秋のサンタ小さい頃、サンタさんと話したことがある。
あの当時、僕は新築アパートの2階で母と二人で暮らしていて、その下にある小さな整骨院が母の仕事場だった。
物心ついた時から父はいなかった。母にそのことを尋ねても、決まって悲しそうな顔をするだけで、父のことは何も教えてくれなかった。
たまに遊びにくる親戚の夏ちゃんや門倉のおじちゃんに聞いても、みんな苦い顔をするだけで教えてはくれなかった。僕は幼心にきっと父が母に何か悪いことをしたんだと思って、父のことを詮索するのをやめ考えないようにしていた。
母と二人きりの生活だったが、僕は少しも寂しくなかった。家にはよく牛山のおじちゃんやキラウシ兄ちゃんがお土産を持って遊びにきてくれたし、すぐ下の母の仕事場によく遊びに行っては母や従業員のおじちゃんたちに宿題を見てもらったりしていた。店が閉まる時間までそこにいて、母と一緒に家に帰るのが僕は好きだった。目の見えない母の手を引いて一緒に階段を上がる。母の手は少しカサカサしているけどあったかくて、ぎゅっと力を込めると母もぎゅっと握り返してくれる。階段を登って部屋の前まで先導すると母はいつも「ありがとなぁ」と言って僕の頭を撫でてくれる。僕は母のこの笑顔が大好きだった。家に入って母が作る夕飯(と言っても大体はキラウシ兄ちゃんが作り置きしてくれた惣菜だったり永倉のお爺ちゃんがくれた高そうなレトルト食品だったけど)を食べながら、僕は今日学校であったことを話し、母はそれにうんうんと頷く。それから一緒に洗い物をしてお風呂に入る。僕の家にはテレビがなかったから、母が流すラジオを聴きながら学校の図書館で借りてきた本を読むのが日課だった。そんな平和で穏やかな生活に僕は満足していた。
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