Love All「お前、俺の顔好きか?」
聞かれたのは唐突で、僕は思わず
「……はぁ?」
と眉を顰めた。
「いや、その……」
自室だからとソファに踏ん反り返っている僕とは正反対に、先輩はどこかそわそわと落ち着きがない。
「お前言ったじゃないか、俺を、イケメンって」
……ああ言ったな、あの変な、襷の吸血鬼が署に来たときに。
「俺は自分のみてくれに不満はない」
だろうね、ご両親に対する態度からもそれは見て取れるよ。
「だが、人にはそれぞれ好みがあるだろう?」
視線だけで頷いた僕に先輩は続けた。
「だからあのとき少し……いやこれは嘘だな、かなり、嬉しかった。お前が、俺の外見まで認めてくれていたのだと、知ったら……」
……なんだよ、だらしないな、随分とまぁ、楽しそうに嬉しそうに、顔中緩ませちゃって。
そういう顔も、悪くないけどね。
とはいえちょっと癪、というか、悪戯心が抑えきれなくて、言ってやった。
「まぁ、確かに言いましたけどね」
締まりなくとろんと蕩けた目尻に添えた指。
「あのとき言ったのは、あくまで、世間一般の感覚で言えばイケメン、て、意味であって」
先輩の整った顔。それが──
「僕が好きかどうかについてまで、言及した覚えはありませんがねぇ?」
──僕の一言で、曇った。
「……っ、サギョウ、……?」
……ああ、いいね、その顔、も。
我慢しきれず口元がじわじわと歪むのが自分でもはっきりと分かる。
「だからね?」
引き攣った頬、そこへ下ろした指。
「いい機会なので今言いますけど」
殆ど摘む肉なんてないそこを、ほんのちょっとだけ指先で挟んで、
「僕ね、先輩の顔……だぁ〜い好きですよ!」
「は」
いびつなものじゃない、思いっきりの笑顔で宣言すると、先輩は目を丸くして口をぽかんと開けた。うんうん、今日はいろんな先輩が見られたな、とてもいい日だ!
さぁちゃんと謝らないと。
「ごめんなさい、ちょっと揶揄いたくなっちゃった、あのどさくさ中の些細な一言がそんなに嬉しかったんだなぁと思ったら、なんだか可愛くて我慢できなくて」
手を離して笑いを消して、僕は頭を下げた。
「すみません」
調子に乗った、湧き上がった加虐心を抑え込めなかった、そして先輩を驚かせた、不安にさせた。
やっていいことと悪いことがある。
付き合ってるったって、いや、付き合ってるからこそそこは曖昧にしちゃいけない。
俯いたまま数秒、先輩は何も言わずに──僕の頬っぺたを両手で包んで、上向かせた。
「そうか、好きか!」
間近で、視界いっぱいに広がる、きらきら眩しい満面の笑み。
「俺も好きだぞ!」
……あ、れぇ?
今度は僕が目を丸くして、しまった。
いいのかな? いや、よくないと思う、けど──
いいとしてしまおうか。
大好きな人が、大好きな顔で、底抜けに明るく笑ってくれているのだから。