信じて待ってて 頭にイソギンチャクを生やされ小間使いにされてしまったエース、デュース、グリムの解放を賭けて対決したり、オーバーブロット状態になったアズールを協力して助けたり、アトランティカ記念博物館に仲良く遠足に行ったり、といういざこざを経て、監督生はオクタヴィネルの三人と親しくなっていった。特に監督生はフロイドの隣に居心地の良さを覚え、フロイドも監督生が何より大切な存在となり、そのうちに二人は晴れて恋人同士となった。
NRCでのかけがえのない日々や、フロイド始め大切な人たちと出会えたことから、監督生はこのツイステッドワンダーランドで生きていくことを決めた。だが、どうしても拭いきれない不安がある。それは、自分の意思とは関係なくいつか元の世界に強制的に戻されてしまうのではないかというものだった。こちらの世界に来たときもそうだったのだから決してないとは言い切れないだろう。
不安に曇る監督生の顔に気付いてフロイドが理由を尋ねる。監督生は、フロイドにこの不安を打ち明けたとしてあっさり「諦めるしかない」と言われるのではないかと思うと怖かったが、だからといってうやむやにしておける問題でもないだろう。そこで勇気を出して震える声でフロイドに話をした。すると。
「あ〜〜、そしたらアレじゃん、『大遠距離恋愛』になんね。」
「だいえんきょりれんあい」という、予想とまったく違う上に今まで聞いたことのない言葉に監督生がきょとんとしていると、「だって」とフロイドが続けた。
「すっげー障害が立ちはだかるような普通と違う恋愛を『大恋愛』って言ったりするでしょ。それの遠距離恋愛版だから『大遠距離恋愛』。無理やり別の世界に引き離されるってかなりでっかい障害で、しかもだいぶ遠距離だしさぁ。…ていうか小エビちゃん大丈夫? なんか目ぇ見開いたまんまだけど。」
「あっ…その、フロイド先輩のことだから、そうなったら諦めるしかないねって、言われるんじゃないかと…思って…。」
つい監督生が本音をこぼした瞬間、フロイドが「はぁ!?」と驚きの声を上げた。
「小エビちゃんそんなふうに思ってたの!? ちょー心外なんだけど…。あのねぇ、俺は小エビちゃんを離す気も逃がす気も一生ねぇから。小エビちゃんはこれからもずっと俺のものなの。そこのとこよく覚えといて。」
「そんで」と言いながらフロイドが監督生の頬を両手で包む。
「もしそんなことが起こったときは、小エビちゃんは魔法使えなくて何もできないんだから、ただ俺のこと信じて待っててくれればいいよ。俺がぜってー迎えに行く。」
この力強く優しいフロイドの言葉に安堵し、監督生の瞳がわずかに潤んだ。
「っ、はいっ、待ってます、先輩のことずっと想いながら、待ってます…!」
監督生がふにゃりと笑うのを見てフロイドもにこぉと笑みを返した。しかしその手は離れず、そのまま監督生の両頬をぷにぃと引っ張る。先ほど監督生が「諦めるしかないと言われると思った」と口走ったことへのおしおきだ。
ぺちぺちとフロイドの手を叩きながら「いひゃいれすふろいろへんぱい!」と抗議する監督生を楽しげに見下ろしつつ、フロイドは思う。こんなに愛しい人を、たかが別世界に引き裂かれたくらいで簡単に手放すものかと。
こののち、残念ながら監督生の不安は現実のものとなり、強大な力によって為すすべなく元の世界に戻されてしまう。しかし、監督生はフロイドの言葉を信じて待ち続け、フロイドは努力と執念と仲間の助けによって無事に監督生を連れ戻す、という「大遠距離恋愛」を繰り広げて、めでたく二人はもう一度結ばれることになるのだった。