不意打ちの悪戯 乱凪砂 私がハンドクリームを塗っていると、彼が真剣な眼差しで私を見つめていた。
「どうかした?」
「……そのハンドクリーム」
「あ、そう! 新しく買ったの。いつもとは香りが違うんだよね。凪砂くんも塗ってみる?」
「……いや、私は良いんだ。どんな香りなの?」
嗅ぎたいのかな、そう思った私は彼に容器を渡そうとするが、伸ばした手はあっけなく掴まれる。手を掴まれた理由がわからないでいると、彼の顔が静かに私の手の甲に近づいてスンッと香りを嗅いだ。
驚いて反射的に手を引っ込めようとするが、手を掴まれているため意味をなさない。ビクッとしたのに気づいたのか、ふふっと悪戯っぽく笑い、長いまつ毛を伏せながら私の甲に軽くキスを落とした。
「すべすべ、だね」
なんて呑気なことを言っているが、私の心臓は騒がしく鼓動を打っていた。
「凪砂くんのせいで眠れなくなった」
「……どうして?」
「何でもない!」
顔を赤らめていることに気づかれたくなくて素早く布団をかぶる。すると、彼が静かに明かりを消して「おやすみ」と優しく言ってくれた。
彼も布団に入ってきたら、二人だけの世界だ。布団で隠していたはずの顔は呆気なく見られてしまう。彼が私の表情を見るなり目を丸くして笑う。
「ふふ。君の顔、真っ赤だね」
優しく頬を撫でられ、益々顔が赤くなるのがわかる。恥ずかしくて何も言えない私は、彼の胸元に頭を預けることしかできなかった。