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    14zrzr28

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    14zrzr28

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    JMR3 で公開していた、ネプリアンソロ企画の年末年始のモブ霊です
    28×42です。

    #モブ霊
    MobRei

    なる音 今年が終わって、来年がやってくる。
     テレビを眺めながら、モブと霊幻はみかんを口へ放り投げた。画面の中では年末の歌番組も幕を閉じ、各地の神社の様子が映し出されている頃合いだった。
    「……師匠」
    「うん」
    「好きです」
    「あー……俺も俺も」
     なんて、とても愛の言葉をささやくような感じではないままに、モブも霊幻もみかんを口に入れていく。やがてそれらが胃の中へ収まったあと、どちらからともなく、互いに視線を合わせた。
     年が明けるまでの十五分間、二人のあいだでは勝負が始まる。
     初戦は、結婚をした年だった。年明け早々にふれあう行為を、どうにも恥ずかしがる霊幻から持ちかけた、そういう恥ずかし紛れの勝負だった。
     互いに口説きあって、照れた方が負け。
     結婚三年目の対戦記録は、モブが二勝で霊幻が一勝の成績だ。昨年は霊幻に有終の美を飾られてしまったものだから、モブとしては、今年は絶対に勝ちを決め込みたい。
     手始めに、好きという言葉を入れてみた。
     とはいえ、この程度じゃ揺るがないのも勿論わかっている。好きが薄れてしまったとか、そういう訳ではないのだ。
     平素であれば伝えたら伝えた分、霊幻もいまだに相当恥ずかしがる。ただ、今のように最初から身構えており、かつ、負けてたまるかと備わっている気持ちが、そうはさせないだけで。
     一回目なんかは、それこそ「好き」という言葉だけで霊幻はあっさりと陥落した。自分から勝負を持ち出しておきながら負けて悔しがる様が、可愛かった。
     二回目は、その「可愛い」という言葉を投げ続けた。最初こそ反応は鈍いが辛抱強く伝えてみたところ、タイミリミット数分前で、とうとう霊幻の耳元が赤色に染まったものだった。
     三回目は、なんと霊幻の方から素直にすり寄ってきたのである。ぴとり、と手が触れて肩にもたれ掛かられたりもして。あまりに魅力的な行動に、モブは情けなくも、すぐさま白旗をあげる羽目になった。
    「……去年と同じやり方は、だめですからね」
    「わかってるよ」
     言って、霊幻は己の口元に指をやる。正直なところその仕草にすら、ぐっときてしまうのだが、質の悪いことに無意識なのだろう。この人には、昔からこういうところがある。
    「モブくん」
    「……はい」
    「俺といいことしない? サービスしちゃう」
    「…………」
     そして残念ながら、こういうところもある。
     あからさまなやつこそだめなのだ。モブは限界まで肺へと空気を溜めて、それから思いきり吐き出した。額に手をやり、やおら首を左右へ振る。
    「わかってない、わかってないな……」
    「な、何がだよ」
    「師匠は、師匠自身の良さがわかってない……」
    「渾身の誘惑を前にして、失礼なやつだなお前は」
     他人の魅力を引き出すことは得意なクセをして、どうして自分のそれには気付けないのだろう。
     モブの方からあれそれとプロデュースをした方が、よほど早いのじゃなかろうか。とはいえ、それをしたのならあっけなく完敗してしまうだろうから、敵に塩を送るような真似はしないけれど。
     モブはもう一度ため息をこぼして、それからゆっくりと腰をあげる。
    「ちょっと、待っていてください」
     そう告げて、寝室へ足を運んだ。
     今年は絶対に勝ってやる。
     そんな意気込みから予め用意しておいた最終兵器を、クローゼットの中にこっそり仕舞っておいたからだ。見つからないよう、自分のスーツで隠しておいたそれを後ろ手に持ち、モブは再びリビングへと戻る。
    「お待たせしました」
     ついで霊幻の前まで行き、片膝を床につけた。じっ、とまっすぐに見つめ、そして、
    「霊幻師匠、僕と結婚してください」
     そして、寝室から持ってきた花束を、霊幻の前に差し出す。
    「…………は」
    「僕が何度だって、師匠のことを幸せにしますから」
     それは、四年前に行ったプロポーズの再現だ。
     四年前、モブは仕事終わりに大きな花束を買った。できるだけ豪華にしてくださいと頼みこみ、中学生の頃に買った花束よりも、今度こそ本来の金額を支払った。相談所までの階段を、一段一段と踏みしめて、やや震える手でドアを開けた。
    「おま、なに」
     当時と同じく、今の霊幻の表情もまた、徐々に赤色へ染まっていく。
    「へへ、勝った」
    「ず、ずるいだろ……そんな、小道具」
    「今回のはさすがに、造花ですけどね」
     なにせクローゼットの中に仕舞う以上、生花を隠す訳にはいかない。ボリュームだって、不足気味だ。けれど霊幻に対する気持ちだけは、あの時と同じくらいに込められている。
    「それで、プロポーズの返事は」
     そう促すと、霊幻の瞳がうろうろさまよった。言わなきゃだめ? と問われて、勿論、深く頷く。
    「…………」
    はあ、と、ひと息こぼされたあとに、
    「…………わかった。いいよ、結婚しよう」
     それも、四年前の再現だ。
     モブは嬉しくなって、霊幻の手をそっととる。何度か軽い口づけを落とし、それから顔をのぞき込んで、感想を伝えた。
    「何回やっても、いいものですね」
    「……一回でいいだろ、こんな」
     テレビの中では、除夜の鐘がごーん、ごーんと音を立てている。大勢の参拝客を映し出す賑やかな光景に、けれどモブは、電源のスイッチを押して遮断した。
    「師匠、ベッドに行きましょう」
    「あと数分で年明けだぞ」
    「だってサービス、してくれるんでしょう」
    「…………しっかり効いてんじゃん」
     造花をテーブルの上に置き、腰に手を回して、霊幻が立ちあがるのを促す。一方の霊幻だってなにか言いたげにしつつも、結局は振り払ったりしないものだから、つまりはそういうことなのだ。
     そういえば除夜の鐘を最後まで聞かないと、この浮いた分の煩悩は、果たしてどうなるのだろう。
     なんて少し別件を考えながら、モブと霊幻の二人の影は、それでも寝室に向かい重なりあった。
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    humi0312

    DONE2236、社会人になって新生活を始めたモブくんが、師匠と通話する話。
    cp感薄めだけれどモブ霊のつもりで書いています。
    シテイシティさんのお題作品です。

    故郷は、
    遠くにありて思うもの『そっちはどうだ』
     スマートフォン越しの声が抽象的にしかなりようのない質問を投げかけて、茂夫はどう答えるか考える。
    「やること多くて寝るのが遅くなってるけど、元気ですよ。生活するのって、分かってたけど大変ですね」
     笑い声とともに、そうだろうと返って来る。疲労はあれ、精神的にはまだ余裕があることが、声から伝わったのだろう。
    『飯作ってる?』
    「ごはんとお味噌汁は作りましたよ。玉ねぎと卵で。主菜は買っちゃいますけど」
    『いいじゃん、十分。あとトマトくらい切れば』
    「トマトかあ」
    『葉野菜よりか保つからさ』
     仕事が研修期間のうちに生活に慣れるよう、一人暮らしの細々としたことを教えたのは、長らくそうであったように霊幻だった。利便性と防犯面を兼ね備えた物件の見極め方に始まり、コインランドリーの活用法、面倒にならない収納の仕方。食事と清潔さは体調に直結するからと、新鮮なレタスを茎から判別する方法、野菜をたくさん採るには汁物が手軽なこと、生ゴミを出すのだけは忘れないよう習慣づけること、部屋の掃除は適当でも水回りはきちんとすべきこと、交換が簡単なボックスシーツ、スーツの手入れについては物のついでに、実にまめまめしいことこの上ない。
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