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    冷や酒🍶

    @hiyazakeumai

    カヲシンとか書いてる

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    冷や酒🍶

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    結婚から始まるカヲシンっていいよね
    【庵カヲシン】

    #偽装婚
    shamMarriage

    偽装婚カヲシン①数年前両親が交通事故で他界した。当時小学生だった僕は親戚の家で生活することになる。引き取ってくれたことには感謝していたけれど、実際は家族と言うよりは小さな頃から家事を手伝っていたこともあり、家政婦のような扱いをされていた。
    それでも邪険にされないだけでもマシだと思う。けれど僕が中学二年になった時、叔父の事業が失敗してしまい多額の借金を背負うことになってしまった。
    昔、叔父たちが話しているのを聞いたことがある。もともと僕の両親が残したお金を、後見人になった叔父が勝手に使ってたらしい。一応後見人だし、身内だし、世話になってたからそのことは仕方ないと諦めてたんだけど……。
    そしてついに借金返済出来ず、叔父の会社が大手企業に買収されることになった。叔父は職を失い、住む場所も追い出されるかと思ったんだけど、何故かそのままの役職で会社に残ることが許された。
    家も出なくて良いらしい。学校も通えることになって良かった、と安堵していたけどもその話には裏があった。その大手企業の経営者から、僕の後継人になりたい、と申し出がありそれを承諾したと、叔父から聞かされたのだ。
    「一体どういうことですか?」
    「もう決まったことだ。先方は悪いようにはしないと言っている」
    「そんな……」
    何度聞いても詳細は何も教えてくれず、ただの子供の僕には抵抗する術もない。知りもしない赤の他人の元に行かなきゃいけない。そんなこと納得出来る訳もなく、自分にできる抵抗として家出することにした。ボストンバッグに着替えと僅かなお金。それらを持って僕は家を出た。
    行く宛てなんてない。友達には迷惑はかけられないし、未成年だと寝る場所も確保できない。どんな目に合わされるか分からない人の所に行くよりは、公園で野宿する方がマシだと思う。
    この家出はたぶんそんなには続かない。食べる物もお金も住む場所もない子供に何が出来ると言うのだろう。ただ、言うことを聞かない扱いづらい子供だと知ったら後継人の話はなくなるかもしれない。それだけが唯一の希望だった。
    叔父の家から五つくらい離れた駅の近くの公園。もっと遠くへ行った方がいいけれど知らない土地は怖かったので諦めた。ボストンバッグを前に抱えてブランコに座る。日は翳り辺り一帯は、眩いオレンジ色に染まっていた。
    (これからどうしよう……)
    幸い雨風を凌げそうな場所はあった。ドーム型の滑り台の下とか。でもずっと留まっていたら怪しまれるだろう。そもそも後継人になる人物が自分を探しに来るとも限らないのに。
    父さんと母さんが事故で亡くならなければこんなことにはならなかったかもしれない。叔父を恨んでももう遅い。涙の膜で視界が歪んで、それを隠すように下を向いた。
    「……こんな所で何をしているんだい?」
    突然の人の声に驚いて僕は目を見開いた。視界の中に誰かの靴が見えて、徐々に視線を上げるとそこに立っている人物がはっきり見えた。夕日に輝く髪と、それよりもさらに濃い色の赤い瞳の背の高い男性だ。
    「…………なにも、してません。もう帰りますから……」
    「家出かな?」
    「違います……っ」
    ここはダメだと思った。怪しまれてすぐに通報されるに決まってる。最悪だ。あまり土地勘はないけれど、仕方ない。他の場所を探さなきゃ。
    「ちょっと待って」
    「っ!?」
    背後から肩を掴まれて驚きのあまり飛び上がりそうになった。手を振り払って距離を取ってから男の人を睨む。その時、初めて男の人の顔を見た。
    光に透けるような綺麗な人だった。男の人に綺麗はおかしいかもしれないけれど、それ以外に当てはまる言葉が見つからない。そんな場合でもないのに見惚れてしまって動きが止まった。そんな僕に向かって男性は柔らかく微笑んでみせた。
    「困っているなら助けになるよ」
    怪しい。聞き間違いかと思ったけれど、そうではないらしい。じっと見つめてくる視線に居心地の悪さを感じて視線を逸らした。
    「…………そんなこと言われて、ついていく訳ないでしょう」
    「いいのかい? 見た所学生のようだし、行くあてもないんだろう。僕なら二、三日くらい宿を提供出来るけれど」
    確かに困っているけれど。赤の他人に下心もなく親切にするだろうか。目の前にいる人物は、危険な雰囲気は感じられないけれど、信用は出来ない。大人は信用出来ない。
    「僕を助けたって何もないですよ。お金も持ってないから、お礼だって出来ないし 」
    「そう言うんじゃないよ。君の、助けになりたいだけだ」
    「…………」
    怪しい。怪しいとは思うけれど、何もかもに嫌気が差していた僕は自暴自棄になっていたのだと思う。普段なら、警戒心の強い僕は、こんな怪しげな人に絶対について行かないのに。僕は男だし身の危険はないだろうと思ったから。
    「衣食住は保証するし、好きなだけいてくれて構わないよ」
    「…………本当に、良いんですか?」
    「ああ」
    少しでも現実から逃れたい気持ちが強かった。彼の世話になれば、嫌なことを先延ばしに出来る時間はより長くなる。
    でも、迷惑をかけてもいいのかな。彼の微笑みは穏やかだけれど本心が読めない。危ないと思ったら全力で逃げよう。どうでもいいとは思っているけど死ぬのは嫌だ。
    「ついておいで」
    くるりと踵を返した男性に声をかけられて一瞬悩んだ。けれど手招きされて、足が勝手に動いてしまう。追いかける僕を見て、彼が安堵したように笑った気がした。
    電車を乗り継いで移動し、連れて来られたのは外観の立派なマンションだった。
    「ここに住んでいるんですか?」「そうだよ」
    ガチャンと背後でドアが閉まる音。逃げ道を塞がれたような気分になる。まだ何もされてはいないけれど、用心するのは悪いことではないはず。
    ここまで着いてきておいて今更なような気もするけど。振り返らずに先を行く男性を追いかけると、ドアの前でくるりと踵を返した。ビクッと、身体が硬直する。
    「君はこの部屋を使うといい」
    指差す先にドアがある。僕がこくんと頷いてみせると、男性はまた背を向けてその先にあるドアを開けた。広い家。何部屋あるんだろう。僕を泊めてもいいと言っていたくらいだから、たぶん一人暮らしなんだろうけど。男性に続いてドアを潜った。「どうぞ座って」
    ドアの先はリビングだった。広くて綺麗に片付いていると言うよりは生活感のない空間。無機質で、まるで人の匂いのしない。モデルルームみたいな部屋だ。指さされた革張りのソファに、じりじりと近づいて腰を下ろす。本当についてきて良かったのだろうか。
    「コーヒーでいいかな。今はそれしかないんだ」
    「……お、おかまいなく……」
    緊張していて喉も乾かない。何かあった時のために足元に置いたボストンバッグを手繰り寄せた。座った位置から斜め横にキッチンに立つ男性の姿が見える。
    蒸気が上がり、コーヒーメーカーが作動する音が聞こえてきた。室内に聞こえる音はそれしかない。恐怖は感じないけれど、不安は消えないままだ。出来上がったコーヒーをカップに移す動きは滑らかで優雅だった。話をしていても嫌な感じはしない。だからって安心出来るわけじゃないけど。
    「ブラックで大丈夫かな。砂糖ならあるけれど……」
    僕の前にカップを差し出しながら彼が言った。子供と侮られるのが嫌で、僕はそのままカップを受け取る。それを確認して僕の正面に男性が座った。
    本当はブラックはあまり得意じゃない。けれどせっかく用意してくれたのだからと、淹れたてのコーヒーに口をつけてた。仄かな苦味を感じるのと同時に温かさにホッとする。
    「まだ不安そうだね」
    「……だって、困っているからって下心なしに家にまで連れてきたりしないでしょ」
    僕みたいなどこにでもいるような子供が困っていようが普通は気にしない。自分に関係がなければ気に止めることなんてない。世の中はそういうものだ。そう答えると男性は一瞬目を丸くして、やんわりと笑みを浮かべた。
    「そうか、君にとっては僕に下心があった方が安心できるのか」
    「そういうわけじゃ、ないですけど」
    下心や悪意のない完全な善意が存在しないとは思ってないけれど。それを向けられるべきは僕じゃない。僕にはそんな価値なんてないのだから。
    「……怯えさせたくなくて隠していたけれど」
    「……え?」
    「実は君に頼みたいことがあるんだ」
    やっぱり何か裏があったんだ。予想はしていたけれど、そのことに心の奥で落胆する。一体何を要求されるんだろう。時間にして数秒の沈黙のあと、男性がテーブルにカップを置く。食器の立てるカチャという音に大袈裟なくらいに肩が揺れてしまった。
    「あの、僕……お金とか持ってないですよ。身代金とか、払う人もいないし」
    どこかに売り飛ばされるとか、臓器を売らされるとかあるかもしれないけど。口に出すのは怖い。視線を合わせるのも怖くなって、テーブルの上を凝視する。握りしめたカップの中身がゆらゆら揺れた。
    「何を言っているんだい?」
    「だって……」
    下心があると言われたら誰だって身構えるに決まってる。ぎこちない動きでカップをテーブルに置いて、ボストンバッグのショルダーベルトを握りしめる僕を見て男性は笑った。
    「別に今すぐ君を取って食うわけじゃないよ。僕の提案は、君にも利益があると思うけれど」
    「本当に……?」
    「聞いてみる気はあるかい?」
    「……僕にできるか分からないのに……もし無理だったら」
    「その時は諦めて別の方法を探すよ。もちろん、無理だったからと言って君を追い出したりはしない」
    悪い話じゃない、かなとは思う。彼の頼みさえ叶えることが出来れば、暫くは屋根のある場所で時間が稼げそうだし。少し悩んで、聞くだけ聞いてみようと決める。
    顔を上げて、こくりと頷くと男性は嬉しそうに微笑みを浮かべた。それから、僕を見つめ姿勢を正す。それを見て僕も同じように姿勢を正した。何を言われるのかとドキドキする。自分が唾を飲む音が聞こえた。
    「単刀直入に言うと、僕と結婚してもらいたいんだ」
    「…………え? 今、なんて……」
    「うん? 聞こえなかったかな。君には僕と結婚してもらって、僕の妻になってもらいたいんだ。それが僕の頼みだよ」
    「………………は、ぇ?」
    ますます訳が分からなくて言葉が出てこなくなる。何を言っているんだ、この人。頭の中にハテナがいっぱい浮かんでいるみたい。
    「あの……け、結婚って言いました?」
    聞き間違いかな。きっとそう。だって普通、出会ったばかりの人間と結婚しようとは思わない。いくら同性婚が出来るようになったからと言っても、そもそも僕はまだ未成年だしっ。
    「そうだよ。僕と結婚してくれるかな」
    「……だ、ダメだよっ」
    「どうして?」
    「どうしてって……僕、まだ未成年だから……」
    十四歳では結婚は出来ない。そんなのは常識だ。仮にもし僕が十八歳だったなら可能だったけれど。まさか同居する為に、結婚してくれと言われるなんて思わなかった。
    「ああ、歳のことは気にしなくていいよ。本当に届けを出す訳では無いからね」
    「それって、どういうことですか……?」
    「表向きだけ、僕の配偶者として過ごしてくれればいいんだ。時々同伴して出かけてもらうことになるけれど」
    「あの……恋人とか、いないんですか?」
    変なことを言う人だけど、優しそうだし、見た目はとても格好良いのだから女性が放っておかないだろう。
    「……そういう人がいれば、良かったんだけれど」
    ここまでずっと穏やかな表情を浮かべていた男性が僅かに眉間にシワを寄せた。実は、と話してくれた内容はこうだった。彼は青年実業家で仕事一筋に生きてきたらしく、今まで恋人を作ったことがなかった。
    それを心配した祖父に無理矢理縁談を勧められる。何度断っても諦めない祖父と、婚約者候補の女性に苛立ちが募り言ってしまったのだという。
    「結婚を前提に付き合っている人がいて、今度結婚する」
    と。そんな相手はいなかった。しかし流石に結婚すると言えば大人しくなるかと思ったけれど、今度は祖父が結婚相手を紹介しろとうるさくなったらしい。



    つづく。


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