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    冷や酒🍶

    @hiyazakeumai

    カヲシンとか書いてる

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    冷や酒🍶

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    短編のはずなんですけど

    #偽装婚
    shamMarriage

    偽装婚カヲシン②当然そんな相手は存在しない。すぐに偽の婚約者を探そうと考えたが、そんなに簡単に見つかるわけがなかった。理由は簡単。彼がお金持ちの美男子だったから。
    一目見れば記憶に刻まれる類稀な美貌に、本気にならない者はいない。きちんと条件を提示しても同じだった。本当に結婚するつもりはない彼にとって、本気で結婚を迫る婚約者など必要なかった。
    必要なのは彼に惚れず大人しく報酬を受け取って、用が済めばすぐに別れてくれる偽の婚約者。それが女でも男でも構わない。歳が離れていようとも。行き詰まり、いよいよ追い込まれた彼がとった行動の結果が今の状況だ。
    だからって家出少年を偽の婚約者にするとか、すっごく変。確かに僕は帰る場所がなくて、お金にも、彼自身にも今の所興味はないかもしれないけど。
    「僕が婚約者とか、絶対バレると思います」
    「そんなことはないよ。祖父との顔合わせは一瞬で済ませるし。君は黙って僕の隣で笑ってくれていればいい」
    笑っているだけでいいなんて無理に決まってる。彼のお祖父さんに質問されたら答えない訳にはいかないだろうし。目の前の男性のようにポーカーフェイスを保てる気がしない。だって、結局は人を騙すわけだから。
    「……僕、自信ないです」
    「もう、君にしか頼めないんだ」
    「でも……失敗したら……?」
    簡単に言ってくれるけれど、騙したことがバレて責められたらと思うと頷けない。悩んで、悩んで、僕は汗で湿った両手をぎゅっと握りしめた。ダメ押しのように彼が言う。
    「もし失敗したとしても君に責任はない。全て僕の責任だ。君のことは僕が守るよ」
    「…………」
    断っても良いって言ってくれた。でもすごく断りづらい。彼の表情から本気で困っている様子が伝わってくる。
    一応、親切にも手を差し伸べてくれた相手なのだから出来れば助けになりたいという気持ちはあった。……断るのは無理そう。それでもと、目を逸らしながら確認するとすぐに返答がある。
    「……本当に、失敗しても……怒らない?」
    「怒らないよ。信用出来ないなら誓約書を書いてもいい」
    「そ、そこまでしなくてもいいです……」
    「そうかい?」
    完全に信用した訳じゃないけど、話してみてそこまで慎重にならなくても大丈夫かなとは思った。お互いに事情があって、助け合えるなら良いのかも。
    けれど、一つ気に掛ることがある。僕が家出中の未成年で、それを匿ったという理由で彼に迷惑がかかるかもしれないということ。探されてるかもわからないし、もちろん見つかる前に逃げようとは思うけど。
    彼が誘拐犯にでも仕立て上げられでもしたら……。いくら違うと言っても、子供の言うことなんて信じてくれないかもしれない。
    「結婚の話は、頑張ろうと思います。でも、今さらかもしれないですけど、僕を匿うことであなたに迷惑がかかるかもしれなくて……。その時は僕が悪いんだってちゃんと説明しますけど」
    「心配しなくても良いよ。そのリスクについては初めから覚悟しているからね」
    「誘拐犯にされるかもしれないのに?」
    「僕は誘拐はしていないし。その時は、君が証言してくれるんだろう?」
    それはもちろん、と頷くと彼は穏やかに微笑んだ。恩を仇で返すなんて、そんなことしたくない。
    「それに、もう時間がない。二日後にドイツから祖父がやってくることになっていてね。これが最後のチャンスなんだ」
    「え、二日後ですか!?」
    「そう、二日後に君を連れて祖父に会うことになる。でも大丈夫さ、上手くいくからね」
    どうしてそんなに自信満々なんだろう。二日後に本番だなんて、僕はまだ彼の名前も、歳も知らないのに。何も知らないのに、偽物の婚約者役なんて出来るわけないよ。
    「……あの、あなたの名前を教えてくれませんか?」
    「……そうだったね。大切な話をしているのに自己紹介もまだだった。僕はカヲル。渚カヲルだよ」
    「渚、カヲルさん……」
    名は体を表す、みたいに綺麗な響きの名前だなと思った。
    「カヲルでいいよ。君は僕の婚約者だからね。歳は二十九歳、さっきも話した通り会社経営をしているよ。君のことも教えてくれるかい?」
    二十九歳と聞いて内心驚いた。僕よりも十五歳も上だなんて思わなくて。確かに渚さんは大人って感じだけど、顔がとても整っているから年齢が想像しにくい。
    「えっと、僕は碇シンジです。歳は十四歳です」
    「中学生なんだね。……若いな」
    僕もそう思う。あまりにも差があり過ぎて絶対に怪しまれるだろう。だって、二十九歳と十四歳なんて接点がなさすぎる。こんなので彼の祖父を騙せるもんか。
    「渚さん、やっぱり無理があるんじゃ……」
    「そんなことはないよ。歳の差なんて恋愛においては些細なことだと言うし。僕が君に一目惚れして声を掛けたとしても有り得ない話じゃない」
    「信じてくれるかなぁ……」
    「信じさせてみせるよ。……そうだ、お腹が空いただろう? 夕飯にしよう」
    「…………はい」
    そう言って渚さんはソファーから立ち上がった。どうしても中断はしないらしい。もう他の相手を探してる余裕がないって言ってたからだろうけど。僕なんかが婚約者になったって上手くいく気がしない。だけどもう断れる雰囲気じゃなかった。
    キッチンに向かう渚さんの背中を追いかけながら、小さく息を吐く。僕が足を引っ張って失敗する所を想像するだけで気分が重くなっていくみたい。どうしてこんなことになっちゃったんだ。
    「シンジ君」
    「……!」
    床を見つめて動かなくなった僕の手を渚さんが掴んだ。大きな手が優しく包み込むみたいに握りしめてくる。他人とのスキンシップに慣れていなかった僕は、自分でも驚くくらいにビクッと身体を跳ねさせてしまった。それでも僕よりも少し体温の低いその手は離れていかなかった。視線を上げると渚さんが僕を見ている。
    「あ……えっと……」
    「こちらにおいで」
    重ねた手をぎゅっと握られて、ドキッと心臓が跳ねる。ドキドキし始めたのは緊張しているからなのかな。大きな手に導かれるようにして僕はキッチンにある冷蔵庫の前に連れてこられた。冷蔵庫を開けて、渚さんが振り向く。
    「この中に食べたいものはあるかな? なければデリバリーを頼むけれど」
    冷蔵庫の中にはおかずが入ったタッパーが綺麗に並べられていた。全部温めればすぐ食べられるようになっている。渚さんが作ったのかな、と思ったけれどあまり使われてなさそうなキッチンが視界の端に見えた。
    「渚さんって料理得意なんですか?」
    「いいや、家政婦の人に作り置きしてもらっているんだ」
    「家政婦さん……」
    「他に掃除と洗濯もやってもらってるよ。恥ずかしながら、自分で家のことをする余裕がなくてね」
    普通の一般家庭ではあまり聞かない単語だ。このマンション高そうだし、渚さんはお金持ちで独り身だからそういう便利さに頼るのはおかしなことじゃない。でも勿体ないような気もする。
    それこそ叔父宅で家政婦のような生活をしていた僕からすれば、この家は広いけれど物がないから掃除は簡単だし、一人分の洗濯だってそれほど手間じゃないと思ってしまう。他人の生活スタイルに口を出すなんてことはしないけど。
    「どうだろう? 味はそれなりに保証するよ」
    「えっと、じゃあ……」
    僕が目に止まったおかずのタッパーを指さすと、渚さんが取ってくれた。それに加えてもう二つ手に取ってキッチンの電子レンジに入れる。渚さんが食事の支度をしてくれているのに、ぼーっと突っ立っているのは落ち着かない。でも勝手が分からないから困ってしまう。
    「……あの、僕も、手伝います」
    レンジを眺めている渚さんに勇気を出して話しかけてみる。何もしなくていいと言われるかもと思ったけれど、渚さんはやんわりと微笑みを返してくれた。
    「本当かい? なら、ご飯を装ってもらおうかな」
    嬉しそうにお茶碗としゃもじを渡された僕は炊飯器を開けてご飯を装う。大きなお茶碗は渚さんの。普通の大きさのお茶碗が僕のだ。
    彼みたいに大きくなるにはこれくらい食べないといけないのかな、と普通に装ったはずなのに大盛りになったお茶碗を見て思った。
    キッチン横のテーブルにお茶碗を並べていると、後ろから温め終わったタッパーを持った渚さんがやってくる。そう言えばタッパーの中身、ちゃんと見てなかったな。
    テーブルに置かれたおかずを見ると、野菜炒めとぶり大根、そしてハンバーグの三種類だった。好物のハンバーグにちょっとだけ嬉しくなる。叔父の家では料理もさせられてたけど、自分の好物なんてなかなか食べさせてもらえなかったし。
    渚さんがお茶を用意してくれて、静かな夕食が始まった。会話らしい会話もなく、黙々とご飯を食べる。テレビをつけていないから音がないのだ。
    渚さんの言葉の通りおかずは美味しかったけど、ちょっと塩っぱいというか。ハンバーグも自分で作ったやつの方が好きかも。それでもお腹が空いていたのは確かで、僕はあっという間に食べ終わってしまった。
    お茶を飲みながら、まだ食事の最中の渚さんを盗み見る。僕はお茶碗一杯で満腹になったけど、渚さんの食べっぷりに驚いてしまう。山盛りになっていたご飯はもうほぼなくなっていて、おかずも残り少ない。でも勢いはまだ衰えていないような。
    「……あの、おかわり装ってきましょうか?」
    あ、しまった。いつもの癖で、話しかけてしまった。叔父宅ではきちんとしたタイミングで声をかけたり率先してやらないと、気の利かない子だと怒られ嫌味を言われていたから。その度に僕は家政婦さんじゃない、と心の底で反発していたけれど。……嫌なこと思い出したな。
    「ありがとう、シンジ君。お願いしてもいいかな」
    僕に話しかけられて視線を上げた渚さんが、少し困ったような、照れたような顔で笑った。こんな顔もするんだ。立ち上がって隣に移動した僕は、空になったお茶碗を受け取る。
    「……必要ならおかずも持ってきますよ」
    「いや、それは自分で」
    「お世話になってるから、それくらいはさせてください」
    「……そうかい?」
    「冷蔵庫、開けますね。おかずはどれでも良いんですか?」
    「あぁ、何でも構わないよ」
    家政婦さんが作ったものだから、雇い主の好みに合わせてあるだろうけど一応。冷蔵庫を開けて手前にあるタッパーを取り、レンジにかけた。装ったお茶碗を渚さんの所に運んでレンジに戻る。
    まだ温め中のおかずをじっと見ていると、背後から微かに笑い声がした。バッと振り向くとこっちを見ている渚さんと目が合う。口元を隠しているけど、肩が震えてるのはバッチリ見えた。何だろう? 気になるけど、ピーーと温め終了のアラームが鳴ったので、僕はタッパーを持ってテーブルに向かった。
    「お待たせしました。……あの、どうしたんですか?」
    まだ笑いを堪えてるみたい。僕、何か変なことしたかな。失礼なことをしてしまったら怒るだろうし、でも笑われるのも何か嫌だ。少し距離を取りながら名前を呼ぶ。
    「渚さん?」
    「ごめん。嬉しくて……こうしていると本当に結婚しているみたいだね」
    「……えっ?」
    「結婚するっていいものだね。こんなふうに癒しも与えてくれるから、君と結婚出来て良かったよ」
    結婚という単語に反射的に顔が熱くなる。契約ではそういうことになるんだろうけど。僕と渚さんは本当に結婚する訳じゃないのに、なんでドキドキしてるんだ。違うこれは驚いただけ。驚いて動悸がしているだけだから。
    緊張のせいなのかぎこちない動きで椅子に座ると、その様子を渚さんの視線が追いかけてくる。僕なんて見てても面白くもないと思うんだけど。
    「演技なのはわかってますけど……ビックリするので……」
    「そうかい? 夫婦が仲睦まじいことはいいことなんだ。特に今回は祖父の目を欺かなくてはならないからね」
    確かに結婚を約束するような恋人同士なら照れたり動揺したりしないはず。一度やると言ったのだから、慣れる努力はしなければいけない。だけど、圧倒的な時間が無さすぎる。
    「成功させる為にも本物の恋人同士のように振る舞わなければならないよ」
    「でも僕、恋人なんていたことなくて……どうすればいいのか……っ」
    中学生の思う恋人同士と大人と言う恋人同士では、多分きっと大きな差があるだろう。おままごとのような演技じゃ大人を騙すことなんて出来ないだろうし。
    「シンジ君、そんなに気を張る必要はないよ」
    テーブルの上で握りしめていた僕の手に渚さんのものが重なる。ふわりとした感触の後に温もりを感じた。



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