「夏祭り?」
「近いうちに神社の方でお祭りがあって凛子さんに誘われたんだけどお兄ちゃんもどう?絵梨佳ちゃんも行くって」
「そっかー、夏だもんなぁ・・・」
家に遊びに来た麻里が提案してきた。
「麻人くんは?」
「その前に絵梨佳ちゃんのお父さんは?」
「あ、そっか・・・」
前に麻人と二人して、とんでもないことをしでかしたため、KKとの仲が余計に険悪になっているのだ。
「麻人とは仲いいけど、KKとは目があった瞬間ガチの殺し合いが始まりそうだし」
「ていうか浴衣は?私はお母さんのを着るけど」
「そもそも持ってなかった・・・」
「それよりも麻人くんのはどうするのさ!浴衣にするのか甚平にするのか私としては甚平を着てほしいけど!」
「一旦落ち着いて」
子供をとことん可愛がりたい親戚のような顔をした麻里が詰め寄ってくる。
「う~ん、じゃあ僕が買おうかな」
「えっ!?いやそれはダメだよ!!お兄ちゃんの口座が減る!!」
「そんな心配しないでよ」
「だって私に月の小遣いに✕✕万円もくれるから!」
「それは麻里の将来のためのお金だからね!?」
「私の将来のためなら私が使うべきだよね!?」
「なんでそこまで必死になってるんだよ!」
麻里の圧に負けて思わずツッコむ。
「とにかくお兄ちゃんが自分で出すなんてダメだからね!?」
「じゃあ一緒に買いに行く?」
「うん、そうしよう!」
「ところで麻人くんは?」
「KKと一緒に長野まで行ってる、今日中に帰ってくると思うけど」
「じゃあ明日に買い物で!」
「ええぇ・・・」
後日、麻人が麻里に振り回されてダウンのは別の話。
****
当日、待ち合わせ場所の神社の鳥居の前には、すでに麻里と絵梨佳ちゃんと凛子さんがいた。僕は麻人を抱えた状態でKKと共にやってきた。
「お兄ちゃん!」
「着付けに時間かかっちゃって」
「女体化してなくてよかった、じゃなかったらおっぱいちょん切ってたかも」
「麻里!?」
死んだ魚の目をした麻里が物騒なことを言いながら近づいてくる。
「ほら、早く行こうぜ」
「うん」
KKの手を取り歩き出した僕の後ろを三人がついてくる形になる。
「麻人くん可愛いねぇ!」
「ん?」
抱えられていた麻人が麻里の声に反応して振り返る。
「ー!可愛い!」
麻里が発狂するのと同時にスマホからシャッター音が連続して聞こえる。
「完全に麻里が親戚の子を可愛いがる叔母さんにしか見えねぇ」
「うちの甥っ子超可愛かろ?」
「結構前まで麻人の行動に引いていたのに」
「慣れってやつじゃねぇのか?」
「そうかな・・・」
「あれたべたい!」
「本当に可愛すぎて生きるのが辛すぎるんだけど」
「分かるよその気持ち」
「二人の気持ちはよく分かる」
「私も同意」
麻人の行動に麻里と絵梨佳ちゃんが二人して悶絶している横で凛子さんとKKが同意していた。僕も同意である。
「お小遣いあげるから好きに食べてきていいぞ」
「やったー!」
KKの言葉を聞いた麻人は僕から離れると両手を挙げて喜びながら屋台へと走っていった。おいなにちゃっかり1万円札持たせてるんだ。
「はぁ~もう無理尊い・・・」
「麻人くんがぬいぐるみ引き裂いたり虫食べたりしても今更どうでもよすぎる」
「とりあえず可愛い姿がこの目に納まればいいのだ」
「甥っ子のカワイイオブザイヤー金賞確定」
二人が溶けた顔で麻人に夢中になっている。
「完全に麻人に夢中になってるわね、結構前まで感情が表に出なくて扱いが難しかったのに・・・」
「なんでしょうね~前に麻人が少しだけ姿を消したときがあったんですけど」
「おい初耳だぞそれ!」
「いやねいなくなってから3時間くらい経ったときに見つけたから気にしてなかったけど泥だらけで裸足で帰ってきたからあの時は本当に心配して部屋に鍵付けて閉じ込めようかと思ったけど」
「監禁しそうな勢いだったの!?」
「それで、その時の麻人がすごく可愛かったんですよ、何があったのか聞いても「なんでもない」の一点張りで結局何も教えてくれなかったけど。それから麻人が子供っぽくなったんですよね」
「神隠しにでもあったのか?」
「どうだろうね~」
「このあめすんごくおいしい!」
「「あぁこの世の全てに感謝を捧げてもマジ無理生きるのが辛すぎるっぽ」」
「お前ら大丈夫か?」
二人が麻人の可愛さで完全に壊れていた。