4/16 E3-H6「ねえラスラ。映画やドラマやなんかで良くあるわよね。凄腕ガンマンの主人公の射撃は百発百中だけれど、敵の弾丸は雨あられと撃たれても主人公には一向に当たらないの」
「ああ…あるあるだね。たまーに主人公の二の腕を掠めたりするけど、幾ら撃ちまくられても致命傷に至ることはまずない」
「今日の私たちは、まるっきりその逆よ。逆!
どうして向こうはワンチャンスで点が取れるのにこっちには点が入らないの?
こっちは再三ランナーを出すのにどうして点が入らないの!?向こうがミスしてチャンスくれてるのに完全無視の無得点よ。今日もまた併殺よ!残塁よ!いい加減にして頂戴!!」
「アーシェ、少し声を抑えて…ね、周りの皆さんも大体同じこと思ってるから。また明後日も試合はあるんだ、今度こそ勝てるよ」
「勝っていたじゃない…キシ投手が通算2000奪三振達成された時にはもうリードしていて…しかもアサムラ選手がタイムリー打てたじゃない?少しは打撃の不調を抜け出せたかもしれない、あとは守り切るだけって思ったじゃない…!
どうして!?どうしてあそこでエラーしてしまったの、8回のフランコ選手!どうしてそこで一気に動揺してしまったのニシグチ投手…!!
あのワンエラーで一気だったわ!勝っていたのに!勝てたのに!もう悪夢よ〜〜ッ!!」
「うーーん……たしかに思い出すのも辛いね。けれど、やっぱり君も言う通り再三のチャンスをフイにしたツケが回ってきた気がしたよ。
やっぱりタカのように強いチームはそこを見逃してくれない。一昨日こちらが勝てたのはマー君の気迫と、守備に回った野手陣が最後まで集中力を切らさなかったからだ。
今日は綻びがあったね…攻撃にも守備にもね。ミスを多くした方が負ける、その通りだよ。
だけど…」
▽
「―――でもよかった。キシ投手、前回登板ではあっという間に大量失点して降板してしまったけれど、今日は投球もフィールディングも素晴らしかったわ。通算150勝はまた次回必ず達成できる気がする。
7回にリリーフのソラ投手も見事だったし、タツミ選手とオカジマ選手の素晴らしい守備も見られた…
負けたのは残念だったけど、球場に来て良かった。ありがとうセッツァー」
「おお。フミヤ抹消の傷心からは立ち直ったみたいだな、良かった良かった。後はシマウチだなー。アイツが復活しねえことには打撃陣も波には乗れねえぞ」
「火曜日からはビジターだものね。京セラで何か掴んでくれたら良いな―――」
▽
「…ねえラスラ。さっきすれ違ったあのポニーテールの子…私とそんなに歳が変わらないと思うけど、随分冷静だったわね…」
「負け試合だからこそ良い所を探すのは良い習慣だと思うよ。悪いことばかり考えるとキリがないからね」
「なんだか、バッシュにも同じこと言われそう。うーん、直ぐに真似できる気はしないけれど、私も少し見習ってみようかしらね…。イライラすると美容にも悪いわ」
「あはは。そうだアーシェ、美容と言うなら帰る前に寄り道しようか。君が気にしていたハンドクリームのお店にでも」
「あら、良いの?私の気になっている品物は一つや二つじゃないのよ」
「お任せあれ。
それじゃあ、行こうか」
『こんばんは。夕刊フィガロのお時間です―――』
愚痴って凹んで落ち込んだ分、気合を入れて気晴らしを!