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    10ゲージのポイポイ

    @honey_bee_19se

    書けないものとか色々ポイポイ

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    POIPOI 89

    🔥さん生存if夢の続き。
    夢っぽく無くて申し訳ない…。

    誓い02「部屋にいないと思ったら…」


    母の声ではない女性の声がする。
    まだ少し重い瞼を開ければ、見覚えのない天井が見えた。


    「おはようございます、よく眠れましたか?」


    声のする方を見れば、そこに居たのは母ではなく、微笑みを浮かべた瑠火様がそこにいた。
    ハッと、昨夜の悪夢のような出来事を思い出す。
    そうだ…私の家族はもういないのだった。
    胸の奥がギュゥと痛む。
    胸の辺りの着物を握り締めていると、布団がもぞりと動いて、ひょこりと男の子が顔を出す。
    ああ、そうだ。
    昨夜はこの少年と一緒に眠ったのだった。


    「杏寿郎、女人の布団に入り込んではいけませんよ」


    布団から出てきた杏寿郎様に瑠火様はピシャリと言い放つ。
    まだ眠そうにしていた杏寿郎様だったが、彼女の声色に背筋をピンと伸ばし正座をした。


    「もうしわけありません!ははうえ!」
    「わ、わたしが手をはなさなかったのです」


    謝る杏寿郎様に慌てて私も顔を伏せる。
    手を離さなかったのは私だ。彼は悪くない。
    申し訳ありません、と謝る私の頭を瑠火様はサラリと撫でた。


    「昨夜は大変でしたからね…。顔を洗っていらっしゃい。朝餉の用意ができてますよ」


    杏寿郎、案内してあげてください、と瑠火様が言われると、元気よく返事をし、
    杏寿郎様は私の手を取り歩き出す。
    手拭いを受け取り、バシャバシャと顔を洗う。
    冷たい水が眠気を追い払い、頭の中がスッキリと冴え渡る。
    また杏寿郎様に手を引かれ食事が用意された部屋に向かった。



    「食べ終えたら貴女の家に向かいましょう」


    食事をする中、瑠火様が伏し目がちに言った。
    はい、と返事をし、味噌汁をゴクリと飲み込めば腹の中は温かくなったが、心は何処か冷えていた。
    脳裏に、血に濡れ血溜まりに倒れていた父と母が浮かんだ。
    俯けば、涙が零れ落ちそうだった。


    「ははうえ、わたしもついていってもよろしいですか?」
    「…杏寿郎」


    隣で一緒に食事をしていた杏寿郎様の言葉に顔を上げた。
    杏寿郎様を見れば、いっしょにいこう、と言って柔らかく笑った。


    「この子も共に連れて行ってもいいですか?」
    「……はい…っ」


    優しさに、堪えていた涙がぽろりと零れた。



    辿り着いた我が家は、外から見れば、いつもと変わらないように見えた。
    家の前には覆面をした人が立っていた。
    隠と言われる人で、鬼狩り様の手伝いをしてくれる人らしい。
    家の中に足を踏み入れる。
    いつも出迎えてくれた声は無く、耳に痛いくらいの静寂があるだけだった。
    賊に荒らされグチャグチャになっていた部屋は、あらかた綺麗に片付けられていたが
    部屋には染みついたように血の臭いが残っていて、昨夜の事が夢ではないと思い知らされた。


    「大切な物などがあれば、持ち出してください」


    瑠火様に、そう言われ部屋を見る。
    賊に持ち出された金品は、煉獄様が持って来てくださると瑠火様が教えてくれた。
    自分の服を数枚取り出して纏める。
    賊達が荒らしたのだろう、部屋にある箪笥や棚は割れていたりして壊れていた。

    慣れ親しんだ家だが、今はここに住める気がしなかった。
    だが、此処を出て何処に行けばいいのか。
    父と母以外の親族はいない。
    頼れる人はいない。
    それでも助かったこの命。
    生きていかなければ。


    「終わりましたか?」
    「あ、はい」
    「では、こちらへ」


    瑠火様に声をかけられ、纏めた荷物を持って駆け寄る。
    外に出て、瑠火様の後ろを付いていけば家の横に、こんもりと盛られた真新しい土が見えた。
    それは二つあり、父と母だと理解した。

    手を合わせて祈る。
    目を瞑った中に、優しく笑う父と母が映る。


    「……お父さん…お母さん…っ…」


    鼻の奥がツンとして、ボロボロと涙が零れ落ち、その場に泣き崩れた。
    大好きな父と母。
    優しく、力強く、抱き上げてくれた父。
    抱きしめられた時の甘い香り、優しく微笑む母。
    私を呼ぶ二人の笑顔は、もう見ることはできない。
    もう、会うことはできない。
    もう、二度と。

    泣き崩れる私の背に、温かいものが触れた。
    杏寿郎様の手が、私の背を撫でる。
    瑠火様が私に手拭いを差し出してくれた。
    涙を拭い、父と母に頑張って生きていくと、誓った。




    「いろいろと助けていただき、ありがとうございました」


    深々と頭を下げる。
    何の縁もゆかりもない私に、とても良くしてくれた。
    命も心も救ってくれた。
    感謝してもしきれない。


    「誰か親類などはいますか?」
    「…いません………あ、の…」


    瑠火様の問いに答え、続きを言おうとして言葉を飲み込み、俯く。
    このまま私を煉獄様の屋敷に置いて欲しい、なんて、そんな事は言ってはいけない。
    彼らには、彼らの生活がある。
    血の繋がりも、何の所縁もない子供の面倒を見て育てる義理などありはしないのだ。
    私は、一人で強く生きていかなければならない。


    「貴女がよければ、煉獄家にいらっしゃい」


    その言葉に、弾かれたように顔を上げた。
    柔らかく微笑む瑠火様。
    隣にいた杏寿郎様が駆け寄って来て、私の手をきゅっと握った。


    「いっしょに、かえりましょう」


    手に伝わる温かいぬくもりに涙が止まらなかった。
    見ず知らずの私を受け入れてくれる優しさに感謝してもしきれない。
    心細かった。
    失ったものは大きかった。
    失ったものの大きさに哀しくて寂しくて、差し出された救いの手の優しさに嬉しくて安心して
    わあわあと声を出して泣いた。


    「……っ、ありがとう、ございます…っ」


    そうして私は煉獄家に世話になることになった。
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