かわいい後輩の続き(未完)「マジで言ってんのか?」
「ああ。」
「いや駄目だ先に病院行け熱中症かプリオンかクールー病かわからねぇが取り敢えず治療してからでも遅くな」
「黙れ。貴様が何を言おうとこれからやる事は変わらん。さっさと洗ってこい。」
「....どこを。」
「ケツをだ。途中でクソが出てこないよう念入りに洗え。」
「ハァ〜〜〜〜?!正気かぁ!?」
「俺は冗談は好かん。早く行け。」
バン、と音を立てて浴室の扉は閉められた。一人残された弓ヶ浜の手には、家主のロロンに押し付けられた洗面器と、その中の俗物的色合いの液体、頭の悪いデザインの注射器型のプラスチックがある。なんでこんな事になってんだっけと、浴室の鏡に写る己に弓ヶ浜は問いかけた。
最初は宴席だった。いつものメンツ(劉、飛、ニコラ)と酒を呷っている最中に、男がやってきてこう言った。「賭けをしよう、弓ヶ浜。」やってきた男、ロロン・ドネアは遠方を指差して、あのバーから最初に出てくる人間は男か女か、それを賭けようと言う。深く考える前に「勝ったら?」と弓ヶ浜は問うていた。その問いに、ふ、と双眸を緩めて、何でも言う事を聞こう、とあの堅物は言ってのけた。なんだコイツという嫌悪より、興味関心が勝った末に乗った賭けは弓ヶ浜の負けだった。弓ヶ浜は男に賭け、出てきたのはコンパニオンの女だったからだ。いざ黒星を取ってから、重大な過失に気づく。何でも言うことを聞くのは、己にも適応されるのだと言うことを。急ぎ振り返れば、満足気な顔の男が、ジョッキを差し出していた。「注いでこい。」それだけだった。そうして、あの晩程のいいパシリに使われてから、稀に賭けに誘われるようになった。なんでも言う事を聞く、という大層な権利は、水を買ってこいだの、荷物を持てだの、資料を持って行けだのといった下らない事に使われた。弓ヶ浜の勝利もそれなりにあったが、大抵飲み代をせびったり、交通費をせびる事に当てられた。ロロンは嫌な顔せず要求に応じたが、いつかの変顔をしろ、という注文に全力で返されてから、内容が変化して行った。この時点で気づくべきだったのだ。あからさまに距離感がおかしくなっていたことに。賭けはいつの間に二人きりの場所で執り行われ、外部の目が入らなくなっていたし、なんでもする券はサシ飲みの口実と化していた。いつもの達観し不動の姿勢とは違い、緩く口角を上げてこちらに耳を傾ける様に高揚を覚えるようになったのはつい最近だ。長く煉獄に身を置き先達としての立ち振る舞いを求められるロロンだからこそ、己のような金以外執着のない新参者にしか見せられない側面を見ているようで、悪い気はしなかった。だから、つい先刻の賭けも、二つ返事で了承した。
「なぁ弓ヶ浜、お前は勘違いをしている。」
「はぁ?」
「お前はまだおしろいを叩いた段階だと思っているだろうが、現実は卵液を纏いすっかり揚げられ皿の上だ。
俺の要求を賭けを言い訳にすっかり飲んでしまった時点で、もう合意だ。
さ、息をしろ。ゆっくり愛でてやる。
つづかない