Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    14zrzr28

    @14zrzr28

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    14zrzr28

    ☆quiet follow

    JMR!2のモブ霊新婚アンソロの小話です
    ※モブ霊(25×39)

    #モブ霊
    MobRei

    きっと、一緒だからだ「見て下さい、師匠。一面の……」
     いわゆる、オーシャンビューと呼ばれるホテルをとった。
     部屋にいながら海を見渡せるところが人気で、綺麗な景色を一望出来るらしい。浴場には露天風呂も備わっており、そこでもまた、広い景色を楽しむことが出来るのだと。
     ただ、
    「一面の――大雨」
     それもすべて晴れていたら、の話だが。

     霊幻と共に、ささやかな式を挙げた。
     本当に小さな式だった。互いの両親と兄弟に、エクボと芹沢とトメ、あとはショウとテルだけ。ほんの少人数で挙げた式は、それでも、おめでとうの言葉で包まれて幸せいっぱいだった。
     式の手配は、ほとんど霊幻がまとめてくれた。
     モブだって勿論手伝いたかったのだけれど、丁度その頃は、仕事の繁忙期が重なってしまったのだ。連日遅くに帰宅をして、気力の糸が切れた途端にベッドへと倒れ込む毎日。休日出勤なんかも重なっては上手く物事も考えられなくて、どうにも疲労困憊だった。とはいえそんなのは言い訳に過ぎないと謝り、だけれどちっとも、霊幻は怒っていなかったことを覚えている。
     だからせめてもの代わりに、新婚旅行の手配はモブが担った。
     会社の人たちにおすすめを聞いてみたり、いくつものパンフレットとにらめっこをしてみたり。最終的に決まったこの宿は、我ながら良い選択だったように思う。これならば、きっと霊幻も気に入ってくれる筈。そうやって意気揚々と旅支度をした、までは良いものの。
    「まあ、こればかりはしょうがない」
    「うう……僕、ちょっと雨雲を吹き飛ばしてきます」
    「こんだけ降ってて、急にここだけ晴れたら妙だろ」
     真っ暗に空を覆う、重たい雲。ざあざあと、勢いよく降り続ける雨。ご自慢の窓からは綺麗な景色などちっとも見えなくて、モブはがっくりと肩を落とした。
    「今日は、部屋でのんびりしておこうな」
    「…………はい」
     言って、霊幻がポットで茶を煎れてくれる。モブはそれを受け取って、テーブルにある茶請けの饅頭をひとつ開けた。
    「何味?」
    「あんこです」
    「お、いいね」
     霊幻もひとつ、饅頭を食べる。
     部屋の中に入ってくるのは、ひたすらに降る雨の音。ざあざあとか、コツコツとか、それらがたくさん降っているんだぞと、嫌でもこちらへ告げてきた。
     雨雲を吹き飛ばすという案は、少し本気だ。だけれど本当にそれをやってしまっては、霊幻から怒られるに違いない。観光地で誰が見ているんだか分からない、とかを口にして。
    「こういうとこでテレビ点けると、全然知らないローカル番組やってるよな」
    「ですね」
    「俺、ああいうの見るの好きなんだよ」
     テレビのリモコンを操作し、霊幻が番組の一覧を確認した。適当にチャンネルをいくつか回せば、モブも霊幻もまったく知らない番組で画面が止まる。先の言葉のとおり、あえてそれを見ることに決めたのだろう。
     モブは一息ついて、霊幻の傍へと寄った。
    「…………やっぱり、晴れてたら良かったな」
    「ん。そうか?」
    「だってせっかく、海の見える部屋にしたのに」
     言いながら、そっと霊幻の左手へ指先を絡める。
     自分のものよりも細く長い指に一つ一つ触れて――その薬指には、しっかり収まる銀色。数ヶ月前に、モブからプレゼントをしたものだ。一緒にお店へ行って、一緒にどれが良いかを選んだ。当然、モブの左手の薬指にも同じものが収まっている。
    「……」
     結婚、したんだ。
     そんなの、当たり前だ。結婚したのだからこそ、式を挙げて新婚旅行に来ている。霊幻をとうとう捕まえられたからこそ、今ここでこうして、二人並びテレビを見ている。
     もともと同棲はしていたけれど、それとはまた少し心持ちが違う。お互いの口約束だけでは決してなくて、周りからも誰からも正式に認められるというのは、やはり心強い。
     ハネムーンに訪れて、二人で過ごす。温泉にでも浸かって、豪華な夕餉を食べて、それから。
    「…………」
     それから。
     ちら、と視線だけで寝室を見た。今はドアが閉まっているが、開ければその先では、キングサイズのベッドが居を構えている。
     新婚旅行なのだから、つまりそういうことも存分に期待してしまって良いのだろう。まさか早々に、じゃあお休みなどと眠りにつく筈がない、たぶん。モブはごくりと、息を飲み込んだ。
     どうにも、いまだに慣れない。
     初めて肌を重ねて、もう数年は経っているというのに。それでも毎回、どうにも気持ちが昂ってしまうし、落ち着いて冷静にエスコート、だなんて出来た試しがなかった。
     もっと歳を重ねたのなら、落ち着けるのだろうか。いいや、どれだけ時が経ったとしても、その場、その歳相応に、結局心臓は跳ね上がってしまうような気がした。
    「モブ」
     意識がそちらの方へ向かい悶々としていると、霊幻から声をかけられる。
    「……今、やらしいこと考えてたろ」
    「か、考えてないです」
    「嘘つけ、顔に出てる」
    「えっ」
     慌てて、首をぶんぶんと横へ振った。それで取れるものでもないのだが、とはいえそのままにしてもいられない。期待をしていないと言えば嘘になるけど、それが最大の目的で新婚旅行へと赴いている訳じゃないのに。
     そんなモブの百面相を見て、霊幻は可笑しそうに笑った。先の指摘も、ほとんどが揶揄いを含めてなのだろう。
    「さすがに、夜までは我慢な」
    「は、はい」
     じゃあ、夜は……そういうことだろうか。
     モブの体は致し方なくずるずると沈み込んで、そのままごろりと横になった。昼寝の姿勢に入ったことへ気づかれたのか、その格好で寝たら首痛めるぞと、霊幻から座布団を一枚、枕の代わりで渡される。
    「……」
     外は相変わらず、雨が降り続いている。
     ざあざあ降る音と、コツコツ窓を叩く音。加えてテレビから聞こえてくる、ローカル番組の音声を背景にぼんやりしていれば、少しずつ意識が遠退きそう。やがてモブは、うつらうつらとしたまま、瞼を閉じていった。


    「モブ、雨止んだぞ」
    「…………あめ?」
    「そ。止んだ」
     時間にして、一時間ほど眠っていたらしい。
     霊幻に揺さぶられて、モブはやわやわと目を開ける。視界に入る眩しさは輝く日光ではなく、人工的な部屋の明るさだった。
    「ほら」
    「あ、本当だ」
     窓から外を覗けば、先まで降っていた雨が止んでいる。
     けれど快晴とはほど遠い。時間ももう夕方に片足を入れ始めている頃合いで、どう足掻いたって綺麗な景色というやつは明日に持ち越しだった。
    「なあ、せっかくだし海行こう」
    「でも、そろそろ夕飯ですよ」
    「あと三十分くらいは時間あるだろ」
     霊幻に促されて、結局はモブも腰をあげた。靴を履きロビーを抜けて、そして外へと歩き出す。ホテルの近くには防波堤があって、そこを越えると、
    「海だ」
    「海ですね」
     辺り一面に、海が広がっていた。
    「……綺麗ではないな」
    「…………そうですね」
     雨が止んだといっても、空はどんより曇って灰色ばかりがのし掛かり、それしか反射のない海もまた、くすんでいる。
     たとえばこの瞬間を旅行のパンフレット用に撮ったのなら、間違いなく不採用だ。絵はがきにでもと収めたのなら、受け取った相手は首を傾げるに違いない。そういう景色が、ずうっと遠くにまで続いていた。
     霊幻は防波堤に沿って、急ぎもせず止まりもせず歩いていく。モブもまた、その後ろをついて行く。
     時折海風が吹いて、霊幻の髪の毛を撫でていった。するとその方向へ、霊幻が顔ごと向けるものだから、なんだか眺めていて眩しい。
    「師匠」
    「ん?」
    「なんか、嬉しそうですね」
     前を歩く霊幻が、こちらを振り返る。
    「分かる?」
     そう一言いって、そこらに落ちている枝を一本拾った。
    「嬉しいよ」
    「曇っているのに?」
    「そう」
     木の枝は、意味もなくぶんぶんと振られる。空気を切って、右へ。空気を切って、左へ。尾のように動いたかと思えば突然ぴたりと止まり、代わりに霊幻が、ニッとした笑みを浮かべた。
    「おまえも、嬉しいだろ」
    「えっと」
     そうして、そろそろホテルに戻って夕飯を食べようと、少しだけ歩いた道程を二人で戻る。ふと立ち止まって視線を少し横にずらせば、沈み始めた夕陽と共に、くすんだ波が押し寄せては引いていた。
     先に降り続いていた雨の音ではなく、ざざん、と寄せる波の音が聞こえてくる。
    「……そうかも」
     拍子に、波に運ばれた風が、こちらにまで届いてやってきた。たったそれだけのことなのに、モブは思わず瞳を瞬かせる。
    「モブ、行くぞ」
    「はい」
     綺麗とはほど遠い景色の中で、だけれど二人きり。そんな中で並んで歩いていては、まるでそれらが、嬉しさの理由を、そっと教えてくれるみたいだった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💒💯☺💖💕💯👍👍🙏❤❤💖❤❤💕👍💖💒💒💒💒💒👏👏👍👍❤💖💖❤☺💞👏👏👏💞💞💒💒💒💖💖💒💒💒💒💒💒💒❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    humi0312

    DONE2236、社会人になって新生活を始めたモブくんが、師匠と通話する話。
    cp感薄めだけれどモブ霊のつもりで書いています。
    シテイシティさんのお題作品です。

    故郷は、
    遠くにありて思うもの『そっちはどうだ』
     スマートフォン越しの声が抽象的にしかなりようのない質問を投げかけて、茂夫はどう答えるか考える。
    「やること多くて寝るのが遅くなってるけど、元気ですよ。生活するのって、分かってたけど大変ですね」
     笑い声とともに、そうだろうと返って来る。疲労はあれ、精神的にはまだ余裕があることが、声から伝わったのだろう。
    『飯作ってる?』
    「ごはんとお味噌汁は作りましたよ。玉ねぎと卵で。主菜は買っちゃいますけど」
    『いいじゃん、十分。あとトマトくらい切れば』
    「トマトかあ」
    『葉野菜よりか保つからさ』
     仕事が研修期間のうちに生活に慣れるよう、一人暮らしの細々としたことを教えたのは、長らくそうであったように霊幻だった。利便性と防犯面を兼ね備えた物件の見極め方に始まり、コインランドリーの活用法、面倒にならない収納の仕方。食事と清潔さは体調に直結するからと、新鮮なレタスを茎から判別する方法、野菜をたくさん採るには汁物が手軽なこと、生ゴミを出すのだけは忘れないよう習慣づけること、部屋の掃除は適当でも水回りはきちんとすべきこと、交換が簡単なボックスシーツ、スーツの手入れについては物のついでに、実にまめまめしいことこの上ない。
    1305

    recommended works