田菊はとある店を指さした。「あそこなら、空いてるんじゃないんですか」と物静かな視線が店の明かりに向かう。そこが、ファストフード店だ。牛丼と呼ばれるこの国の人気料理を取り扱う店で、明らかに一人客が多く、やはり普段よりは混雑しているものの、滞在時間が短く回転が速い。よし、ここで、とどこでもいいから休みたい学生の二人は、慌てて店内へと入った。
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    gmksk

    TRAINING朝菊 13 妖精さん
     今朝、見つけた四つ葉のクローバーを頭に乗せると、彼は黒くて丸い瞳をきらめかせてわたしを見た。滑らかな黒髪の上にあるクローバーは今にも滑り落ちそうで、羽根を使って宙に浮き、茎を必死に両手で押さえる。「ああ」と優し気な声がして、瞳の縁から放射線状に生えた繊細なまつ毛が揺れた。
    「これ、頭に乗せるとあなた方を拝見できるのですか?」
    「そういうこと。ちょっと、ニホン。これ持っててちょうだい。離れたら見えなくなるのよ」
    「では、私に何か用でもあるのでしょうか」
     あるわ、と自分の口から言葉が飛び出したものの、その尖った響きに我ながらびっくりする。想像以上に、わたしはこの男に嫉妬心を抱いているらしい。
     日本がロンドンへとやってきたのは、昨晩のことだ。イギリスは今日どうしても外せない用事があって、早朝、庭にやってきてわたし達に挨拶と優しいキスを送ったあと、そのまま出かけてしまった。「じゃあニホンは一人で家の中にいるのね」と、わたしはそのままマナーハウス近くに流れる小さな川に行く。小一時間ほど飛び回り、探し出したクローバーを、ブランチを食べるためにテラスへとやってきた日本の頭に乗せた。よく知られてはいることだが、わたし達ピクシー妖精は人間の目には見えない。――イギリスとはしっかりと目が合い、彼はわたし達をひとしく認めてひとしく愛してくれるのだけど、「国の化身だから」という理由ではないらしい。日本には、数百年も前からずっとわたし達の姿は見えなかった。
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    gmksk

    TRAININGほぼ日朝菊 12
     果てしなく長い間この世を彷徨っていると、ふと「この感情は何だったか」と立ち止ることがある。数百年ほど拗らせた恋人との付き合いも、突然我に返ることがある。「今一緒にいなくても、まだまだこの先はずっと続く。別に、必死にならなくても良いのではないか」と思うものの、結局は彼をここに呼び寄せ、短い休暇を共に過ごしているのだからいよいよ自分が分からない。ぼうっとしながら、昨晩遅くまで起きていたために未だ布団に体を横たえている国の化身を想像した。手元には冷えて硬くなった鶏肉がある。醤油ベースのタレが付いており、ところどころ黒い焦げ跡が見えるので「炭火焼き」は実際本当なのだろう。
     昨日の夜、仕事終わりにコンビニへと立ち寄った。その日、イギリスがやってくることをすっかり忘れていたために、自分だけの夕食に缶ビールとカップに入ったサラダ、レジ横のスナックケースから焼き鳥を購入し、帰路を辿っている。しばらく住宅街を歩き、着いた自宅には明かりが点いていた。アポイントなく訪れる大国の化身を想像したり、もしかすると先ほど別れた部下がなぜだか日本宅へと先回りしており、「あ、日本さん」とこちらを見る姿を思い浮かべた。引き戸を開くと途端に辺りの寒々しい風が遮断され、遠くの方にオレンジ色の光が見える。沓脱に目をやると、見慣れた革靴がきちんと揃えて置かれていた。「あっ」
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