ふわふわ ふるる 部屋に、先輩が来ると、空気が変わる。
ふわっとする。
だから眠っていても分かる。
そして、ただでさえ心地よい微睡みが、僕をゆっくり溶かしきってしまう。
そうなる前に、と、目を開けると、先輩は決まって
「起こしてごめん」
と、眉尻を下げるから、いつからか僕は眠ったままのふりをするようになった。そうすれば、先輩は僕の髪を撫でてから、寝る支度をして、そおっと隣に来てくれるから。
だから今日も、僕はふわっとした空気を感じて、眠りの底から少しだけ浮かべた意識で、髪を撫でられるのを待った。
期待どおりに触れられた手、だけど──
いつもより、冷たい。
ああそうか、もう夏の終わり、だからかな。
ぼんやりと思った、僕の頭から、手はいつまでも離れない。
やがて聞こえてきたのは小さな小さな、そして規則正しいゆっくりとした──
これは寝息。
気付いて目を見開いた。そうしたら、僕の頭に手を置いたまま、ベット脇に座り込んで、瞳を閉じてしまっている先輩がいた。
「先輩!」
声を掛けて揺すった肩も冷たい。
何かあったのかと動悸を跳ね上げた僕に、ぼんやりと瞼を上げた先輩はふるふると頭を振った。
「……あー、すまん……」
「いいですから、どっか具合悪いんですか」
「え……?」
布団を蹴り払って真正面から見つめた顔、は、きょとんとしていて──
「別にどうもしないが……? 単に……はは、気が抜けて、眠ってしまっただけだ」
それから照れ臭そうに頭を掻きながら、ふわっと笑った。
「いつもそうなんだ、お前の部屋に来てお前の顔を見ると……何というか気持ちがふわふわして、安心して、安らぐ。だからそのまま眠ってしまわないようにといつも抗うんだが……っふふ、今日は負けてしまったなぁ」
柔らかく緩み切った目元。
堪らず抱き締めた。
「こっち、きて」
途端に熱くなった先輩の首筋、だけど、手はまだ宙に浮いたまま。
「……したい」
今度の囁きは、耳朶の間近。
「……っ、まだ、風呂に入ってな──っ」
「うるさいなあんた」
唇を唇で塞いでようやく、先輩の両手は僕を抱いた。
「僕は、準備できてる」
戸惑う牙を舐め上げながら引き込んだベッド、先輩の、そして僕も、身体は、何処もかしこも熱くなってる。
「好きにして、いいから」
食むような口付けの中、言った僕に、
「……後悔するなよ?」
そう応えた先輩の眼は、真昼の太陽の様に眩しくなっていたけれど、
「上等」
返した僕の眼も、負けないくらいぎらついていたはずだ。