決意討伐要請を受けて、どれほどの時間が経ったのだろうか。
視認できる範囲での目玉が全て破壊された頃、大きな音を
立てて大型分霊が地上へと崩れ落ちた。
「…お、わった…のかなぁ」
一気に力が抜け、ため息を吐く。あぁ、疲れた。
時計を見れば日付を跨いで深夜の2時頃、これほど長い間、
術を使い続けるのは初めてじゃない?
冷静になってきた頭で色々考えながらハジメさんを探す。
あれほど大きな分霊なんだから、蓄積される穢れの量は計り知れない、出来るだけ早く浄化出来るようにしないと…
「っ…?」
そこまで考えて、ぞくりと悪寒が走る。
咄嗟に分霊へと目を向ける、瞬間横たわっていた巨躯が空へと浮かび上がり、光を放って消えていく。
そして、光の中からボタリと大きな音を立てて
何かが生まれ、落ちる。
本能が警鐘を鳴らしている、あれは危険だ、警戒を緩めるな、と。
まだ終わってない…いや、これからが本番だってこと?
「…え?」
落ちた何かの様子を見に行った職員の一人が、頭を貫かれて死んだ。
唖然としているうちにそれがゆらりと身を起こす。
上部に浮かぶ赤い目玉、10メートル以上はありそうな体躯は鮮血に染まっており、多数の触手が次の獲物を狙って揺らめいている。
「分霊が、人を殺したの…?」
呆然と眺めているうちにまた一人、一人と職員が大型分霊に貫かれて死んでいく。
明らかに人の命を奪う為の行動、分霊が人を攻撃しないなんて常識は一瞬のうちに覆されたのだ。
他の職員が恐怖の声を上げている、逃げている人もいた、
気持ちは十分に理解できる。
わたしもここから逃げ出したい、見つかっていない今のうちに屋上から降りて、影に隠れながら…
「…ダメだ、そんなの」
恐怖に震える足を叩き、ジャケットからストックの呪符を
取り出して構える。
正直怖い、めっちゃ怖い、だけど決めたじゃないか。
あの分霊を倒すまではわたしも倒れるつもりはないって。
中区を、実家を守るために諦めないって。
「まずは足止め優先、次に討伐…」
人を殺すことが目的であるならもっと人のいる場所を
狙うはず、ならばエリア外から逃さないように討伐するのが目標になる。
それならわたしがやるべきことは二つ、ハジメさんの
サポートと出来る限り触手を落とし続けること。
やるしかない、やらなきゃ死ぬんだ、わたしも、家族も、
みんなも。
諦めない、守り通して見せるから、絶対に。