彼とチョコレート 乱凪砂 最近忙しい彼に何かしてあげられることはないかなと思い、少し高級なチョコレートを買ってあげることにした。
デパートへ赴き、キラキラと宝石のように輝くチョコレートのショーケースを前にして私の胸は弾む。上品な色の包装紙に真っ赤なリボンが施されていて、満足しながらデパートを出た。彼がどんな反応をするのか楽しみだ。
夜ご飯を食べ終わった彼に例のチョコを渡す。すると、パァッと音がするかのように喜んでいて、目をキラキラと輝かせながら食べていた。疲れも少しはとれたかな?と思い私も嬉しい。
「君は食べないの?」
「私は良いよ。凪砂くんのために買ったものだから」
やんわりと断ると彼は少しの間黙ってしまう。悲しませちゃったかなと思い、話しかけようとすると口の中にいきなりチョコ入れられて驚く。
「美味しいから、君と共有したかった」
やられた。でも悪戯に笑う彼が可愛くて、幸せを感じながらありがとうと伝える。
「美味しい?」
微笑みながら尋ねる彼は何だか楽しそうで、嬉しい。
片付けようとすると不意に名前を呼ばれる。返事をしようとしたら顔が近づいてきて軽くキスを落とされた。チョコレートが仄かに香る甘いキスだ。
「い、いきなり、どうしたの?」
「共に食べることができて嬉しかったから。……いつもありがとう」
微笑んだ彼を見て私の心も満たされる。チョコレートよりは私で疲れを癒してくれたみたいで、彼女冥利に尽きる。愛されてるなという気持ちになり、だらしなくなる顔を抑えられない。
「どうかしたの?」
「何でもないよ。私もキス、していい?」
何も言わずに微笑む彼を同意と捉える。彼の胸板に手を当てて、彼の身長に合わせるために背伸びをして、ちゅっと軽くキスをすれば満たされた顔をしてくれる。
恥ずかしくて彼の目を見れないが、そのまま彼の腕の中に入り「好き」と零せば、「好き」と返される。優しく包み込んでくれる彼に、私の疲れた心も体もチョコレートのように溶けていった。