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    creapmilkcrazy

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    夏伊前提←五
    伊が喫煙してます。

    #夏伊
    shae
    #五伊地
    goiji

    夏伊(←五)

    懐かしい香りがする。
    あぁ…傑が吸っていた香り。
    誘われるように階段を駆け上がっても、きっとそこには居ないのに。
    扉を開けると、すっきりとしたソーダ色が広がっていた。
    そこに甘い雲をトロリトロリと焚いている伊地知を見つけた。
    「い〜じ〜ちっ」
    いつものように後ろから抱きついて、笑いかける。振り返った顔は冷たくて、呆れたように吐き出す。
    「五条さん…」
    「伊地知、それ好き?」
    「えぇ、まぁ…私より五条さんの方がお好きでしょう?」
    「僕?」
    五条は首を傾げ、ふざけたように左上を眺めた。
    上には空しか無い。あの世に向かってとぼけた顔を見せる。
    「甘いよね、僕、好きだよ」
    「……そうですか」
    「伊地知は?好き?」
    「…さぁ?…分からないですね」
    「ははっ、なんで吸ってんの!やめな!」
    「昔、あの人が言ってました、このタバコの香り、あなたが好きだって…。でも私とは関係ありませんから…」
    なにそれ。
    関係ない訳ないじゃん。
    お前が傑と付き合ってたのも知ってる。僕のこと、許せないくせに。
    まだ傑の事好きなの?傑の匂いさせて、味を思い出して?
    傑の事、思い出すの?
    「そんな下らない事、言ったんだ。へぇ…?」
    僕の腕を突き離し、数歩よろけた伊地知はフェンスにぶつかった。
    コロコロとコンクリートに転がって行くタバコを、五条は一歩踏み出して足首を捻り、潰した。
    「アイツ、お前にタバコ教えたんだ…?で、それ吸うのやめられないの?」
    ビクリと肩が震えて、フェンスが悲鳴を上げる。
    伊地知は相変わらず不健康な顔色で、俯く。
    五条のきっと高いピカピカの爪先に目をやり、ため息を吐いた。
    あの人と付き合っていた事も、タバコも何もかも、私みたいな下らない男といた事実は五条さんにとって面白くないのだろう。
    私にとっては、大切な人だった。今だってそうだ。
    それでもあの人を下らないなんて、言われて怒る事も出来ずに、泣きそうな私をバカにする。
    「……すみません…」
    五条の横を通り過ぎようと、震える膝を騙して歩いた。
    嫌だ、なんでこの人は私がたまに吸うと来るのだろう。時々なのに、許してくれない。
    私だって、幸せな思い出にくらい縋りつきたいのに。
    それなら誰にも迷惑かけないから、ひとりにして欲しい。
    「待てよ、伊地知」
    引っ張られた腕に引き寄せられ、低い声で上から圧をかけられる。
    見上げれば涙が溢れた。
    「ぁ…」
    やだ、五条さん…。
    グッと腰を引き寄せられ、五条さんが腰を屈める。
    この人の前では、動けなくなる。昔から怖くて、意地悪で、強引で、あの人の大切な…。
    「んっ…ぅ、んんっふ…」
    唇を無理にこじ開けられて、舌を絡められ、顎を掴まれる。
    ズリズリと足の先が地面と擦れる。
    「はっ、や…んっ、やッ、ご」
    味わうように舌でゾロリと上顎を舐めて、唇を吸ってから離れる。
    伊地知の顔を片手で持ち上げたまま、上から眺める。
    「…やめ、て…くださいって、あれほど…」
    ぐしゃぐしゃになる目元と、涙で唇を震わせる。
    伊地知の顔が好きだ。アイツの事で泣くのは許せないけど。
    僕を見ろよ。
    「はな、離し…て…っ」
    手を緩めると地面にそっと立ち、フラつく。
    「なんで…キス、やめてください…」
    「お前がそれ吸うのやめないなら、僕もやめないから」
    「私の勝手じゃな、いですか…っ、五条さんには迷惑かけてないですよね!?いいじゃないですか…」
    たまにしか吸わないから、知ってる。
    でもそんな時は決まって、伊地知が寂しい時だから、僕は放っておけない。
    だって好きだから。
    「…もう、行きます」
    諦めたのか、五条の手に箱を渡して、伊地知はまた歩き出す。
    くしゃりと手のひらで握りつぶし、振り返る。
    猫背と細い腰に視線をやる。
    伊地知のそこを知っているアイツはもう居ない。
    けれど別れ話もしないまま、伊地知から離れた。
    あんな風に泣かせる。
    あーあ、腹立つ。僕ならそんな事しない。
    僕だって好きだった、アイツと付き合う伊地知を我慢したのに。
    「……僕のバカ」
    臆病だから、昔なら追いかけていなかった。
    でも今は違う。




    きっと五条さんがキスなんかするのも、あの人の香りと味がするからだ。
    あの人にとっての五条さんは特別で、五条さんもそう。
    付き合ってた僕よりも、きっと大切だった。
    「やっぱり、僕の事なんて…好きじゃなかったんだ…」
    また涙が出てくる。どうせ誰も来ない空き部屋に隠れた。
    でもあの人に愛されてた記憶は、甘く優しくて、寂しくさせる。
    僕なんかが、付き合ってたから…好きになったから、五条さんは…あんな邪魔してくるんだろう。
    当時もそうだったし、あの人がおかしそうに微笑むのを何度も見た。
    五条さんには睨まれてたけれど。
    僕が気に入らないんだ。今も。
    「…もう、放っておいて欲しい」
    そう言った後、廊下を歩く音が聞こえて来た。
    足音は五条さんのだとすぐに分かった。
    どうして、ここに居るのが分かったんだろう。
    お願い来ないで、としゃがみ込んで祈った。
    神様みたいな五条さんに、神様への祈りが通じる事も無く、後ろのドアは開いた。
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