狐に嫁入り 弍桜井市巻向に、御綱祭りという奇祭がある。
五穀豊穣、子孫繁栄を祈る神事で、決して荘厳なものではなく、田遊び祭りである。
毎年ではないが、人手が足りないときは、父と共に手伝いや片付けに来ていた。今年は声が掛かった。
雨彦はこの祭りが苦手である。
当日。如月らしい、寒々しい灰色の空の下。今日は空気が一際冷たい。
二十人は居るであろう、酒の入った男達に担がれた大きな「雄綱」が、「雌綱」の待つ神社へ向かう。
雄雌は藁でこさえられた巨大な性器であり、これを見ただけでも、年頃の少年はげんなりとしてしまう。
前々日も、出発地の神社近くの広い納屋で、地元民らに混じり父と共に雄綱作りを手伝った。
父には昔馴染もおり、来たときは周りと楽しげであるが、雨彦は、大勢で和気藹々と男根をこさえるという状況に、無心を決め込み藁を纏めていた。
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