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    虎日の虎が日に告白してフラれた話。

    #虎日
    tigerDay

    未来予測図俺が思い切って日車に告白して「子供だからだめ」だとバッサリとフラレてしばらく経つ。めっちゃ凹んだしやらかした気持ちもあったけど、さすがにだいぶ落ち着いたと思う。今日は授業も終わって任務もなく校舎を歩いていると、書庫を整理している日車と日下部先生を見つけた。ジャケットとネクタイは壁に寄せられた椅子の背に掛けられて、袖も捲られている。首元のボタンもゆるめてあって、いつもキッチリしている日車にしてはめずらしいラフな格好だ。
    「日車!日下部先生!」
    声を掛けて駆け寄る。
    「なんか片付け?手伝おっか?」
    「ああ、書類の整理をしていたんだ。前任者が出したものを適当に戻すから分類がバラバラになっていてな」
    「あちゃー…でも俺もそういうのやっちゃう側かも」
    日車がふっと目を細める。その顔があまりにも優しくて俺は心臓がギュッとなる。
    「つか前任者って誰?その人が元通り整理すればよくね?」
    「五条だよ。文化財レベルの蔵書を好き勝手しやがって司書が嘆いてたぞまったく。あの時もうちょい時間に余裕があったらこの辺あいつに片付けさせてから戦いに行かせるべきだったな」
    面倒な仕事を押し付けられた日下部先生は憤懣やるかたなしと下唇を尖らせてだいぶご立腹の様子。
    「そんな無茶を今更言ってもしょうがないだろう」
    呆れたように笑う日車に「わかってんよ」と拗ねたように言う日下部先生。ズキンと胸が痛んだ。2人は仲がいいな…と思った。
    「2人は仲がいいんだね。歳近いとそんな感じなん?」
    2人の顔が同時にこちらを向く。思ってた事が口から出てたらしい。
    「あーそりゃまぁ、酒飲める奴らが少ないからたまに飲みに行ったりするくらいだけどよ」
    「飲み会といっても食事ついでに呪力操作やシン陰の解説をしてもらっているから、ほとんど勉強会のようなものだが」
    顔を見合わせて言う2人。たしかにまだ色々問題は山積みだし、先生達は遊んだりするほど暇がないのかもしれない。
    「お、あー悪い伊地知から呼び出し来た、すまんがちょっと行ってくる。お前らももう途中でいいから明るいうちに帰れよ」
    そう言って先生はジャケットを片手に職員室へと小走りで去っていった。
    「とりあえず今日はこの棚を並べたら終わりにしよう」
    「りょ!…んでも分類ってどうなってんの?」
    「背表紙に貼られている文字と数字の組み合わせで……いや、分類は俺がやっていくから、虎杖はそれを渡された順番通りに棚に並べてくれ」
    「オケオケ」
    俺も上着を脱いで椅子に掛け、渡された本を指示通り並べていく。しばらく没頭して作業してたらあっという間に時間が過ぎて、気付けば外はもう真っ暗だった。
    「虎杖、これで終わりだ頼む」
    「うっす!」
    並べ終えてざっと床を掃き掃除して部屋の鍵を閉める。鍵は職員室に戻しておくから、虎杖は寮に戻っていいぞと日車が言う。腹ペコになってた俺にはありがたい提案でそのままサンキュー!と寮に駆けて行った。



    風呂上がりに食堂前の自販機に寄る。最近はスポドリをファンタで割ったのがマイブーム。伏黒も釘崎も別々に飲めばよくない?って言うけど、喉が渇いている風呂上がりに甘過ぎずかつシュワっとしたフルーティーさがゴクゴクいけてうまいと俺は思っている。そういえば日車にも飲ませた事があったっけ。炭酸飲料自体が久しぶりだから公平な判断はできないとか言ってた。マズイとかうまいとかじゃなくて真剣に考えて言うあたり真面目な日車らしいし、そういうところいいなって思った。
    さて帰るかと顔を上げた時、食堂の奥に少し灯りがついているのに気がついた。覗くと日車と日下部先生が缶ビールを飲みつつ何やら話していた。また、ズキンと胸が痛んだ。日車にフラレた理由の、『君が子供だから』と言われたあの無念さが蘇る。俺が例えば大学生くらいで、もう酒も飲める歳で、日下部先生みたいに一緒に酒を飲み交わせいたらよかったのかな。爺ちゃんも酒の席で大人は仲良くなるんだと近所の友達とよく飲みに行ったりしてた。子供だから俺は留守番。たまに連れて行ってもらってもタバコくさいし、酒のつまみは塩っぱくてジュースに合わんし、結局1人で先に帰ってた。俺が『子供』だから『大人』の楽しみ方がわかんないって、一緒にいてもおもしろくないって日車も思ったんだろうか。
    「何してんのお前。風呂上がりか?さっさと部屋戻らねえと風邪引くぞ」
    いつの間にか目の前に日下部先生がいた。向こうも俺の姿に気が付いてたらしい。
    「つーかちょうどいい、日車がお前ご指名だから行ってこいよ」
    「はえ?指名?」
    「話があんだと。俺は風呂入って寝るからじゃあな」
    話と言われましても…とさっきまでぐじぐじ考えてた事が頭の中をぐるぐるして正直話し辛い。先生はさっさと行ってしまって、俺はポツンと取り残されて奥のテーブルに座っている日車を見る。話ってなんだ、また凹むような事を言われるんだろうか。日車がそんな意地悪な性格じゃないのはわかってるくせになんだか卑屈になってしまう。……ってもうフラれてんだし、まぁいいか。俺は子供だからダメなんだし、そのダメを再確認して、もうキッパリと諦めるとしよう。そう決心して食堂に入った。

    とりあえず向かい合って座る。さっき買ったスポドリを開けて一口飲むと、日車が少し微笑んだ。
    「…今日は混ぜなくていいのか?必要ならコップを取ってこよう」
    立ち上がろうとするので慌てて止める。
    「いいって大丈夫、洗い物出るし、平気!」
    「そうか」
    腰を下ろして、日車もビールを一口飲んだ。テーブルには先生とつまんでたであろう乾き物と小分けのチーズが転がっている。その視線に気付いたのか、「よかったら食べてくれ。日下部があれこれ開けるからだいぶ残ってしまった。俺はあまり食べないと言ったのにまったく…」と言う。文句を言いながらもどこか楽しそうでもあって、俺は浮かんできたモヤモヤを打ち打ち消そうと鷲掴みで乾き物を取ってバリバリと食べる。日車がただでさえ大きな目を更に丸くして、ふっと細める。
    「食欲旺盛だな。俺も学生時代はよく食べた記憶があるが、君と比べると霞んでしまうな」
    その顔、目を伏せて柔らかく笑う、日車のそういうところがいいなと思う。今まで出会ってきた大人とは全然違う種類の大人。爺ちゃんみたいにガミガミ言わず、騒がしい雰囲気がなくて、ゆったりと俺に歩調を合わせて話をしてくれる、そういうところを好きだと思ったんだ。
    「今日は手伝ってくれてありがとう」
    「え?ああ本のやつ?全然、俺も暇だったし」
    もう一掴み口に放り込む。適当に掴んだからわかんなかったけどミックスナッツだったらしく、ピスタチオの殻がガリッと歯に当たった。かまわずに噛み砕いて飲み込む。
    「…君に謝りたいと思ってたんだ」
    「んぐ!?」
    スポドリで口の中の残りを流し込む。
    「…謝るって何。日車なんもしてなくない?」
    「先日誤解をさせてしまったと思う。俺の言葉が足りなかったせいで君を傷付けたと思う」
    真っ直ぐ目を見て言う。死滅海游で突然呪術の世界に放り込まれて、人の命も自分の命も紙切れより軽く扱われたあのゲームで心を擦り減らして、ひたすらに自分を責めて俯いていた日車が、今真っ直ぐ俺を見ている。罪悪感と自罰のために自分を捨て駒にして宿儺に立ち向かったあの時とは違って、罪も罰もなにもかも全部を背負って、この呪術界で生きる覚悟を決めたのを知ってる。
    「あの時君を『子供』だと言ったのは決して幼稚だとか未熟だと言いたかったわけじゃないんだ」
    「そんな事?…大丈夫だよ、だってほんとの事だし。実際子供っしょ俺、未成年に手を出したら日車の方が犯罪者になっちゃうじゃん。法律とかそういうの日車の方が詳しいしさ」
    居た堪れなくて明るく返したけど、日車は相変わらずこっちを真っ直ぐ見ていた。
    「違う。そうじゃないんだ」
    「……じゃあ何が違うの」
    明るく誤魔化したかったけど無理だった。俺の中でもずっと引っ掛かってた。好きっていうのは大好きって気持ちが強ければなんとかなると思ってた。歳の差なんてなんの妨げにもならんと思ってた。
    「日車いつも難しい言葉で言うからわからんのよ。俺はバカだからちゃんと言ってくれなきゃ…」
    「君は馬鹿ではないだろう」
    真っ直ぐ言われて黙ってしまった。
    「俺が君を『子供』だと言ったのは…単純に生きている時間が短い事を言いたかったんだ」
    「……うん」
    「生きている時間が短いという事は、自分の経験を中々比較できない」
    「……」
    「あんな出来事を経験した君にしたら説得力がないかもしれないが、まだ君の世界を見る力は発達途上なんだ」
    「それってつまり未熟って事じゃんか」
    日車が首を振る。
    「未熟なのではなくて成長途中なんだ。君は世の中の辛い面ばかりを見てきた。それでも君は世界が暗い面だけじゃなく光だってある事をちゃんと知っている」
    テーブルの上で組んでいる日車の手にぐっと力が入る。
    「…そういう風に俺は君に、もっとたくさん世界の色々な事を見て、感じてほしい。視野を広く持って色々な事にふれる自由は誰にも邪魔をされてはいけないし、守られるべき権利だと思う。俺はこれからたくさん成長していく君の枷になりたくなかったんだ」
    「……つまり俺はまだ経験不足って事?」
    「要約がうまいな。ほら、やっぱり君は馬鹿ではないだろ」
    優しく目を細められて身体中の力が抜けた。
    「視野が広がったら…今見てるすごいと思ってる事よりもっとすごい事があるかも…って事?」
    「ああ」
    「んあーーー!褒められて励まされてるようで……やっぱり俺フラれてんじゃん…ずるいよ…」
    苦笑いが浮かんだけど、なんか頭の中はスッキリしてた。
    「たくさんの人に出会って学べば、俺のような人間を見た事ないタイプだからと特別だとは思わなくなるだろう」
    「なんで俺の気持ちまで知ってんの!言ってなくない!?恥ずいんですけど!」
    「俺は特別でもなんでもなくてどこにでもいるただの大人だ。世の中にはまだたくさんの人間がいる。…さぁ話は終わりだ、もう遅いから部屋に戻ろう」
    「あのさ……だとしてもさ、日車は俺にとっては特別だよ」
    悔し紛れに気恥ずかしいセリフを言ってしまったけど、照れたように日車も笑っていたからまぁいいか、と思った。
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    ガ ネ

    DOODLE虎日で篤寛の虎篤寛の3人暮らし小話。
    前作の『キャンディゲーム』の続きですが単体で読んでもらっても大丈夫かと思います。
    ファンファーレ週末の夜。日下部先生、日車、俺の順番で3人ソファーに並んでテレビを見ている。昔の名作映画再配信だとかで、日車も日下部先生も前に観た事があるらしい。俺は初めてなので、ネタバレ禁止ね!と伝えてわくわくしながらポテチとポップコーンを用意する。更には映画鑑賞には絶対コーラっしょと家で一番デカいグラスにたっぷり注ぐ。日車と先生はビールで一応俺にも飲むかと勧めてくれたけど、正直まだあんまり酒の味がわからんくて苦いので丁重にお断りした。
    途中で日車が席を立つ。
    「どしたん?一旦止める?」
    「酒を取ってくる。君は初めて観るんだろ、気にせず通しで楽しんでくれ」
    「俺も酒ほしい」
    「いつものでいいか?」
    「おうサンキュー」
    日車は2人分の空き缶を持って台所に消えていく。日下部先生の『いつもの』とは焼酎の水割りで、日車のはウイスキーのソーダ割り。2人が留守の時にそんなにおいしいのかなとちょっと味見してみたけど、度数が強くてブワッとなってしまってめちゃくちゃ薄めてなんとか飲み干した。甘くなくてひたすらドライで正にオトナの嗜み。俺はまだチューハイでいいやと思った。それは日本酒の時にも思った。先生が釣りに行くと、その日の午後は大体俺と日車でスーパーへお買い物デート。夕飯は先生の釣果が主菜だから、それに合う食材や酒を買いに行く。和食が多いから酒は日本酒を買う。「飲みやすいやつなら君もいけるんじゃないか?」と酒屋さんで一緒に選んだけど、いざ飲んでみると全然マリアージュ的な事はわからなかった。
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