君に悪戯 乱凪砂「Trick or Treat」
「わっ、びっくりした」
「ふふ、茨に『元気よく』って言われたから、やってみた」
「楽しそうで何よりだよ」
廊下でたまたま私を見つけたのか凪砂くんが突然ハロウィンの文言を告げてきた。微笑み会っていると突然静かになった凪砂くんが口を開いた。
「……お菓子はあるの?」
「え?」
「たしかお菓子をくれないと悪戯をするんだよね」
「そうだったね。でも今は持ってないから事務所に戻ったらでもいい?」
「ダメ」
「え、ダメなの?」
「……うん、ダメ」
「何するつもり……?」
もう既に決めていたのか、凪砂くんが少しずつ近づく。私の手を取ったかと思えば、嬉しそうに繋いできた。
「……少しだけ、このまま」
誰かに見られたらどうするの?と思ったが、いつも周りを気にして手を繋がずにいた私は罪悪感を感じていたので「少しだけなら」と言い手を繋ぎながら歩いた。
エレベーターを待っている間も頑なに手を離そうとしない彼に「そろそろ離して?」と言っても「嫌、これは悪戯だから」と返されて何も言えなくなる。そういえばそうだった。
エレベーターに乗ってからもずっと手を離さずにいるので訴えるように顔を見つめていると離してくれた。意外とあっさり離したなぁなんて考えていると、突然引き寄せられ、彼の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「ちょっと! 誰か乗ってきたらどうするの!」
「ふふ、これが本当の悪戯だよ」
耳元で楽しそうに笑う彼を感じると敵わないなと思い、抱きしめ返した。