君のことを考えると 乱凪砂 街に浮ついた空気が漂うクリスマスの日。今日は仕事終わりに凪砂くんと待ち合わせをする──はずだった。
今日は早めに終わる予定だったので仕事が終わったらすぐ待ち合わせをしていたのに、予想外の仕事が入ってしまい待ち合わせ時刻に間に合いそうにない。
彼に「ごめんね、急にお仕事入ったから遅れる」と送ったら「わかった」それだけ返ってきて、申し訳ない気持ちと何も言わないんだなぁと少し寂しい気持ちが混ざる。
彼に寂しい思いをさせて、特別な日に待たせているのは私なのにそんなことを思う自分が情けない。「先に家に帰ってても大丈夫だからね、無理しないで」私はそれだけ伝えてスマホを手放した。
仕事を終わらせてすぐに「今からすぐに向かうね」と送ると「うん」と一言返ってくる。まだいることがわかるとすぐさまビルを飛び出した。
雪がしんしんと降る街にはカップルで溢れていて、待ち合わせ場所にそこを選んだ私を恨む。ここに一人で長い間待っていたとしたら、本当に彼に申し訳ないことをした。人混みを縫いながら急ぎ足で待ち合わせ場所に着くと、彼の姿がどこにも見当たらない。
あたりを見回しても人が多くて見つけることができない。そんな時スマホの通知音が鳴った。そこには「お疲れさま」の一言がある。その表示を見ていると後ろから温もりを感じた。
「メリークリスマス」
そう耳元で囁いたのは、彼だった。
「びっ、くりした。ごめんね、長い間待たせて」
「……いいんだ」
いつも以上に淡白な言葉を発する凪砂くんに少し困惑しつつ様子を伺う。
「怒ってる、よね?」
「どうして?」
「一人で待たせたから。寒かったでしょう?」
そう言って手に触れるといつも温かい彼の手が冷え切っていた。思わず彼の顔を見ると鼻も頬も真っ赤だ。
「ごめんね……」
泣きそうな声でそう言うと、彼はふふっと白い息を吐きながら微笑む。
「ううん、君を待っている間楽しかった」
「え?」
「待つことはあまり好きではないと思っていたけれど。君を待つ間、君はどんな格好で、どんな表情で私に声をかけるだろうか。君と会ったら何を話そうか。君のことばかり考えていた。『恋は盲目』とよく言うけど、今の私にはわかるんだ。君のことを考えていると、私のことはどうだって良い」
彼がそんなことを考えていたなんて思いもよらずただただ彼の話に耳を傾ける。
「すぐに連絡をくれて、今はこうして走ってきてくれた。それだけで、私は幸せを感じることができるんだ」
彼がこうして長く私に対する思いを話すのは珍しいから今日が特別な日だと思ってくれているのかもしれない。それだけで胸がいっぱいになる。彼が一呼吸置いて真剣な表情になると、私も少し緊張してしまう。
「……メリークリスマス。来年も再来年も、こうして君を独り占めできたら、と思う。君の笑顔をこれからも私だけに見せてくれたら嬉しいな。君と共に残る全ての人生を過ごしたい」
彼は一つ一つの言葉を大切にする人だ。恥ずかしいほど直球な思いも本心から来るものだと思えるからこそ嬉しい。
「……どうかな?」
私がどう答えるかなんて分かり切っていることなのに、不安そうに眉を下げる彼を見ると愛しい気持ちになる。彼の頬に手を伸ばして優しく撫でながら自分の口角が上がるのを感じた。
「どうして、笑っているの?」
「ふふ、幸せだなって。私もずっと凪砂くんと一緒にいたい。これからもよろしくね」
「……うん」
二人でじっと見つめ合って思わず笑みが溢れる。何だか照れくさくなった私は彼の冷えた体を温めるようにぎゅっと抱きしめた。