「あ、あがっ・・・あ、あ・・・」
一瞬、何が起きたのか分からなかったが突然麻人が痙攣し泡を吹いて倒れ、部屋中を埋め尽くしていた穢れがなくなっていた。
「あーあ、来ちまったか」
「来たって何がだ?」
「あいつだよ」
もう一人の俺が指差したのは全身黒づくめのスーツに、装飾のついたサングラスを掛け、煙管を片手に紫煙を漂わせている青年だった。倒れている麻人を近づくと、人差し指でツンツンし始めた。
「・・・気絶してるな」
「お前が来なかったら危うくこっちの俺も死にかけてたんだよ」
「まあ、麻人が『力』を使ってくれたから居場所が分かったけどね。被害は?」
「こっちの絵梨佳と凛子。絵梨佳の方は完全に入られた、今は眠らしているが」
「じゃあ祓えば終わりってことか」
「こいつの中にまだ残ってるが、今なら引き出せるかもしれないから手伝って」
「いいよ」
「待て!」
「ん?」
絵梨佳の首筋に手を当てて何かを確認していた男がこちらを振り向いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!その前に説明してくれないか?一体どうなってんだ!?」
「は?お前には関係の無いことだ」
「いやいや、なんでもう一人の俺がここにいるのかって」
「ああ、そういえばそうだな。でも、そんなことはどうだっていいじゃない」
青年はおもむろにサングラスを外すと俺の目の前で指を鳴らした。すると俺の意識が急に遠くなり始めた。
「じゃあ後はよろしく頼むよ」
そして俺は深い眠りについた。
****
「起きて!」
「うわっ!」
目が覚めるとそこは団地にある凛子の部屋だった。声の主は凛子だ。
「お、俺は?」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
絵梨佳に心配されながら起こされる。身体が重く、頭痛がする。
「俺何してたんだ?」
「KKも覚えてないの?」
「覚えてないってお前らもか?」
「うん、私たちも」
「ここ一週間の記憶が完全に抜けた感じがするの」
何をしたか思い出そうとしても靄がかかった状態で思い出せない。
「とにかくみんな無事で良かった」
「本当にごめんなさい」
「私のせいで」
「気にすんなよ、終わったことだし」
「ありがとう」
****
アジトに来てみると特に変わった様子はなかったがエドもデイルも完全に記憶が抜けていた。
「何か覚えていることは?」
《強いて言うなら変な格好したセールスがやって来てこれを売ってきたよ》
エドが差し出した箱には『悪鬼退散』と書かれたお守りが5個入っていた。
《デイルが押しに負けて即決してしまって》
「なにしてんだおい」
《価格は500円だ》
「やっすいなおい!」
こんだけ安いとインチキなんじゃないかと思うがお守りを手に取った瞬間、身体中の血流が激しくなったような感覚に陥った。
《どうしたんだ?》
「いや、それよりも」
時計を見るともう6時を過ぎていた。
「俺の奢りで皆でラーメン食べるか?」
スマホのアラーム音で目を覚ます。いつもより身体が重く感じる。ここ最近の記憶が思い出せず、モヤモヤとした状態で身体を起こす。妹の分の朝食まで作り、大学に行く準備をする。
「あれ?こんなの買ったっけ?」
いつも着けているポーチに知らないお守りがあった。『悪鬼退散』と書かれたそれは、何かを持っているように感じた。
「いっか」
家を出ると、大学に向かう。
「あっごめんなさい」
途中で人にぶつかってしまい、謝ると相手は見覚えのある人物だった。紺のコートを着た男はこちらをじっと見つめてきた。
「お前、名前は?」
聞き覚えのある声で名前を聞かれた。
「伊月暁人です」
「・・・そうか、俺はKKだ」
何故か懐かしさを感じた。