Knights of Night⑨「まぁ、そういったことが数十年──いや百年を超えたかの? 分からんがとにかくぽつぽつと続いての」
再開された吸血鬼の話を、俺は振り向かず耳だけで聞いた。
「とうとう朕が一族最後となったわけじゃ」
「どうしてそうだと分かった?」
聞いたのはサギョウだ。
「この時期に必ず、朕を訪ねてきていた、母が、来なくなったからじゃよ」
「お母さん……?」
「うむ」
気配の元は、少しずつではあるが近付いている、丘の頂上に向かうにつれて。
「元々外に出るより内にいるのを好む、というより、己の楽しみは内にこそあり、外には出ずとも幸福、そういった人であったことに加え、親族が次々居亡くなったのも手伝ってさらに居城に篭っていた、その母が、年に一度だけ、朕の世話焼きのために出たとき、屠られたのじゃろうと、母の訪ねてこないこの季節が数度巡ってきたとき、朕は悟った」
東の空は微かに白み始めている、夜明けまでもう然程の時間はない。
「故に朕はただひたすらに眠り続けた、自らの住まいで。外に出れば、いや出ずとも何らかの繋がりを持てば葬られる、ならば何もせぬのが得策と、幾年も、眠り続けた」
サギョウももう何も言わなくなった。丘の頂上はもう目の前。
「しかし朕を目覚めさせるものが現れてしまった」
「誰、だよ」
「人じゃ」
そこで吸血鬼はくつくつと笑った。
「いやなに、暫く動くものの居ない建築物は朽ち果てが早いじゃろう? 故に朕が眠っている間に人の間で朕の住まいが……ええと、何というんじゃったか……あの、悪しきものの蔓延る場所のような……」
「……心霊スポット、か?」
「それじゃ!」
俺の思い付きに後ろの吸血鬼が声を張り、掴んでいた手を強く握りしめた。
「そう、そういったものになっていたようでのぅ、訪ねてきたものがおったのじゃよ、そして朕の棺を開け、煌々とあかりを照らしたものじゃからたまらず起きてしまってのぅ」
辿り着いた丘の上。風が吹くせいで薄まった吸血鬼の気配を追うため一度立ち止まった。
「朕が目を開けたらその者たちは一目散に逃げて行ったのじゃが、そのときにその、眩しく光る物を落としていってしまってのぅ」
やれやれと手のひらを天に向けている吸血鬼。
「これはなんぞや? と、いじくりまわし、持ち主に返すべく辿り着いたのが、この街だったのじゃがな」
捉えた気配、その方向に向かう俺から──サギョウの中にいる吸血鬼は──まだ手を離さない。もう道は平坦だというのに。
「その際にうっかり我が一族を狙っている者に見つかってしもうてのう〜、今に至るというわけじゃよ!」
「うっかりじゃねぇよー!」
けらけらと笑う吸血鬼に対するサギョウの指摘に胸中で同意しつつ、嗅ぎつけた気配の元へ向かった。