傍に ふいに目が覚める。窓から見える外は、まだ暗く少し冷える。時刻は、丑三つ時ぐらいだろう。変な時間に目が覚めてしまった。寝台で眠りについていたKKは上半身を起こすと、側においてあった蝋燭に火をつけた。眠気が戻ってくるまで、報告書を読もうと手に取る。小さい灯りを頼りに文字をなぞっていく。
「…………」
書物には、隣国の難民について記してある。数年ほど前に王が倒れ、新しい麒麟が産まれたばかりのはずだが、未だに王が見つからないと聞く。そのまた前の王から新しく王が即位するまで時間がかかり、随分と荒廃していたことを思い出した。あれほどまでに枯れた土地は、新しい王が即位したとしても、再生には時間がかかるだろう。
「暫くは近辺に出る妖魔や難民に忙しいな……」
例え、他国の民であろうと、救わないわけにはいかない。皆等しく命ある者なのだ。それにKKが何もしなくても、半身が政策を立てるだろう。
「ぅん……」
「よく寝てるな……」
寝台の軋む音と共に小さい声が聞こえ、隣に視線を移した。隣でぐっすりと眠っているのは、KKの半身である麒麟だ。漆黒の長い髪を白いシーツに散らし、夢の中に落ちている。
「ふはっ、食いしん坊め」
ゆっくりと頭を撫でる。絹のように美しい髪を掬い上げると、指からすり抜けていく。食べ物の夢でも見ているのか、幸せそうな表情を浮かべながらモゴモゴと口元が動いている。
「暁人……」
かつてKKは州候として、仙へと席を置いていた。突如現れた黒麒麟である暁人によって、王へと差し上げられてから、もう三百年余り経つ。王となってから様々なことがあったが、官に恵まれなんとかここまでやってこれている。即位直後は冷たく言い放つ様が、官から不満を買っていたという。上手くいっていたのは、人当たりのよい暁人が補助してくれたおかげであった。争いを好まない優しい麒麟は人懐っこい性格で、味方を増やしていったようだ。気付くと周囲の官たちは、暁人の「不器用なだけだから」と言う言葉を信じきっていた。
「ふっ――」
主上の為に走り回っていたであろう暁人の姿を想像し、ふいに笑みが溢れた。
「ぅうん、けーけぇー?」
「悪い、起こしたか」
「うぅん……、ねむれ、なぃの?」
夢から覚めた暁人が、目を擦り、舌っ足らずに問いかけてくる。身体は大きいというのに、子供にしか見えない。起き上がろうとする暁人の頭を撫で遮る。
「まだ夜だ、寝ろ」
「ぅん、けーけーもねよ……」
KKの優しい手つきに気持ちよさそうに目を閉じていく。この世でもっとも大事な半身。彼がいないともう生きてはいけない。傍で緩やかに眠りについた暁人の頬に手を添え、撫でる。
「そうだな、おやすみ」
「ぉやすみ……」
夢の中でも傍にいられるように。ゆっくりと目を閉じた。