特別な日には特別なキスを 乱凪砂「ねえ、凪砂くん」
不意に名前を呼ばれてハテナマークを浮かべる彼の胸元に手をあてて、つま先立ちをして顔を近づけた。すぐに意味に気づいたのか、私がバランスを崩さないように腰に手を当てて引き寄せてくれる。
しばらくの間、琥珀色の瞳を見つめているとクラクラとした感覚に陥る。いつもはこの艷やかで透き通っている彼の瞳に引き込まれて負けてしまうが、今日は私がリードしなくてはいけない。
「よし」と心の中で決断した私は、瞼を閉じてゆっくりと彼に近づく。彼との距離がなくなると、私はゆっくりと瞼を開けて彼の顔を見ていた。すると、気づいたのか彼も瞼を開けてパチリと目が合った。
時が止まったかのように長く、時計のカチカチという音すら私たちの耳には入らなかった。それほどまでに二人の、二人だけの時間だった。
「……今日は、君からしてくれるんだね」
そう言いながら微笑む彼は、とても満足そうで幸せそうな表情をしていた。
「特別な日だからね」
「私のため?」
「うん」
「……じゃあ、もっとしてほしいな。キス」
特別な日だからと続けた彼は、頬を染めてはにかみを見せた。彼は恋愛になるとわかりやすい表情をする。心の底から愛されていると感じて、自然と口角が上がっていた。
「……してくれないの?」
そんな私を見た彼は、不満そうにそれでいて甘えるようにキスを待っていた。
「ごめんね、幸せだなって思ってたの」
彼の首に手を回して啄むようなキスをすれば、幸せをまた一つ感じて微笑んだ。彼もまた私の表情を見て、幸せそうに優しく笑っていた。