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『こんばんは。夕刊フィガロのコーナーです。本日もわたくし、スポーツ記者のエドガーより全国の素敵な鷲メイトのレディたちに向けてホットな―――』
『……いや。お前…ゴゴだろ』
『どうしたマッシュ。本番中だぞ。それでは早速本日の試合の結果を振り返ろう。
…とは言え振り返るのも辛い結果だ。今日も我らが鷲は負けた……これで五連敗だ。
連続タイムリー無しのイニングは辛くもストップしたものの、決してクリーンヒットではなく野生児ツヨシの全力疾走によりどうにか、どうにかもぎ取ったタイムリー…。手放しで喜んで良いものかどうか、難しいところだと思う』
『似てるんだよ。声も口調もかなり似てるよ兄貴に。でもゴゴお前、服装いつものまんまじゃねえか!全身マントとスカーフ!外見のものまね一切放棄しちまいやがって!
さっきから番組に問い合わせの電話とメールがガンガン来てるぞ!』
『試合後の監督は、主力の不振をかなり深刻に受け止めている様だったな。だが、時間は待ってはくれない!明後日からはパの優勝候補筆頭タカとの連戦だ。
主力の状態が上向くまで若手育成に舵を切るのか、中堅の噴気に期待するのか。早くも正念場を迎えている鷲から、まだまだ目が離せないぞ。
さてマッシュ、本日ご紹介の商品は…』
『無理無理無理、もう回線パンクしてて通販どこじゃねーわ。兄貴〜!生放送放り出してどこ行ったんだよ!この番組見てたら連絡してくれー!』
ぶいーん。ぶいーーーん……
「…いやあ…今日の敗戦は中々に堪えたなあ。初回からハヤカワ投手が被本塁打二本…打線は相変わらず併殺ばかり……そろそろチーム得点数と併殺数が並びそうだなどと嗤われている始末だよ。いつになったら夕刊フィガロで勝利のニュースをお届けできるんだろう…」
「あのう、もし…」
「やあ、これは素敵なレディ。すまないが私はいま傷心のプライベート中なのだ、サインや写真は申し訳ないけれどもね…」
「ああ、やっぱりエドガーさん!いつも番組見てます!それ…いまお使いのそれって昨晩紹介されていた、万能多機能型回転のこぎりよね?わあすごい、本物…!」
「……いかにも、その通りだよ。我らがフィガロモーターズの誇る新商品さ」
「実物で見ると本当に良い品物ね。私も昨日注文したかったのだけれど、セッツァーに反対されてしまって…」
「セッツァー…男性か。君の彼氏なのかな」
「えっ…ええと。彼氏…?うーん、…ごめんなさい。そういうことは、よく分からなくて。でも鷲の試合はいつもテレビや球場で一緒に見ているのよ。その流れで、夕刊フィガロも毎晩楽しみに見ているの」
「なるほどね…。君の様な可憐なレディと観戦できるとは、セッツァーという人は幸せ者だな。今は一緒じゃないのかい」
「今は……ああ、あの辺り。ラーメンまつりで散々しているわ。負け試合の憂さ晴らしですって」
「あの銀髪の彼か。確かに凄まじい勢いで食べまくってるな…」
「…あなたも憂さ晴らしに?」
「私かい?」
「そうよ!本当ならこの時間は夕刊フィガロの生放送でしょう?」
「…そうだな。私も彼と同じだよ。番組は替え玉を立ててね。それで、負け試合の憂さ晴らしにこの球場周りの植え込みの手入れをしに来たのだ……」
「凄いわ。あなたが歩いた通りに植え込みが綺麗に切り揃えられてる…やっぱりフィガロモーターズさんの商品は凄いのね!」
「……あ、ああ」
「私もね、やっぱり落ち込んでいたの。ビハインドの試合展開で、挙句にリリーフのニシガキ投手は危険球退場になってしまって。お相手のトングウ選手は意識ははっきりしているとのことだったけど、何か呪われてるのかしらっていうくらい見ていて辛い試合だったわ。
だけどあなたの回転のこぎり捌きを見られて、なんだか気持ちがすっきりしちゃった。…うん。やっぱり私、この商品が欲しい。明日フィガロモーターズさんに注文してみるわ!」
「………。じゃあ、これ…よかったら差し上げるよ。今日おろしたばかりだから、ほぼ新品だからね」
「えっ!?そ、それなら…お代をお支払いするわ、買わせてください!」
「お代なら……今夜君に出会えた、それだけで十分だよ」
「そんな…」
「いや、本当に良いんだ。
何故だろう、さっきまで胸の中が荒み切っていたのに、君と話していたらスッと楽になった様だ。番組抜け出してきた甲斐があったというものだ…これも運命だね」
「…エドガーさん。ありがとう…大切に使わせて頂くわ」
「負け試合でも、球場に来れば何かしら良いことがある。これからもそうあってほしいね。
……名前を教えて頂けるかな、素敵なレディ」
「私、名前は…ティナ。お会いできてよかった、エドガーさん」
「エドガーで良いよ。…また会えるといいな」
連敗中の時こそ、いつも心に楽しみを!!