袖返ししは──「探し物を、しているんだ」
先輩はそう言った。
何を? と、僕は聞いた。だけど先輩は首を横に振る。
「分からない」
と言いながら。
分からないんじゃ手伝いようがない。そう呆れたら、
「この気持ちの、名前は、何なのだろうか」
先輩は、ただ、僕を見ていた。
「お前に俺を、見て欲しい」
見ている、ずっと、僕はあなたが僕を知る前から、見続けている。
「お前に俺を、知って欲しい」
知っている、あなたは何も、隠さないから。
「お前のことを、知りたい」
僕も、何も隠していない。
「お前の、特別になりたい」
特別、だよ、あなたは、とっくに。
「俺はお前が、特別で、唯一で、離れたくない、離したくない」
おんなじだ、と、思った。
「なぁサギョウ」
呼ばれたのに、声が出ない。
「この、お前に──お前だけにしか抱いたことのない気持ちの、名前は、なんなのだろう……?」
先輩はそう言うと、なんにもない、辺りを見回した。
「見つからないんだ、分からないんだ」
泣きそうな目で、どこを見てるの。
僕は、ここにいるのに。
「なぁ、サギョウ」
先輩はもう一度、僕を見た。
──そう、それでいい。
それはね──その気持ちの、名前はね──
『 』
夢は、そこで終わった。
目が覚めて、暫くぼんやりして、それから声を出して笑った。
そして仕事に向かって、先輩に会ったから伝えた。
夢に先輩が出てきたと。
先輩はどんな顔をするだろう。
どんな英雄役で出てきたのかと興味津々で聞くだろうか。
それとも、そうか、くらいの一言で流すだろうか。
雑談程度の気持ちで切り出した僕に、先輩は──
目を見開いて、黙りこくった。
その顔は、みるみる赤くなっていく。
どうしました? なんて声をかける隙もなく先輩はその場から立ち去った。
なんだ、一体。
まぁ、奇行はいつものこと。
気にしても仕方ないなと切り替えてそのまま仕事についた僕に、先輩は暫く、余所余所しかった。