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    さゆの

    @sayuno315

    書いたSSとか投げてます

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    さゆの

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    咲良が決意を新たにする話。
    誕生日(4/9)祝いしてる暇なんてなかっただろうな…と思いながら書いた。

    ##機密隊高月

    大型分霊が出現したあの日から一週間が経った。
    中区の被害は深刻で、復興までには長い時間がかかるだろう。
    特に大型分霊が出現した商店街は壊滅状態で、近くに店を
    構えていた実家も被害を受けた。
    幸いにも他の建物よりは被害が少なく、必要なものはこちらで回収することが出来た。

    「はいこれで全部、奇跡的に状態が良いよ」
    「助かった…マジで咲良が警察で良かった」
    「ふふん、でしょ~?」

    後継者の兄が必要書類を見ながら安堵のため息をつく。
    探すのにこっそり術を使ったからこの仕事で良かったのは
    確かだけど、言えないので言わない。

    「新居見つかりそう?」
    「上区のお得意さんが場所貸してくれることになった。
    今月中には移れる予定だよ」
    「良かった…お店も続けられそうだね」
    「あぁ、しばらくは準備期間になるがな。咲良は?住んでたとこ、ダメになったんだろ」
    「まぁね、上区にも社宅あるからそっちに移ったよ」

    大切なものは幸いにも全て壊れなかった、一生分の運使ったと思ってる。
    この機会に戻ることも考えたけど、わたしの仕事は夜だし、秘密ばかりで心配をかけたくないからやめた。
    これからは準備で忙しくなりそうだし、休みの日は手伝いに
    行くことが多くなりそうだ。

    「咲良」
    「あ、お母さん」

    そうして話していると、どこかに出かけていたらしい母が
    戻ってきた。
    わたしを見た母は優しく微笑んで手に持っていた小さな箱を
    わたしに差し出す。

    「これ…」
    「遅くなったけど誕生日プレゼント、咲良が好きなお店の
    ショートケーキ。本当はホールで買いたかったけど、
    節約しないといけないから…」

    箱に書いてあったロゴはわたしが子供の頃から大好きなお店のロゴだった。
    昔は誕生日にホールで買ったショートケーキを家族みんなで
    分け合って食べていた。

    「わたしの為に…?」
    「だってあなた、あれからずっと元気ないじゃない」
    「!」

    図星をつかれて心臓が跳ねる。
    母の言う通りだ、わたしはあの日からずっと悩んでいる。
    命の危険がないなんて言っていた仕事で、初めて人が死んだ。
    たくさんの人が死んだ、それなのに高月は今回は特例だから、通常業務では命の危険はないと説明していた。
    あれほどの危険があったのに、命の危険はない?そんなわけないでしょ…

    「…もう、元気づけようとしたのに、更に元気なくされたら
    困るわ」
    「う、ごめん…」

    つい頭が暗い思考で埋まってしまった、いけないいけない。
    母はそんなわたしを見かねてか、ケーキの箱を兄に渡してからわたしをぎゅっと抱きしめる。
    背中に回された手が優しくわたしの背中を擦る。

    「何があったか、なんてわからないし聞かない。私はね、
    あなたが生きているだけで嬉しいのよ」
    「…うん」
    「誕生日おめでとう、咲良」

    母の体温が私に伝わる、その暖かさにじわ、と涙が溢れて
    頬を伝う。
    あの日、知り合いも友達も、たくさん死んだ。
    それが悲しくて、苦しい。
    わたしは子供みたいに母に縋り付いて、吐き出せない感情を
    涙にのせて流した。

    「…ありがとう、お母さん」

    ひとしきり泣いて、母から離れる。涙で濡れた顔を拭いて、
    息を吐いて笑う。
    今更うじうじ悩んだってしょうがない。わたしはこの仕事に
    選ばれて、あの日を生き残った。
    それなら怖くても前を見て、今まで通りに仕事するだけ。
    それで、多くの人を助けられるのだから。
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