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    creapmilkcrazy

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    幻覚のじゅセン夏→伊

    #夏伊
    shae

    飴玉廊下の向こうから、ゆったりと真っ黒で大きな先輩が歩いて来た。五条先輩とは違った怖さがあり、近寄り難い雰囲気もまた違った。
    少し緊張して肩を上げた。
    木造校舎の軋む音と共に彼が近づく。
    夏油の表情は疲れが滲んで、乱れ髪を揺らしていた。
    会釈をすれば良いだろうが、伊地知は後輩の自分から挨拶をしなければと、真面目故に思っていた。
    夏油の事は少し怖くても、伊地知には声をかけないという選択肢はなかった。
    「お疲れさまです。夏油先輩…任務帰りですか?」
    夏油は目を少し見開いて黙っていた。
    挨拶されて終わると予想していたが、自分のことを聞かれるなんて思ってもいなかった。
    「…お疲れさま。そうだよ…、伊地知は?」
    「寮に帰る所です。一緒に帰りましょう」
    「…一緒に?」
    「はい…夏油先輩、酷くお疲れのようですから…早く休んだ方がいいですよ」
    「…………」
    何度か伊地知とは会話をした気がしたような、曖昧な記憶しかなかった。そして彼の方から進んで声をかけて来たことはなかった。
    夏油が伊地知を見下ろし、黙り込む。
    伊地知は自分を見上げ、心配そうに眉を寄せた。
    丸くて形のいい頭が見えた。
    「…ありがとう。伊地知」
    そっと伊地知の頭に手を置くと、伊地知は驚いていた。少しくすぐったそうに目を細めた。
    微笑んだように見える目尻に夏油は安心を覚える。
    何をしてるんだろう…私は…。
    「ごめん、撫でたりして…」
    「いえ…、あ…そうだ!」
    ゴソゴソとポケットを弄り、手のひらを広げた伊地知の表情が忙しく切り替わる。
    取り出したのは黒飴だった。パッケージが真っ黒で、すぐに分かった。
    黒飴を二人で見つめ、沈黙が降りる。
    伊地知は目を見開き、慌てて手を引っ込めた。
    「こ、これじゃ…!無くて…!違った!」
    焦っていたのだろう、敬語が外れて独り言を言いながらポケットを弄っている。
    「何が違ったんだい?」
    飴をくれようとしたのは分かった。
    「飴…黒飴は…良くないからです」
    「は?」
    伊地知は他の飴を取り出すと、私の手に乗せた。
    「伊地知?」
    「、なんでもありませんっ!すみませんでした」
    頭を何度も下げて逃げようとするので、手首を掴んで引き寄せた。
    ギュッと伊地知の靴底が鳴って、細い腰が捻れた。
    「ほわっ!」
    「あ…」
    バラバラバラ…と、廊下に飴玉が転がり落ちて音を立てた。伊地知のポケットにはたくさん入っていたみたいだ。
    少し面白くて、小さく笑ってしまう。
    「ごめん、私のせいだ…」
    手を離して、しゃがむと髪を耳にかけてから、拾い集める。
    「すみませんっ」
    二人であちこちに転がった飴玉を拾う。
    側にあった飴玉に指を伸ばして、顔を上げると丁度、夏油と目が合った。
    夏油は黒飴を拾い上げた。
    「どうして、コレは違うんだい?」
    「あ…えっと…夏油先輩の…アレに似ているから…僕…」
    「アレ?」
    「じゅ、呪霊を…取り込む時の」
    夏油は目を見開いて、うっかり指の力を緩めてしまった。転がり落ちて、何度か音を立てた。
    黒飴が似ているから、伊地知は気を使ったのだと分かると腹の底からおかしくて笑えた。
    急に声を上げて笑い出した夏油に、驚いて伊地知は後ろにすっ転んだ。
    夏油は立ち上がり、腹を抱えて体をくの字に捩って…そのままもう一度しゃがみ込むと静かに息を吸っては吐いた。
    「久々に声を上げて笑ったよ…」
    「…あ、あの…大丈夫ですか…」
    「大丈夫。それより全部渋い飴だね?」
    手のひらに集まった飴玉はあまりカラフルではない。
    黒飴、黄金糖、貝の形ののど飴、抹茶あんこ飴。
    どちらかと言うと、地味だった。この後輩のように。
    「おばあちゃんが…っ、祖母が…送ってくれて…食べると懐かしくなるんです。祖母のことを思い出すので…」
    伊地知は眉を下げて目尻を細めて笑うと、穏やかな目線で夏油を見つめた。
    愛されている人間の瞳だ。伊地知は家族を大切にしているのだろう。
    伊地知は愛を知っているから、他人に優しく出来る。
    夏油にもそれを平等に向けていた。
    「……伊地知、ほら」
    床に座っていた伊地知に手を伸ばすと、彼が手を掴んだ。引き上げると、伊地知の可愛いつむじが見えた。
    「伊地知、コレ、もらっても良いかな?」
    黒飴を指で摘むと、夏油は笑った。
    きっと上手く笑えたはずだ。
    「えっ…でも、」
    「伊地知の黒飴は、美味しいだろう?」
    「…は、はい?」
    「伊地知の好きな飴はどれ?それも欲しい…な」
    「あ、抹茶の飴の中にあんこが入ってる飴が好きです。最近ずっと五条先輩に取られちゃうので…少ないんですけど…」
    あの野郎は後輩の飴玉をたかっているのか…。
    そして伊地知は私以外にも、飴を渡して歩いているのか……。
    目を細めた夏油に抹茶の飴を渡す。
    「これ、美味しいんです。抹茶が、ほろ苦くて…」
    「へぇ…これが伊地知のお気に入りか、ありがとう。いただくよ」
    ゆっくりとポケットに入れると、夏油は優しく微笑む。
    「さ、帰ろうか」
    「はい。おかえりなさい。夏油先輩」
    「ただいま」
    寮に帰る道を歩く足は少しだけ軽くなった。
    疲れているからと、自分を心配して部屋まで見送ってくれたが、夏油は伊地知と側にいたくて仕方なかった。
    それでもそんな事は言えなかった。
    とりあえずシャワーを浴びて、眠る事に専念する。
    ベッドに倒れ込むと、枕元に置いていた携帯電話のサブディスプレイが点滅した。
    表示には伊地知からだった。
    初めて見た名前に、すぐに開いた。
    連絡先を交換したのは、ずいぶん前だが…一度も連絡をした事はない。
    メールを開くと「お疲れさまです。ゆっくり休んでください。夏油先輩とお話し出来て嬉しかったです。」そう短く書かれていた。
    枕を掴んで、顔を埋め込むと携帯電話を閉じた。
    返信は後でするが、今はちょっと噛み締めたかった。
    初めてのメールも、伊地知からの言葉も、全部、全部…たまらなく沁みてしまった。
    机の上にある五条と家入と撮った写真が見えて、五条のアホ面が不愉快だった。
    伊地知のお気に入りの抹茶あんこ飴ばかり、ガリガリと食う悟が頭に浮かんで腹が立つ。
    写真立てを伏せてから眠った。
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