幸せサンド「かあさま!きょうは、よるのくえすとには、いきませんか?」
「そうね。今日は行かないよ」
「なら、ねるときに、ほんをよんでほしいです!」
「いいよ〜」
教官にソックリな息子は、金色の目をキラキラとさせて私に抱きついてきた。
私の知らない教官の小さい頃を見ている様で、嬉しくて仕方がない。
ぎゅっと抱きしめれば、腕の中で、きゃあきゃあとはしゃいで、何とも可愛い。
「愛弟子ぃ〜」
一方、何とも情けない声で私を背後から抱きすくめるのは、夫で腕の中の息子の父親である教官。
二人とも、私の大事な家族で、愛おしい存在であるが、いかんせん。
二人とも私を好き過ぎるのだ。
今だって、背後から抱きついた時に私に密着していた息子をさり気なく、その逞しい腕で引き剥がして私に触れさせまいとガードしている。
何とも大人気ない。
「俺とは?一緒に寝てくれないの?」
「…今日は、ちょっと…」
教官のいう一緒に寝る、というのは所謂、夜のお誘いでもある。
私だって愛する夫のお誘いには応えたいが、最中に息子が起きてしまうのでは、と気が気ではなく、断ってしまう事もしばしば…。
意外にも寂しがり屋の教官。
断った時の、置いて行かれたオトモたちのような表情には罪悪感がチクチクと胸を刺す。
「とうさまは!きのう、かあさまといっしょに、ねたでしょう!」
むぎぎ、と私に巻きつく教官の腕を取ろうとする息子。
息子も一緒に寝ていたが、朝、私の体が教官に抱き抱えられていたから、という事らしい。
「キミは今日一緒に昼寝してだだろう?」
取られてなるものか、と力を込める教官。
ぐえぇぇ。内臓が飛び出そう。
「こどもは!よく、ねるんです!」
取れない腕をベチベチと叩く息子。
かあさまがくるしそう!と言うと少し緩む腕。
ありがとう!優しい子に育って母は嬉しい!
「いいぞぉ!大事なのは食事と睡眠!お昼ご飯は全部食べたかい?」
「たべました!」
小さな息子の手で外された片腕が、息子の頭に伸びて、教官と同じ色の髪をワシワシと撫でる。
大きな父親の手で撫でられて、息子がむず痒い顔をする。
けれど、その顔は嬉しそうで。
教官のいい父親っぷりに、ほっこりとする。
「えらい!じゃあ一人でも眠れるね!」
前言撤回。
やっぱり大人気ない。
「ほんを、よんでもらうんです!」
絆されそうになったが諦めない!と私の腰に回る、もう一つの腕を剥がそうとする息子。
それを絶対に阻止しようとする大人気ない愛しい夫。
毎晩、繰り広げられる攻防は、いつも、私の言葉で勝敗が決まる。
「かあさま、これはなんですか?」
「これはモンスターの気を引く匂いを出す生き物」
「フェロモンという物質だね」
「ふぇろもん」
二つ並べられた少し大きな布団の上で、私が息子を抱き抱え、私を教官が抱き抱えるように座って本…という名のハンターノートを見ている。
ハンターになりたいとは、まだ言わないが、父親と母親が何をしているかを知りたいようだ。
「さあ、もう寝ようか」
「はーい!」
ハンターノートを閉じて息子が寝転ぶ。
灯りを消して寝転ぶ教官の隣に私。
私の反対側の隣には息子。
私を挟んで川の字が、いつもの形。
「かあさま、とうさま、おやすみなさい」
「おやすみ」
「しっかり寝るんだよ」
掛け布団をかけてやると、ピッタリと私に寄り添って目を閉じる息子。
私に掛け布団をかけて、これまた息子と同じ様にピッタリと私に寄り添う教官。
何処もかしこも二人は瓜二つだ。
「おやすみ…愛してるよ」
「私もです…おやすみなさい」
額に優しい口づけが降ってくる。
幸せに挟まれて、私もそっと目を閉じた。
今日も寝返りは打てそうにない。
そして、この夏も地獄だなぁ、と、小さく小さく溜め息を吐いた。